第10話 緊急事態で籠城

ウイルスのせいで学校が休校となった


テニスサークルでは健先輩と啓介先輩にもウイルス感染が広がり、唯人くんや雷太先輩は濃厚接触者として自宅に隔離状態となってしまった。


学校からも通達がきて、私は唯人君となっちゃんも雷太先輩と会えなくなった。



そしてある夜、なっちゃんと梨美ちゃんとSNSで話していた。


夏希-なんか・・大変なことになっちゃたね。どうなっちゃうんだろう。


梨美-学校もしばらくは休校になるって言われてるしね。


栞-実家にも帰れないし、みんなにも会えなくて学校だけが唯一の救いなのに・・


夏希-ホントだよ3人の共通の科目だけが息抜きみたいなもんだったわ。


梨美-試験とかどうなるんだろうね?


夏希-あーそれは無くなっていーわ


栞・梨美-www



深夜まで3人でSNSで話をしていたが、そろそろ寝ようかという話になった時だった。



夏希-えっ!テレビつけてる?


梨美・栞-え、つけてなかった。


夏希-見てみて!!!



私はリモコンを取ってテレビをつけた。すべてのチャンネルが緊急ニュースになっていた・・


ニュースでは日本の街のあちこちで暴動が起きているらしい!



梨美-えっ?うちの近くだ!ヤバイヤバイ!


夏希-いや・・うちの近くでも暴動だって!


栞-えっ?そう?なんかこっちは特に何もなってないよ。


夏希-ヤバイって!なんかすごく周りが騒がしい!怖い!


梨美-うちの周りでもサイレンが鳴りっぱなし!


栞-うそ!?こっちには何も聞こえてこない・・いや遠くでサイレンが聞こえるみたいだけど。



・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・



すると二人からのSNSが一旦途絶えた。



栞-みんな大丈夫?



SNSの返事が返ってこない。既読にもならなかった・・



テレビを見ていると確かに、見覚えのある風景の場所で暴動が起こっているようだった。


慌ててベランダに出て外を見ると近所は静かだった。


「あれ?」


下を見ると町が荒れている?


「えっ?いつの間に?」


しかし暴動などはおこっていないようだった。普通に人たちがきょろきょろしていた。


「特に誰も暴れてはいないみたいだけど・・」


ブーブー


SNSの着信があったみたいだ。


-しおりん!絶対家でちゃだめだよ!危ないみたい!怖いよぉ


-なっちゃんも・・絶対だめだよ!まずは様子をみよう!


-なんなの?これ!こんなの日本じゃないよ!



するとキューキューキューと携帯がけたたましく鳴る。


「えっ!えっ!」



緊急速報-各地で暴動が頻発しています。家から出ないようにしてください。



携帯電話会社からの緊急速報だった。地震の時のようにいきなり音が出たのでビックリしてしまった。



ブーブー


またSNSの着信が来た。とにかくスマートフォンだけが頼みの綱だった。


-栞ちゃん大丈夫?


-大丈夫!梨美ちゃんは?


-こっちはなんか暴動が起こっているみたい!周りが騒がしい!


-出ちゃだめだよ!


-うん!怖い・・どうしよう。


-とにかく収まるのをまとう!


-うん


しばらく3人でSNSで近況を話していた。どうやらなっちゃんと梨美ちゃんの所は危険な状況らしかった。こっちは特に音がしないが遠くでサイレンの音が鳴り響いていた。



「怖い・・」



ブーブーブー


今度は電話が来た。


「お母さん!」


「栞!そっち大変なことになっているんじゃない?」


「うん!なんかそうみたい!」


「なんかこっちもね、中心の病院付近が騒がしいようだわ」


「えっ!そっちも?」


「そっちほどじゃないみたいだけど、緊急速報出てたよ。」


「とにかく!お母さんたちも気を付けてね!」


「栞も絶対に外に出ちゃダメだよ!」


「わかってる!でもこの辺では暴動は起きてないみたいだよ。」


「とにかく!鍵をかけて部屋から出ないで気を付けて!」


「わかった!とにかく部屋にいる!」


「大丈夫だから。すぐにおさまるから。」


「うん、ありがとう。お母さん。」



電話が切れた。とりあえず落ち着こう・・


朝が来れば収まるのだろうか?


「唯人君!」


SNSで唯人君に連絡した。


-唯人君そちらは大丈夫ですか?


しばらく待っても既読はつかなかった。


電話をかけてみることにする。


プルルルルル プルルルルル プルルルルル


何回コールしても出る事はなかった。



栞-なっちゃん!唯人君が・・つながらないんだ。どうしたんだろう?


夏希-雷太さんもつながらないの。大丈夫かな?どうしちゃったんだろう。


栞-巻き込まれたのかもしれない・・


夏希-どうしよう・・


梨美-とにかく落ち着こう。家にいるしかないよ。


栞・夏希-そうだよね・・


結局朝まで眠れずに3人でSNSで連絡を取り続けた。少しだけ眠くなってきてウトウトしてしまった・・


ブーブーブー・ブーブーブー


電話が来ていた。


「もしもし」


「ああ!よかった!しおりんどうにかしちゃったかと思った。」


「大丈夫。なっちゃんは?」


「こっちもなんともない、梨美ちゃんは?」


「連絡とってなかった。」


「私、何度も連絡してるんだけど・・」


「えっ?連絡ないの?」


「SNSも既読がつかなくて。」


「えー!大丈夫かな・・」


「・・巻き込まれてないといいんだけど。」



テレビでは夜通しずっとそのニュースをしていたが・・朝になったら静止画に変っていた。


「朝の番組やらないんだ・・」


「テレビもやってないね。」


「どうなってるんだろう・・」


「全然分からない。」


「どうしたらいいんだろう・・・・」


「しおりん!!」


「なっちゃん落ち着こう!」


怖すぎで声も震える。そして涙がでてきた・・どうやら電話の向こうでもなっちゃんが泣いている。


いくらチャンネルを変えても朝の番組をやっていなかった。


その地区でもきっと暴動がおこったに違いない。


情報はSNSのみになったが、どのSNSでも恐ろしい内容だった。



追われている!なんなんだ!あいつら!

俺の友達が噛まれたぞ!どうなってんだ!

たすけて・・今、〇〇区の○○町・・アパートにいます・・

彼氏が急に暴れ出して、逃げてきたけど・・どうして・・

無事な人!連絡ください!ここには10人の人が立てこもっています。場所は・・

警察はなにしてんだ!110番が通じねえぞ!



日本とは思えないような悲惨な状況が続いているようだった。



いったいどうしたというのだろう。とにかく頭は真っ白になっていた。


家で様子を見るしかない・・その時はただそう思っていた。


少し前に実家からの仕送りがあったので食べ物には困らなかった。とりあえずご飯を炊きそしてレトルトや冷蔵庫にあるものでご飯を食べることにする。


次の日から節約する事を考えて1日2食になった。


水やガスはまだ出るし電気も止まっていなかった。


いつ電気やガスが止まるのか分からなかったので、生ものは全て調理して冷凍庫に放り込んだ。



梨美ちゃんからもあのあと連絡があった、どうやら疲労で眠ってしまっていたらしい。


テレビはほとんど静止画になっていた。情報はスマホのSNSだよりだったが数日過ぎていくSNSでつぶやく人も少なくなってきている。



電気が通っていたので、極力電話出来る時はなっちゃんや梨美ちゃんと話をしていた。


今はなっちゃんと電話中だった。


「ご飯は何とかなってる?」


「しおりんみたいに料理上手くないからあまり食材なかったのよね。ただラーメンとレトルトカレーがあったから半分づつ食べてる感じ。」


「ここから行けたらいいんだけど・・」


「だめだよ!しおりん!家から出ちゃダメ!」


「わかってるけど、うちには若干食料があるから何とか届けたいんだけど。」


「大丈夫だよ!しおりん何とかなるって!この辺も騒ぎが収まったようだしそのうち動けるようになるって。」


「ほんとうだね。なんかこの辺には少し人がいるみたい。」


「そうなんだ」


「うん。たぶん隣に引っ越してきた人は間違いなく籠城してると思うんだけど。」


「心強いね。いつまでそうしていられるかだけどね・・」


「うんいずれはダメになるよね。」


「梨美ちゃんはどうなんだろう?しおりん話してみた?」


「ちょっとかけてみようかな。」


「うん!梨美ちゃんもきっと寂しいと思う。後で私からもかけてみるよ。」


なっちゃんと電話を切ってため息をつく。なっちゃんも本当は孤独で辛いのに、いつも私や梨美ちゃんに気を使ってくれる。


「なんとか助けたいのに・・」



スマホの電源が10%になっていたので、コンセントにつないだまま梨美ちゃんに電話をしてみる。


「栞ちゃん!そっちは大丈夫?」


すると梨美ちゃんの方から声をかけてくれる。


「うん、何とかしのいでるよ。梨美ちゃんの方は?ご飯はどうしてる?」


「うちはかろうじてパスタが買いだめしてあったから、それを細々と食べてるよ。」


「お米はある?」


「うーんないかな。でも大丈夫だよ!きっとこの騒ぎもそろそろ終わるんじゃないかな・・」


「うん!終わると思う。警察だって自衛隊だっているんだから何とかしてくれるよ」


「そうだよね。それまでは頑張ろうね!」


「情報がないから心細いけどSNSで情報拾ってるところだよ。結構うちらのように部屋に籠って助けを待つ人がたくさんいるみたいだね。」


「うん。このあたりも静かになったみたいだし・・きっと皆部屋で待ってるのかも。お隣とか行って見ようかとも考えたんだけどさ」


「でも・・気を付けたほうが良いと思う。暴徒が押し寄せてくるかもしれないから。」


「うん、栞ちゃんも気を付けてね。」


「梨美ちゃんも!」



いまだに唯人君も雷太先輩にも電話がつながらない状況だった。



1週間くらいは何とか食料も持たせていた。


外からはサイレンが聞こえるわけでもなく何も起こっていないみたいに感じるのだが・・


私はなっちゃんと電話していた。


「しおりん・・私ね食べ物無くなっちゃった」


「えっ!そんな・・じゃあうちに少しあるから持っていく!」


「ダメ!まだ緊急事態の解除になってないからだめだよ。なんか・・うちの部屋の上の人の足音が聞こえるみたいだから、ベランダから声がけしてみようかと思ってる。」


「上の人もまだ家に籠ってるんだね。きっと節約しながらいるんだろうけど・・」


「もうアパートの他の部屋の人と協力してでも、食料の調達しないと厳しい。」


「上の人は男の人かな?女の人かな?」


「たぶん二人で暮らしてたと思う。」


「そうなんだ・・なっちゃん慎重にね!巻き込まれないように!」


「うんしおりんも何とか切り抜けてね!」


「わかった。なっちゃんもだよ!」


「うん!」


なっちゃんが意を決して動くようだ。私もそろそろ考えなきゃいけないと思う。もう間もなく食料が尽きてしまうからだった。



梨美ちゃんに電話をかけてみる。


「梨美ちゃん!そっちは大丈夫?」


「栞ちゃん。パスタがなくなっちゃった・・あとは調味料しかないや・・」


「まだこっちには少しあるから持っていくよ!」


「だめだよ栞ちゃん!そこからじゃあ遠すぎる!外に出れるならコンビニかスーパーに行ってみるよ。」


「わかった・・」


「栞ちゃん心配しないで!というか栞ちゃんだっていつまでも持たないよね!とにかく切り抜ける方法を考えなくちゃ。私、護身のため包丁を持って近くのコンビニまで行って見ようかと思ってるの!」


「えっ!ひとりで!それは危ないよ!」


「危なかったら急いで戻ってくるから大丈夫!とにかく何とかしなくちゃ!」


「合流出来たらいいんだけど・・」


「栞ちゃんの家までは電車で4駅離れているし難しいよ。」


「そうだよね。とにかく気を付けて!無理しないでね。」


「わかった!栞ちゃんも気を付けて!」


「うん!」



そして私は・・なっちゃんと梨美ちゃんの話を聞いて、少しでも延命のために今ある食べ物を分けて、1日1食で切り抜けるようにしようと思うのだった。




そして・・



それっきり二人との電話の連絡が途絶えてしまったのだった。

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