第10話【完結】
「
まさやと噴水のへりに並んで腰かけ、
そう考えれば全て納得がいくのだ。まるで客を招き入れるように用意されていた紅茶セット。
「
「おかしいと思ったんだ、これ。父親は不倫がバレるのが怖くて、うちの家に近づこうとしなかったもん。私を認知してさえいない。なのに毎年クリスマスプレゼントなんてさ」
小さい頃もらったビーズのネックレス。たぶんあれも
先月から始めたアルバイトも、きっとこのネックレスを買うためだったのだろう。
無性に腹立たしかった。壊れてしまえばいい。ずっとそう思っていた。
だから今年、脅迫状にこう書いた。
<クリスマスの夜に全てを壊しに行く>と。
「家に入られるのは構わないけど、火をつけられると困るって
まさやは困ったように微笑んだ。
何も知らずヌクヌクと育ち、毎日笑顔で過ごしていた恵美と明日香、その存在が憎くて仕方なかった。
けれど、もしかしたらそれは違っていたのかもしれない。
幼い頃に父親の不実を知った
あれだけ几帳面な性格の人間だ、父親のことが許せなかった時期もあっただろう。
恵美(えみ)と恵美(さとみ)――――光と影。
片方がなければ、もう片方も存在しない。光があるところに必ず闇がある。それが理解できればお互いに歩み寄って上手く付き合っていくことが可能なのかもしれない。
勝手に拒絶していたのは
「たぶん父親への当てつけだよ、私の名前の漢字が恵美(えみ)と同じなのは。余計虚しくなるよね。どう頑張って私は
まさやはソッと
「恵美(えみ)になる必要はないんです。あなたは恵美(さとみ)さんなんですから」
「……私は……恵美(さとみ)?」
頭の中で何度もその言葉を反芻しながら、
そのまま2、3歩歩を進めてから、噴水に座ったままでいるまさやを振り返る。
「そう、私は恵美。
恵美はまさやに向けて、右手を突き出した。
まさやも立ち上がって、恵美の手を握りかえした。温かくて大きな手だった。
「――初めまして
それを聞いた恵美は、驚いて目を丸くする。
「嘘でしょ? 聖夜の奇跡って本当にあったんだ」
「ええ、僕が人工的に起こしましたけど」
しばらく見つめ合った2人は、とんでもない奇跡の到来にたまらず笑い声を上げた。
さっきまでの淡い粉雪は、地面に降り積もる雪へと姿を変え、聖夜の奇跡を演出するかのようにハラハラと2人の頭上に舞い降りてきた。
握り合っている2人の手に落ちる雪だけが、熱を感じて静かに溶けていく。
恵美はまさやの手をしっかり握りしめながら、自分の中で何かが変わりつつあるのを感じていた。
聖夜の奇跡が心の中の悪い澱みを全て消し去ってしまったのだろう、不思議と気持ちは晴れやかだった。
このままの状態が続けば、きっとあの子に笑顔で会いに行ける日が来るだろう。
――いつか。
そう、その日を信じて。
「メリークリスマス。――
END
イヴの訪問者 MARU助 @maru_suke
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