道路は蛇である(同題異文)

 極東の日の本に横たわる、この縦長で凸凹の島国は、世界中で、この国でしか話されない言語を使い、この国にしかない宗教がある。

 この国には、八百万の神がいる。

 天つ神に国つ神。龍神、鬼神に疾風雷神、現人神に黄泉神。和魂、荒魂、まつろわぬ神。

 なんてたって、お米1粒に神が七柱が乗っている国だ。ちなみに彼らは七福神とは別の神。

 地蔵に仏に阿弥陀様……も、ルーツは違えど今となってはそのひとつ。きっと神無月には神在の出雲まで、彼らもお出かけなさるのだろう。人がそうだと願うのならば。

 どんな信仰も神仏習合、何でもかんでも大歓迎。来る者拒まず去るもの追わず、懐を開いては、あっちもこっちも並列に拝み倒して、有難がって、神社の礼法で寺社を拝んで、説法のノリで聖書を開く。

 でもまあ、そんなに神様が大量にいたら、それでいて米粒に乗れるような小さな神様なら、間違って踏みつぶして仕舞うこともあるんじゃないかと、そんな不安もあるような無いような。

 そんなお国の宗教には、一応神道という名前もあるが、一体自分の知ってる神様の出自が、神道なのか仏教なのか、キリスト教なのか、イスラム教なのかも知らない人が大半だ。

 そもそも何が宗教で、どんなものだっけ? 儒教ってなんかの宗派? 孔子って仏様だっけ? まあいいや、菅原道真は神様だよね? 崇徳上皇は祟り神? 歴史上の人物? まあまあ、今となっては神様みたいなものだよね。あ、でかい動物発見、綺麗な石発見、とりあえず拝んでおこう。

 まあ、こんなに気楽に神様が見いだせるから、その分神様もポンポコ産まれてくるというのもあるのかも。

 なんにせよ、あっぱれ天晴れ、やれ尊いやら、目出度いやら、ええじゃないかええじゃないかの信仰です。

 閑話休題。

 話を戻して神道へ。神様の道と書いて神道。多分ここでの道って言うのは、本当に踏んで歩いてく目的地まで繋がっているアレじゃなくて、思うに人としての道とか、道を踏み外すとか言う概念的な何それなのではないかと、何も調べないまま、何となくで言ってみて、まあ、名前なんてなんでもいいじゃない、それ天晴れ。

 そんな日本の神話には、妹兼奥さんの凶相にぎゃん泣きした兄なる父なる神様が、顔を洗った時に生まれた有名な三兄弟の御柱方がいらっしゃる。見るなって言われたら、見なきゃいいのに、結果論。

 お日様の姉姫様と、お月様の弟皇子、大海原の末皇子、確かそんな感じ。

 上から順に、引きこもりと、影薄と、マザコンのトリプルコンボ。なんて言ったらおっといけない、不敬不敬と、こりゃ失敬。

 お母さんに会いたいと泣いてばかりの末っ子は、かの有名な須佐之男命。

 生まれたばっかで母離れしろというのも酷な話だけど、そもそもこの世に存在した時点で既に父しかいなかったのに、何故母の存在を恋しくなるほど知っている?

 けれど可哀想な子だろうと神様は神様。お母さんを恋しがって泣いちゃいけません、ちゃんとお仕事しなさい、ほら、お姉ちゃんとお兄ちゃんはちゃんとやってるでしょ?

 癇癪起こしたら生爪剥がされて下界に追放されました。世知辛い。まあ、彼も言うて、やっちゃいけないこと沢山しちゃいましたしねぇ。神様とはいえ、一個の家庭に口出す権利はありません。神罰が下っちゃう。

 さて須佐之男命は、下界に降りてから、ついさっきまでの傍若無人っぷりはどうした? と言いたくなる勢いで、善人にジョブチェンジ。人々を苦しめる怪物を退治してあげました。高天原では、お姉ちゃんの家の前にウンコしたり、織物小屋に馬投げ込んだりしてたくせに。

 きっとクシナダヒメに持ってかれちゃったんでしょう。なにをって? 初恋を。いやー、恋は偉大なり。やつは大変なものを盗んでいきました、あなたの心です、とかそんな感じのByとっつぁん。

 その怪物っていうのが、かの有名な八岐大蛇。首が八本ある巨大蛇であります、あな恐ろし。ちなみに首が八本なら、ヤマタじゃなくてナナマタじゃない、と思ったそこのあなた。八岐大蛇のヤマタは八又という意味ではないらしい。山だとか田んぼとか飲み込むほどでかいって意味だとか違うとか。漢字に意味があった時代か、ない時代か。字面通りで恋愛だったら、偉いこっちゃになっちゃった。

 さてはて、そんなでっかい蛇なら、遺骸も大層なものになったことでしょう。もしかしたら、いま私たちが踏んづけている道だって、案外彼または彼女の遺骸で出来た道かも。首それぞれの人格ってどうなってたんでしょうね、下半身がひとつなら、首の性別も身体上は統一されていたのかな? 何にしても、ほら蛇って長いし、首がいっぱいある蛇がぺったりと伸びたら、さぞかし通りやすい道になりそうな。真ん中は神様が通るのかな、神道か。

 五街道あたりが実は、八岐大蛇の首の成れの果てだったなんて素敵神話があったら、道をゆくのも楽しそうなものだけど。まあ、三本程足りないか。蛇の道は蛇って言うのは、蛇が行く道は蛇が行くべきって意味だけど、違ったかもだけど、道が蛇でできてたら、ちょっと怖いよね。

 けど、子供心にでっかい怪獣なんてちょっと憧れるもので、日本国内の全部の道路が、ある日突然大蛇になって進行し始めるなんて、日本列島侵攻物語が語られたら、それはまた充分な信仰になりそうなもの。

 3分間だけ須佐之男命が巨大化したりして。

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