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彼は頭の上から熱がゆっくりと抜けて消えていくのを感じた。それは仕事で部下が大失敗を犯した時の対応を考える時に似ていた。そして、そんなことが何よりも先に頭によぎった自分が許せなかった。
しかし、感情はついてくることはなかった。
「真二はね、知ってたんだよ」
彼女はまだ流れる涙を拭きながら、それでも、どうにかして私の知っている彼女であろうとしている。彼はそう思った。
「昨日の人に会う前からずっとね。私と一緒にいるってことがどういうことなのか。だから、知ってたから、私と付き合っていることを伝えた時の間に怒ったし、私たちの中にあの人がいることを許せなかったんだよ」
彼は「違う」という一言ですら言えなかった。
彼は真実であるはずのこの言葉を口から放つことを一切許されなかった。
それは彼女に写っていた彼という人間の本音と、その人間から放たれるペテンの愛の感情が、彼女の心を削り取っていた事実を今まさに知ってしまったからだ。
「でもね、それを責めるつもりなんて一切ない。真二が私のことを本気で好きでいてくれたことはわかってるから」
違う。そうじゃないんだ。彼は胸の中で何度もそう叫んでいた。そう答えるしかなかった。
でも、彼の口は固く閉ざされたまま。
「やっぱり真二は社長なんだよ。志を持って掲げて、その光に多くの人が集まって、そして今では光が見ず知らずの人にさえ、元気を与えてる。あなたのテレビを見る嬉しそうな顔を見ちゃったら、私のわがままであなたを、ただの人、になんてできないよ」
彼女は降参したとばかりに正直に笑った。
そして、やっと彼女の本当を見せた。
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