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「これを君に受け取ってほしい」


彼女の手を取り、開いた手のひらに指輪を置いた。


彼女の貼り付いた笑みは消えて、表情は震え出す。喜びと嬉しさと感動。そして、その全てを攫っていくような涙が彼女の開かない瞳からは流れていた。


「本当はもっと良いお店で、夜景でも見ながら、その景色の色を話しながら食事を楽しんで、それから渡すつもりだったんだけど、杏奈があまりにもひどい冗談を言うものだから。これはその仕返しだよ」


彼は震える息を喉で押さえ、必死に言葉を選んで絞り出していた。


彼女はやっと口を開く。


「ありがとう。本当に嬉しい。本当だよ?もうここで命が終わっても良いと思えるくらいに幸せ…」


彼女の頬は満月を見た時と同じように赤く染まっていた。


まるでその中に命でもあるかのように大事に両手で指輪を包む。胸に抑える姿はあの時ときっと同じはずだと彼は信じた。


「でも、これは受け取れない」


そう言うと彼女は両手を胸からゆっくりと剥がし、彼の前に差し出した。


彼女の両手は震えていて、ブランド店のショーケースを見るだけで立ち去るしかない少女のように、彼には彼女がもがいているように見えた。


しかし、彼女はそれでも覚悟を決めて、ゆっくりと手を開いていく。


彼女の痛みは涙となり、両目から止めどなく流れ続ける。


とうとう開かれた手のひらの中に指輪は変わらずにあった。


彼女の熱がまだ情緒を残して指輪に絡みつく。


ダイヤモンドはまるで自分が幸せの化身であるかのような高飛車な態度で輝き続けた。

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