1-18 再戦
「やっと出てきたか、待ちくたびれたぞ。出てきたということは、死ぬ覚悟は出来たんだろうな?」
展開されている防護用の結界術式を大きく迂回し、死角から奇襲を仕掛けるため、壁際から半歩だけ身を晒したその瞬間に背面越しに言葉を投げかけられた。
その勝負勘の鋭さに思わず息をのむ。絶対に視界の中には入っていなかったはずだし、足音にも細心の注意を払っていた。だというのに気が付かれた。
(やっぱり経験値が違いすぎて話にならないか……)
戦いに対する嗅覚の鋭さだけでも如実に絶対的な彼我の差が分かってしまう。
意識外からの完全な奇襲という、一番堅実で勝算の高い手札が早々に封じられてしまえば想定していた手札のほとんどが使い物にならなくなる。
逡巡して、息を吐きながらわざと大きめに足音を立てて物陰から姿を見せる。
「まさか奇襲さえ看破されるとは思わなかった」
振り返った
「アレで死んでいなかったとはな。さてはて一体どんな外法に頼った? しかし同じ人間を二度殺す経験など滅多に出来ない故、それはそれで心が躍る」
「外法に頼ったなんて言われるのは心外だけれど、そもそも俺自身だってなんで死んでいなかったのか不思議でしょうがないよ。ただ、少なくともここであんたにもう一度殺されるために生かされたわけではないとも思っている」
「口だけならば何とでも言えるぞ、一度目はやすやすと殺されたではないか。それに貴様も気が付いているのだろう? あの時の俺が全力を出していなかったくらいのことには」
「……、それでも一度拾った命を無駄遣いするつもりはない」
「カカカッ!! そうだ、そうでなくてはなァ! 負け筋のない戦などただのつまらん暴力と変わらん。戦いとは常に勝ちと負けが混在しているからこそ楽しめるし、命を懸ける価値があるというもの!!」
思わず「この狂人が」と毒づきたくなる言い分だった。何よりその言葉通り本当に、本当に楽しそうな笑みを浮かべているのがなお恐怖を煽ってくる。
「……、その言葉は多分アンタの本当なんだろうけれど……、殺し合いの前に一つだけ聞きたいことがあるんだけれど、いいか?」
「我と対話がしたいと? そんなことをしたところで我の闘争心は萎えんぞ」
「分かっているよそれくらいのことは。別にアンタの好きな殺し合いって奴に対して水を差すような質問じゃない」
「そうか。それなら出来うる限り答えてやろうではないか。冥途の土産話にでもするがいいさ」
「アンタの理由はなんだ? ただ戦いがしたいというだけならば、無理を押してまでわざわざこんな僻地に攻め入る必要もないはずだ。北の方に行けばアンタ好みの死地はゴロゴロしている。だのに、なんでわざわざ今こんな場所にいる?」
メドヴェディはギョッと目を見開いた。恐ろしく冷酷な光が宿る。その反応だけで疑念が確信に変わる。
恐らくキチンとした狙いがあって今ここに強襲部隊として立っているのだろう。
それだけ分かれば質問の成果としては十二分。
だが――――、
「出来うる限り答えるといった手前、ここで嘘を吐くと約束を違えることになるか……。いいだろう、そうだな貴様たちにも分かりやすく答えるとするならば、我等が王のためだ」
彼はさらにその先の断片的な情報をくれた。
義理堅さと言えば良いのか武人としての誇りを違えないためなのか、その両方か、あるいはまったく別の思惑があるのか、その内心を計り知ることは出来ない。
「王だって……? その王とやらの思惑で動いているってことか」
「いいやそれは違うな。我等が王はお優しくてな、争いなどは望んでおらん。だが我々は王にこの世界を献上したいのだよ、我等の総意として」
「……、随分と勝手だな。統率者の意向を無視して争いを起こしているのにその責を押し付けるようなことを言うのは」
「それはそうだろう。貴様らだって大義のためならば人に責を押し付けるくらいのことは平気でするだろう。我等とて同じよ。それに責とは最終的に敗者になったものが受けるものだ。つまり我等が王に世界を献上出来さえすれば罪や咎などというものはないに等しい」
「つまり、最終的に勝てばいいと」
「それが世界の真理であろう?」
「一理あるかもしれない。だけれど、だからと言ってあなたたちの大義のための犠牲を許容してやる義理だって誰にもない」
「そう、だからこその闘争だ。そろそろ問答にも飽いた、さあ死合おうか!!」
結局のところ決定的な部分で分かり合えないからこそ争いが起きる。闘争の本質からは逃れられない。
始めから分かり切っていたことではある。もうお互いに譲歩の余地は一切ないのだから。
『
「人類種で完全口述起動式が扱えるとは大したものだ。が、そんな虫が止まるような悠長な方法で我に相対するのは無謀以外の何物でもないぞ!!」
ズゾンッ!! とメドヴェディが動く。瞬発力で間合いを詰め、長柄の戦斧が空を裂く。ただの瞬きでさえ命取りになりえるほどの速力と剛力。
縦振りのその一撃を辛うじて躱した。鼻先一寸、半歩だけ身を引くことでのギリギリの回避。もしも仮に今の一撃が横薙ぎの一撃だったならば恐らく上半身と下半身が玩具のように両断されていたことだろう。
『
寸でのところで躱したというのに縦に振られた戦斧は追撃のために即座に真横に薙ぎ払われた。
あまりにも強引な一撃。だけれど、彼の扱う長柄の戦斧はそれを想定した作りになっている。峰側のギザギザとした返し刃は鋭さこそないが、単純に叩きつけるだけで十二分の威力を発揮する。
『
呪文を紡ぎながら跳ね上がるような一撃に応じる。動き出しの一瞬を見逃さずに両手で掴み、そのまま腕の力と足のバネを使って倒立をする要領で身を持ち上げる。
下から振り上げ気味の薙ぎ払い対してハンドスプリングを敢行した。
あまりにも無謀、だけれどそれが逆にハマった。
グギュンっ!! と上方への振りの力を利用して体が一気に跳ね上がり宙を舞う。
『
ごく短い命令文で口述した術式が起動を完了する。
ギュルルルルッ!! と先ほどまで自身が立っていた場所に青白い光が収束し、そこから四方八方、放射状に閃光が走る。光点の数は全部で九つ。そのうちの一つが幾何学模様を描きながら猛烈な速度でメドヴェディの足元へと迫る。
「一体どんなモノを組み上げて見せたのか興味はある……、だからと言ってわざわざ直撃を貰うわけにもいかんがな」
もし仮にメドヴェデが一般的な魔獣の類と同程度の身体能力だったとすれば幾何学模様を描きながら進む光点はその足元を捉えることができただろう。
だが、彼の膂力は尋常ではない。単純な身体能力だけでさえ超常の域に達するほどの異常値だ。本来人間であったならば反応が遅れる瞬間においても即断即応で肉体が追い付く。
「追従性能も高い、良い術式だな。だがあまりにも遅い」
追尾する光の点は、だけれど彼の速力に追いつくことが出来ず、一向にその力の本領を発揮することが出来ない。
トンッと二つの足音が重なった。一つは光の追従から逃れるために瞬発的な移動を繰り返す音、もう一つは空中から地面へと着地した音。
『
さらに命令文を追加する。ただ淡い輝きだけを発している八本の光線のうちの二本が息を吹き返したように強い輝きを取り戻す。一つはクルクルと円形軌道でとぐろを巻くよう、もう一つは流星のようなラインを描いてメドヴェデへと追い迫る。
「なるほど、数を増やせるのか。しかし我を追うにはこの程度では数が足らんな」
余裕綽々と言った様子でカカカと笑ってみせながら、細かく移動を繰り返すことで鮮やかに光点を躱していく。
『
「何せこの程度では、こうする余裕があるほどだ!!」
祝詞とメドヴェディの突撃が重なる。
直後、ガキンッ!!! と金属音が響いた。音とともに轟と衝撃が広がり、地面が一段凹む。
「ほう、今の一撃を受けるとは随分色々と仕込んできたらしいなァ!!」
「それはそうだよ、俺にはアンタがここにいるであろうことは予想できていたからね。完璧とは言えなくとも事前に対策くらい練りもする」
メドヴェデの重い重い一撃を防護術式を起動した両手の籠手で真正面から受けた。
ギリギリギリと金属同士が擦れる音が響く。同時に腕部肩部を中心にミシミシと骨に異常な負荷がかかる音もした。
(事前に無茶を承知で強度を上書きした防護術式込みでさえこの威力か……! 続けざまに三発も貰えばこちらの腕が砕けるぞ……!)
どこまで耐えられるか、自信があったわけではない。それでも一度殺されかけた経験から、体力の消耗はあれど捌ききれないほどとまでは考えていなかった。
だというのにたったの一撃で想定の甘さを思い知らされる。
それでも――――、
「今ッ――!!」
虚勢を張って何でもない顔をして見せる。
今の衝撃も想定通りで、足を止めさせるためにわざと受けて見せたのだと思わせられなければなし崩し的に持っていかれてしまうだろうから。
「だから遅いと言っているだろう」
足元に迫ってきていた光点から寸でのところで距離を取られる。
決定打が与えられる気はしない上に一撃が重すぎて消耗戦持久戦に持ち込んだところで勝算があるようにも思えない。
しかしそれでも状況は最悪よりは幾分かマシだった。一度目の時は死んでいないのが不思議なほど完膚なきまでに敷き潰された。それを思えば五体満足で最初の一合を凌げただけでも賞賛に値する。
(射出点の挙動を自動化して自然エナの細かな制御に注力しているとは言えそれでもこの負荷か……)
完全口述起動式の自然エネルギー制御に加えて、籠手と靴に刻み込んである個人用の防護術式陣の多重起動。加えて高速機動力を持つ敵への断続的な警戒。
タスクとしては非常に重い二つのことを同時並行でこなさなければまともに相対することさえ出来ないほど戦力差は隔絶している。
頬に、首筋に、背中に、太ももに、冷たい汗が伝う。体の芯の芯、体幹の中心が気持ちの悪い凍え方をしているのが嫌でも分かる。体温と体感温度が異様にズレる。凍傷による痛みに熱さを感じるのと似ているかもしれない。
現状戦況は劣勢。そのうえ処理の重さからどこまで身体が持つかも分からない。
十分後か、五分後か、あるいは三分後か。いずれにせよこの近接距離の間合いのままジリジリとした持久戦を続けようものならば致命傷を貰う前に肉体の内側が焼き切れそうだ。
「アンタがまだ余力を残しているのと同じようにコチラもまだ切れる手札は残っているんだよッ!!」
「そうか……、そうかッッ!! 我には随分と満身創痍に見えたが、まだまだ楽しませてくれるというわけかァ!!」
だから虚勢を張るしかない。
虚勢を張って、相手の全力を誘い、隙を見つけてその一点に全てを掛ける。そうするしかない。
だというのに、相手から返ってきたのは獰猛すぎる笑みだった。
きっと言葉に嘘偽りは微塵もないのだろう。
そうでなければあれほど純粋で満面な笑みを浮かべられるわけがない。
(部が悪すぎて逆に笑ってしまいそうになるな……、これは)
近接武器による闘争の化身であり、戦いが好きで好きでたまらなく、そのうえ人類種とは根本的に比較にならないほどに強靭な肉体を備えた存在。
それが目の前の殺し合いの相手、メドヴェデ=オブヴァジニ。
『
術式の命令文に更新をかける。
キュルルルルっ!! と空気が軋む音がした。
最初に散らばった九つの光線が再び輝き、その先端をひと際強く煌かせた。
場に力が満ちる。
静かに、しかし滑らかに九つの光点が各々の動きをもって将軍メドヴェデへと殺到する!
「出し惜しみはなしだ……! これでアンタを捉えて見せる……!!」
獰猛な笑みに対して精一杯犬歯をむき出しにして笑みを返す。
だが――――、
「度胸は良いが、強がりが見え透いているぞ」
返す刀で看破された。
(本当に強かだな……。
内心で歯噛みをする。
ドクンッッ!! と心臓が跳ねた。ぐにゃりと一瞬視界がゆがみ、思考が切れかけた。
無茶な力の行使の代償。
身の内側から外へとガンガン力が抜けていく。全身の血管の収縮運動に異常をきたし、血流が過剰に促進される。
ぶわりと一瞬で汗が噴き出した。
歯を食いしばって身を立てる。
先ほどまで制御下に置いていた噴射点は三つ。今現在制御下においている噴射点は九つ。単純計算で負荷は三倍になる。さらに敵を捉え切るために追尾性能を自身の制御限界以上に設定し直した。噴射点を三つ制御下に置いていた時でさえ軽い虚脱感を覚えるほどの負荷が掛かっていたというのにだ。単純比較だけで考えても三倍以上の負荷が掛かるのは明白で、それはつまり肉体にかかる負荷が人体の許容量を超える可能性が極めて高いことも意味している。
最も分かりやすいイメージとして引き合いに出すならばギャンブルの多面打ちに相当するだろうか。トランプの山を九つ用意して九種類のゲームを違う相手と同時にプレイする。ババ抜き、真剣衰弱、ブラックジャック、ポーカー、大富豪、ブリッジ、セブンブリッジ、ラミー、スピードを一対九でプレイすると考えて貰えばそのその負荷の大きさが伝わるだろうか。
思考演算力への負荷としては相当なものになる。そのうえ陣による力の流れの補助も一切ないため自身の肉体を通して細やかな自然エナの制御を行わなければならない。
柔軟な術式を組めばそれだけ繊細な制御力が必要になり、それは自身に掛る負荷を指数関数的に上昇させることにも繋がっていく。
「ぐぅ……、あぁぁぁぁ……。アンタは、アンタだけは今ここで確実に落とさせてもらうぞ……」
ぐらり、と体が傾いだ。軽く頭を振ればその衝撃でせきを切ったように鼻から血が流れだす。
「くははっ、クハハハハハ!! ボロボロではないか! やはり貴様たちにその骨董品は過ぎた玩具だったようだなァ!!」
ダンっ!! バンッ!! ダガンッ!! と一歩で数メートルを一気に跳びながら地面に輝く光点を躱しながら愉悦の籠った声が空気を震わせる。
「しかし、過ぎた玩具だったしてもこの精度と圧力の高さは賞賛に値するぞ!! このまま数分でも我が躱し続ければそれだけで勝負は決するであろうがなァ!!」
ザンッ! ザバンッ!! と跳躍するたびに地が抉れ軽い砂煙が上がる。
九つの光点がメドヴェデを追い立てるが寸でのところで躱される。しかし、つい先ほどまでのような余裕は彼にはなくなっていた。
数が増えたことで自然と接地狩りに似た挙動が連続することになり、結果として単純な跳躍のみで対応することが難しくなったからだ。加えて光点そのものの速力が上がったことで直線的で素直な突撃もやりにくくなった。
だが――、
「一つ消えたな。さて後どれだけ持つ?」
早々に光点の一つが消失した。
「本当にただ制御できなくなっただけだと思うのか?」
目を顰めて軽く鼻血を拭いながら、震える声で応じる。
膝はガクガクと笑い、隠すことも出来ないほどに脂汗が滲んでいる。肉体的な限界が迫っているのは明白だった。
「もう五分も持つまい。このまま逃げ切れば我の勝ちは明白だが、勝負師としての敬意を払ってきちんと武器の錆にしてくれよう。……、言うているうちにもう一つ消えたな」
残りは七つ。メドヴェデの身体能力であれば光点が六つ以下になってしまえば全てを掻い潜り留めの一撃を見舞うことなど造作もない。
正念場、この数秒が最大の分水嶺。
(ここが無理の押しどころだ!!)
「――――ッ!!」
七つの噴射点の内三つを能動的にメドヴェデの背面側へと移動させ完全な裏取りを敢行する。
「ほう、ここにきて能動的な光点の制御とは隠し玉としては十分だなァ!!」
しかしそれも読まれていた。
瞬間、意識が逸れる。
「だが、それは見え透いていたぞ。想定の範囲内だ」
自動制御の光点九つでさえ身を震わせて意識を歪められるほどの負荷が掛かる。そこで一部の光点を能動制御へと切り替えるとなれば術者自身が身動きを取る余地が残る道理は欠片もない。当然だろう。
そもそも自動制御の噴射点の総数が九つの状態を維持出来ていた時間でさえ一分と数秒ほどしかない。一部とはいえ光点を能動制御に切り替えるということは疲弊しきった肉体と精神にさらにキツイ負荷をかけるということ。その過酷さは四〇〇メートルを五〇秒で走り切った直後に一秒のインターバルもなくそのままもう一度四〇〇メートル走に挑むようなもの。
だというのに、メドヴェデがほんの一瞬意識を光点のみに絞ったその瞬間に短剣をノーモーションで投擲して見せた。
流れるようなその動作は慣れを感じさせる。
「なん……!?」
存在しえない一撃。それが今メドヴェデの目の前にある。
意識を外してからその攻撃に気が付くまでの間はコンマゼロ秒以下。隙ともいえない刹那の緩み。だが確実に予期せぬ一撃。
あり得なかったはずの三点同時攻撃にギョッと緊張が走る。
もちろん優先して回避すべきは正面と背後から迫る光点。横合いからの短剣の投擲など直撃を貰ったところで戦闘続行に支障はない。
しかしそれが分かっていたとしても完全に意識外からの一撃に判断が鈍った。
瞬間、炸裂音が轟いた。
ぼたぼた、と大粒の血が滴る水音が鳴る。
遅れてカンッ!! という金属音が響く。
「見事な一撃だが……、我の勝ちだな」
ザクッと弾かれた短剣が弾き返されコチラの足元の地面に突き刺さった。同時にメドヴェデの太い右腕が音を立てて地に転がる。
彼の真後ろには六本の鋭い土杭が交錯し、そのうちの一本にはべたりと血が伝い、二本が叩き折られている。
「しかしなるほど、これは中々面白い仕掛けを考える」
足元を確かめるようにガンガンと地面を蹴りつけるとザクリと穴が開いた。
「我を追いかけていた光点は周囲の地面を固定化するための制御フィールドの起点で、土を打ち出すための射出点がさらに地中を走っていたわけか」
「複雑にすると、術式が維持できないからな……」
ゼェゼェ、ハァハァと歯を食いしばり満身創痍で悔しそうに答える。
もう、そうするしか仕方がなかった。
全精力、全神経を掛けてたった一度の絶好の機会をモノにして、それでも相手の肘から下を弾き飛ばすに留まってしまう。
「少し待て。餞にキチリと殺してやる。同じ相手に二度殺されたならば冥途の土産話としては上出来の部類だろう」
ザンッ! と握っていた長柄の戦斧を地面に突き立て、開いた左手で右の二の腕をぎゅぅっと絞るように握りこむ。ボタボタと血が零れ、それからほどなくして出血が弱まった。
(嘘だろ……、あんな力業で止血して顔色一つ変えないのか……)
ぐるりと一度肩を回して戦斧を掴みなおす。
そして、ゆっくりと重い足音を響かせて近づいてくる。
それは死の音だった。
不吉や不運よりももっとはっきりとした強く、決定的な何か。
抗いようのない確定的な終幕。
「久方ぶりの血湧き肉躍る戦いだった。敬意を表して一度目と同じ傷で殺してやろう」
距離にしておおよそ二メートル、それが最後の相対。
「勇敢な戦士に無慈悲な救済を」
『
決着の瞬間には二つの音が重なる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます