DeathLess_Instead_of_Lose_One`s_Memory`s
加賀山かがり
海鳴り編
1-0
その時確かに泥の中にいるような気がしていた。
全身を包むどろりとした重い感覚。水よりもべたりと体に張り付きもがくことすらうまくできない。あまりにもひどい。自身のもがいた勢いさえ泥の中へと消え去るような、塞がれた耳から音も聞こえなければ、肌を撫でるような感覚を得ることもない。
あまりにも息苦しく、無駄だと分かり切っているのにきつく閉じていた口を開いてしまった。途端に、重く粘着質で特有の臭みのあるものが咥内に殺到する。口の中の唾液を吸い付くさんとするかのように粘性のある砂利が舌を蹂躙してくる。
呼吸をするために口を開いたはずなのに流入するのは泥ばかり。
耐えられなかった。
耐えられるはずもなかった。
ただ空気が吸いたくて手足をばたつかせる。
だけれど一向に何が起きることもない。ただ静かに泥の中へと沈んでいく。
何事もなく沈んでいく。きっと泥の表面には波一つ立ってはいないだろう。
驚くほど速やかだった。
何をどうしたとしても光明が射すとは思えない。しいて選択肢をあげるとするならば諦めることだけが唯一無二の正答であるようにさえ感じられる。
絶対的にどうしようもなく、どんなことがあったとしても覆りようのない厳然たる感覚。
どうだろうか、神の元へと召されるのだろうか。それとも救われないままでただ朽ちるのだろうか。あるいはなんてこともなくただただ消え去るのみなのだろうか。
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