第4話 十段階表示の円グラフ的なステータスで松尾象山を測ると大体全部20かしら
先ほどの丘は、どうやらマキア公国というところの領地だったそうですわ。
攻め込んで来たのは敵対している国のひとつ。ドマリ王国というのだそうな。
他にもたくさん国の名前を教えられましたけど忘れましたわ。横文字をいきなり何個も並べ立てるものではなくってよ!
「もう少しで街道が見えてきます。そこから我らの居城までは、ほんの数十分ほど──」
「思ったより狭い領地なのかしら……ところで、ラスティさん」
「はっ」
世界のサイズ感がコンパクト疑惑。
けれど、それより重要な疑問点がありますの。
「あなたのステータスとかスキルって、拝見できますの?」
「~~~~っ!?」
きゃっ!
ラスティさんが手綱を思いっきり引いたので、白馬が竿立に。後ろ足だけで立つアレですわ。
「どっ、どうどう! どうどう! ……マイネさま!」
「はい?」
「そんなこと──いえ、ここは私たちしかおりませんから良いようなものの、人前では仰いませんように!」
「ええ……?」
耳まで真っ赤になったラスティさんの様子に、事情があるのだろうと聞いてみますと──
つまり、こういうことでしたわ。
ステータス。スキル。それは個人情報の中でも最も重要で、センシティブな部分である。
遠くいにしえの時代、女神との契約により全ての人類が、これを開示する力を得た。
しかし同時に女神は、〝自分のだいじな部分をあんまり人に見せてはいけませんよ〟という教えも授けた。
なのでこの世界では、子供のころから厳しく、
「ステータスをみだりに人に見せてはいけません!」
「どうしてもと言うなら大人になってから、鍵のかかった寝室などでふたりきりで!」
と教えるそうなのですわ。なるほどセンシティブですわね。
とは言いますものの。やはり現状、私、自分のステータスの比較対象が欲しいですし。
他に頼めるような方もおりませんし。
そこをどうにか曲げてくださるよう、重ねてお願いを致しますと。
「うぅ……どうしてもですかぁ……?」
「決して口外は致しませんから! うっかり私の命を奪いそうになった失態と帳消しと思って!」
「それを言われると弱い……ああもう、分かりました! そこに茂みがありますから、その、早く済ませてくださいね……?」
ラスティさんは馬を近くの木に繋ぐと、私の手を引いて、手近な茂みの奥へ行きました。
手がぷるぷると震えています。あの凜々しさはどこへやら。
……なんだか急に、ものすごく悪いことをしている気分になりましたわね。
けれども今さら取りやめにするのも、なんだかばつが悪いですので。
それに好奇心も抑えられませんので。それ、か・い・じ! か・い・じ!
「うぅぅ……ス、ステータスっ!」
ラスティさんの裏返り気味の声と共に、虚空にびよっと半透明のウィンドウが表示されましたわ。
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ラスティ・オース・ド・マキア
レベル:22
H P:97
M P:71
ATK:76
AGI:54
DEF:95
MAT:31
MDF:71
・アクティブスキル
《馬上突撃》
《パワースマッシュ》
《シールドバッシュ》
・パッシブスキル
《旧き帝国の血》
《騎士の誓い》
《騎兵指揮官》
《マキア剣術》
────────────
……なんだか私よりスキルたくさんありません?
あと、その……
「……書式が違う!」
「ひぇっ!? しょ、書式!?」
「ラスティさんの方がアルファベットとか使ってスタイリッシュな上に項目がちょっと少ないですわ! おかげで閲覧時のスクロール距離が短くて便利でしてよ!」
「仰る意味がわかりません! ステータスってみんなこうでしょう!?」
ガーンですわ。
なるほど転生者は特別だというのは分かってますけれど、この特別さは微妙ですわ。
それにしてもラスティさんは、いかにも重装備の騎士らしいステータスでいらっしゃいますこと。
特にDEF……ディフェンス、耐久力かしら? ここは私より数値が上ですわね。
私も結構無茶な暴れ方した自覚ありますけど、それより頑丈なのですって。
もはやそれはプロレスラーなのではありませんこと?
「……はっ!? 主人公の道を決める初めての相手、そしてこのステータス傾向──あなたはつまり……梶原……?」
「誰ですか」
「いえ、梶原はもっとスピードもあるイメージ……むしろこの方の傾向は長田に近いやも……」
「誰ですか!? ねえ、だから誰なんですか!?」
「落ち着いてくださいませ、カジワラスティさん。それより、あまり動かれますとよく見えませんので──」
「本当にそれは誰──や、そんなとこ触らないでくださっ」
せっかくですから一通り、パッシブスキルの項目を見ていくことにしましたわ。
基礎的な剣、槍の技を習得した証の《マキア剣術》。
《騎兵指揮官》は騎兵を率いている時に自分と味方にステータスボーナス。歩兵の将をするべきではありませんでしたわね。
HPとDEFにボーナスが加算される《騎士の誓い》。やはりプロレスラーですわ。
そして、こちらの《旧き帝国の血》は……
「やっ、ダメ、ダメですっ、見ないでぇっ!」
「ポチッとな」
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・パッシブスキル
《旧き帝国の血》
かつて大陸を支配した帝国の、正当なる支配者の血筋。
従う軍勢の規模に応じてステータスが大幅に上昇する。
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「……あっ」
なんだかとっても、世界の命運とかそういうものを左右しそうな重大情報を見てしまいましたわ。
「うう……ひどいです、マイネさま……だからやだって言ったのにぃ……」
「ご、ごめんなさい。あまりあなたが必死になって隠すものですから、つい……」
逃げられると追いたくなる、猟犬の精神の持ち主ですのよ私。
……それはさておき、ステータスを他人にみだりに見せない理由がわかりましたわね。
ママー、あそこの家の○○くんがねー、《忌み嫌われし血統》ってスキル持ってたー。とかなったら大惨事ですもの。
何ですって!? もうあそこの家の子と遊んじゃいけません! で済めば良いのですが、家柄とか血筋はしがらみを生むものですわ。
さて。私は十分納得しましたので良いのですが。
今度はラスティさんが木にしなだれかかって打ちひしがれていらっしゃいます。
「うぅぅぅぅぅうぅ……侍女にも見られたことないのにぃ……私だけこんな恥をかくなんて不公平です……!」
「あ、私のステータスがご覧になりたいと? 構いませんわよ」
「えっ。もっと貞操とか大事にした方がいいと思います」
「価値観の乖離は難題ですわね。ステータス!」
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六道 舞音(マイネ・リクドウ)
練度:2
生命力:224
精神力:419
筋 力:108
敏捷性:167
耐久力: 95
魔 力:362
抵抗力:511
打撃力:712
投 技:352
関節技:425
・アクティブスキル
取得不可
・パッシブスキル
《餓狼伝》
《丹波文七》
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「あら、いつのまにか練度が上がってますわ。あの乱戦を乗り越えたからかしら」
「……えーと、マイネさま。申し上げたいことがいくつかあるのですが、よろしいでしょうか」
「どうぞ。構いませんわよ」
ラスティさんは深呼吸を繰り返したあと、何度か咳払いをしてから仰いました。
「レベルの割にステータス高すぎませんか? アクティブスキル習得不可って呪いですか?? なんか書式が私たちと違いませんか??? 打撃力とかなんとか項目が多くないですか???? パッシブスキルの《餓狼伝》ってなんですか????? 丹波文七って誰なんですか??????」
「言うべきことを一通り全部拾い上げてくださいましたわね」
この方は信用がおけると確信できましたわ。
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