第5話

 自然エネルギーの話をする前に、まず原子力エネルギーについて一言述べておきたい。

 福島の原発事故の後、日本の原発は一時的に全て稼働を停止した。事故を受け、ドイツはいち早く国内の原発の全面撤廃を決めた。原発推進国のフランスから電力供給を受けている現状を白眼視する向きもあるが、エネルギー問題に一石を投じる決断であったことは間違いない。事故から十年が過ぎ、当事国の日本では各地で原発再稼働の動きが出始めている。喉元過ぎれば熱さを忘れるということか。日本の原風景をとどめる福島の地に惨禍をもたらし地元の人々からふるさとを奪ってなお、原発の使用をやめようとしないこの国の政治家は何を考えているのか。資源小国の日本にとって原発は安価な発電方法だというのが彼らの常套句だ。福島原発事故の後処理に一体どれだけの国費が投入されているのか。それを自ら口にする政治家はいない。国費の投入が認められないのであれば、事故の責任は東京電力が負うべきだというのが彼らの逃げ口上だ。しかし、東京電力が支払う事故の賠償費用は電気料金に転嫁される。結局最終的な責任は国民の肩に負わされるのだ。それでもまだ原発が安価な発電方法だと言うのか。

 原発推進派のもう一つの主張は、原発が二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーだという点だ。クリーンエネルギーどころか、たった一度事故を起こせば国土を荒廃させることは今回の事故で実証された。さらに原発はテロの標的になり得るし、全国土に敷設された原発にミサイルを撃ち込まれれば日本国家は一気に崩壊する。日本を滅ぼすのに核弾頭など必要ないのだ。アメリカの原子力マフィアが日本国土の荒廃を憂えてくれるとでも思っているのか。政治家は利権を漁っている場合ではない。

 原発がクリーンエネルギーだとする主張にはもう一つ瑕疵がある。核廃棄物の問題である。核廃棄物の処理方法は未だ確立されておらず、仮の処分施設に保管しておくしか方法がない。日本にも青森県の六ヶ所村に処分場があるが、これはあくまでも正式の処分場が決まるまでの一時的な保管場所である。フィンランドのオルキルオト島にはオンカロという核廃棄物最終処分施設が建設されているが、火山列島の日本にフィンランドのような安定した岩盤は存在しない。モンゴルに日本の核廃棄物を引き受けさせるという案があるが、自国で出したゴミを他所の土地に棄てるなど、どういう了見であろうか。国際社会での日本の立場を考えたとき、そんなことをする国が他国の尊敬や信頼を得られるとは思えない。


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