第4話

 成長経済から循環経済へイデオロギーの転換を図るにはどうすればよいのか。

 SDGsという言葉を読み解く鍵となるのは、Development(発展)という言葉である。これは強く資本主義を想起させる言葉で、我々がこの言葉を口にするとき、その意識はなくとも「資本主義の下での」という前提条件が付く。イデオロギーの転換を図る上で我々がなすべきは、現代思想の奥深くにまで根を張るこの資本主義に対する意識を改めることである。我々は資本主義を当たり前のものとして受け入れてしまっているが、これが人類や地球環境にとって最良の社会システムでないことはここまでつらつらと述べてきたとおりだ。思想に社会を変える力があるなら、Development(発展)と資本主義を結びつけてしまう我々の意識の変革こそが社会変革の原動力となる。Developmentを経済成長を促す要素として捉えるのではなく、循環型の経済を実現するための手段と位置づければ、我々の目指すべき方向が見えてくるのではないだろうか。

 技術革新と循環型社会を齟齬なく結びつけてゆくためにまず解決されねばならぬのがエネルギー問題である。産業革命以降、石炭・石油・天然ガス等の化石燃料への依存が急拡大したことが現在の地球温暖化や環境汚染の直接的な原因となっていることは論を待たない。化石燃料の多くは電気エネルギーを生み出す資源として使用されるが、電気は化石燃料を燃やす以外の方法でも生産できる。さらに、電気を動力源として使用すれば、化石燃料を燃やして動力を発生させる内燃機関を使用することなく動力を得ることが出来る。現在、自動車の電動化が急速に進められているが、電動自動車を生産する技術そのものは既に確立されている。問題は増加する電力需要をいかに賄うかである。化石燃料への依存を解消することが目的であるから、電力を得るために化石燃料を燃やすことは本末転倒である。火力発電はまず除外されなければならない。次世代電力の有力な候補とされてきた原子力発電は、火力とは別の意味で環境負荷が高い上、経済的な負担も大きく、循環型社会には適さない。そこで原子力に代わる次世代エネルギーの候補となるが自然エネルギーである。今のところ、自然エネルギーから得られる電気エネルギーは、人類全体が必要とするエネルギー量には遠く及ばないのが現状である。しかし、技術革新によって自然エネルギーへの依存度を高めていくことは可能であるし、同時に人類はここでイデオロギーの転換を迫られる。

 エネルギーが足りなければ使わなければよいのである。エネルギーを大量消費する便利さや快適さが人間の幸福とは直接関係ないことは先に述べた。ならば、時々停電が起こるとか、電力の使用制限が課されるといった不便は甘受してしかるべきであろう。ほんの数十年前はそれが当たり前であったし、二百年もさかのぼれば人類の生活の中に電気がもたらす便利さなど存在もしなかった。人類が電気エネルギーを活用できるようになったのは、この百年あまりの間のことなのだ。それが今や人の営みは電気なしでは成り立たなくなっている。電気のない生活に戻ることは出来ないとしても、社会全体で節電することを考えていかなければならない時が来ている。

 しかし、技術革新はそれさえも克服する可能性を秘めている。


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