第3話
SDGs(Sustainable Development Goals)=持続可能な開発目標。
これが増え続ける人口を勘案しつつなお発展を続けるという意味なら、この言葉は撞着を孕んでいる。Sustainability(持続可能性)とDevelopment(開発・発展)は相反する概念であり、この前提に立つ限り、二つの命題を同時に達成することは不可能だ。
「純粋な理性だけで世界全体の根本的問題を解決しようとすると、二律背反に陥る」(広辞苑)
かつてカントはこう指摘した。まるで現在の人類の行き詰まりを予言しているかのようだ。
今この時代に人類が考えねばならぬのはさらなる発展を目指すことではなく、人口増加を食い止め、これを減少に転じさせることである。人口増加の原因が資本主義にあることは先に述べた。では、資本主義のどこに問題があるのか。
極端な人口増加が起こるのは発展途上国においてである。二十世紀に急激な経済発展を遂げた日本も例外ではない。先進国の仲間入りをしたはずの日本が少子高齢化に直面し、最早経済成長を見込めない状態に陥っている現状を見れば、人口を増やすことによる経済成長が成功モデルとなり得ないことは明らかだ。世界第二位の経済規模を誇った日本の一人あたりのGDPが他の一流先進国並みになることはついになかった。二十一世紀に入った現在も世界有数の経済規模を誇るとは言え、貧困問題の顕在化し始めた日本を先進国と呼べる日はあとどれくらいであろうか。国際社会で日本の存在感が薄れつつあることに気付いていないのは日本人だけではないのか。
巨大な人口を駆って経済成長を遂げた中国もいずれ同じ問題に直面するだろう。最初から格差問題を抱えるかの国では、経済成長の恩恵を受けるのは一部の人間だけだ。世界一の経済規模を誇るアメリカが抱える貧困問題はさらに深刻だ。
資本主義を土台とする経済成長が格差を生み、それでもなお人は成功という幻想を胸に抱き、競争にのめり込んでゆく。この負の連鎖を断ち切らねば、人類は自らが滅びるまでありもしない幸福を追い続けるだろう。ペダルを踏み続けるラットさながらに。
発展途上国で人口爆発が起こるのは、人々が自分の将来像を描けないことが原因だ。しかし、将来像や人生設計などというのは資本主義の生み出した幻想であり、経済的成功を収めた者だけの言わば特権である。そこを目指す限り社会の格差はなくならない。目指すべきはそんな社会ではなく、経済規模は小さくとも、日々の生活が満たされる安定した社会であろう。今人類に求められるのは、成長=幸福という考えが誤りであることに気付き、循環こそが社会に幸福をもたらすという方向へイデオロギーを変換させることである。
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