ななつめのふしぎ(3/3)
「僕、見つけたんだ。『7つめの不死樹』…………」
そう言って階段の上からこちらを見下ろしている相手の表情は、暗くてよく見えない。
「え? えっ、マジ? 凄いじゃん! どうやって見つけたんだ? 俺、いろんな人に聞いて回ったけど、誰も教えてくれなかったんだぜ?」
「7つめは条件がそろわないと現れないんだよ」
「条件? なんだそれ?」
「中庭にある告白の木って分かる?」
告白の木。
それは中庭の真ん中に生えている、とても大きな木だ。
同じ種類の木が何本か学校の敷地内に植えられているけれど、何故か中庭にあるその木だけはやたらと高く太く大きく育っていて、下の方にある木の枝は全て刈り取られている。
何年も前に木登りをして遊んでいた生徒が落ちて怪我したとかで、枝が伸びてくると登れないようにって切り落としているらしい。だけど校内に植えられた他の木は、手が届く位置の枝でもそのままにされている。
「あの木の下で告白に成功すると、相手と結婚できるってやつだろ? まさかそれが7つめとか言うんじゃないだろうな? あの噂を流したのって何年か前の卒業生の女子だって噂だぞ」
「違うよ。特定の条件がそろうと、あの木が七不思議の木に変化するんだよ」
俺は中庭へと移動しながら『7つめの不死樹』の説明を聞く事にした。
途中で廊下を歩く人影に気付いて、階段のかげでふたりで息をひそめてやり過ごした。
せっかく最後の1つを見られるかもしれないのに、ここで見回りの先生や警備員さんに見つかって終わりだなんてまぬけなドジは踏まない。
「7つめの不思議は6年生じゃないと駄目なんだ。小学校で6年過ごした人間が七不思議の1から6つめまでを順番通りに回って、不死樹の下である事をすると不死になれる」
「不死……って死なないって事か? なんだそれ。そんなの、確かめられないじゃないか。まぁ冒険の最後の報酬ってかんじはするけれど。で、その、ある事って何だ?」
「首吊り」
「は?」
相手が口にした言葉に、思わず変な声を出してしまった。
「そんなことしたら死んじゃうじゃないか。どこが不死だよ」
「……不死になるんだから、首を吊っても死なないって事でしょ?」
「お、おお……。なるほど……?」
中庭に着いてから校舎を見上げて、さっきの人影が無いか探した。
中庭は教室内からは見えないけど、廊下からならどこからでも見えてしまう位置にある。つまり、今ここから廊下を歩く人影が見当たらないという事は、先生は宿直室に戻ったのだろう。
安心して中庭の真ん中を走って、
今日は月が大きくて外は明るいのに、広がった木の枝と葉が空を隠して大きな影が地面を覆っていた。
日中も陰になっている場所だからなのか、木の下は肌寒さを感じる程に冷えていた。
「見た目はいつも通りだな」
木の幹を靴の先で軽く蹴ってみたが、当然びくともしない。
かすかに吹いている風が枝を揺らすので、真上からは絶えず大量の葉が擦れ合うサワサワとした涼し気な音が降り注いでいる。
「はぁ~あ。首吊って確かめるわけにはいかないし、7つめも無しって事だな」
俺は頭上に広がる枝を見上げながら、今度こそ七不思議の終わりに大きく息を吐く。
「そんな事なかったよ」
「ん?」
「七不思議は本当にあったんだ」
サワサワサワ……ザワザワザワ……。
葉の擦れる音が徐々に大きくなっている気がした。
風が強くなった気配は感じられない。
俺の隣に立つこいつも音が気になったのだろうか。
枝を見上げながら話を続けた。
「みんなが6つめまでしか知らないのは、小学生でいられるのが6年間しか無いから。7つめを知るには、七年目を過ごした生徒と出会わなければならない」
この時になって、ようやく俺の頭に一つの疑問が浮かんだ。
「7つめを知った時。……それは、七年目が始まる時」
図書室で七不思議の本を読み耽っていた俺に声を掛けてきたこの生徒。
こいつが誘ってくれなければ、俺は今日、この場に立っていなかっただろう。
「次の人が来るまで七年目は永遠に続く」
俺の隣に立っているこいつ。
───こいつって、
──────……いったい、誰だ?
……………………ザワザワ……サワ…………
サワサワサワサワ……
……ザワザワザワ
サワサワ…………
ザワザワ…………
……ザザザ……
ザワ……ザワ……
……ざざざざ……
ざざっ…………
…………
ザ…ザ……
……
……
……ズズ……ズ……
……ズ ……
……
ズルリ
「やっと僕の七年目が終わる」
そう言ってこちらに笑みを向けている相手の首には、何本ものかきむしったような爪のあとと、一本の太い縄のあとがあった。
【了】
【七不思議】ななつめのふしぎ【小学校】 栖東 蓮治 @sadahito
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