ななつめのふしぎ(2/3)
「ここも窓をすこし持ち上げるみたいにして揺らせば……」
カタカタ……カタカタカタ……
カタタタ……ッ
カチンッ!
「わわっ、しー!」
月明りだけがたよりの、まっ暗な廊下に響くカギの音。
ふたりで顔を見合わせて、口に人差し指を当てる。
後ろを振り返って息をころした。
しばらくふたりで『だるまさんがころんだ』をしている時の様に、じっと動かず、暗い廊下の奥を見つめた。
誰も来る様子が無いので、安心して音楽室の窓をゆっくりと開けた。
「おまえ、凄いな。外からこんな開け方が出来るだなんて、俺、知らなかったぜ」
窓枠を乗り越えて音楽室に入る。
音楽室の中からは大きな月がよく見えて、廊下と違って室内は明るく感じた。
いつも俺たちが授業でつかう昼間の音楽室と比べると、すごく暗いことには変わりないんだけれども。
「ピアノのふた、しまってるね」
「うん。カギがかかってるみたいだ。開かないや」
ピアノのふたを持ち上げてみたけれど、びくともしなかった。さすがにこのカギは窓と違って、揺すっても開かなさそうだ。
「中から何か聞こえる?」
「うーん? 何も聞こえない……よな?」
ふたりでピアノにぴったりと耳をつけてみたが、何も聞こえない。
「よく考えたら葬送行進曲って何? どんな曲か知ってるか?」
「さぁ……?」
ふたりで首をひねった。
「とりあえず、何かの曲だよな? 運動会で流すような有名な曲なのかな?」
「うん、きっとそうだよ。七不思議になるくらいなんだもん」
どうやら七不思議の5つめ……夜の音楽室から悲し気なピアノの演奏が聞こえてくるという『音楽室の葬送行進曲』も、起こらない様だ。
「くそぉ、5つめも駄目か……。残りは屋上へ行く前の階段だっけ?」
「うん。ここからすぐだね」
「よし、行こうぜ」
再び窓枠を乗りこえて廊下に出る。
ゆっくり窓を閉めて、廊下の角から頭だけ出す。進行方向に人がいないのを確認してから、慎重に、素早く、廊下を移動した。
忍者ってこんな感じなのかな?
音楽室を出て廊下を進むと、屋上へと続く階段がある。
前に屋上に忍び込もうとして、何人かでドアの前まで行った事がある。
だけど屋上は普段から生徒の出入りを禁止しているせいで、ドアには普通のカギ以外に鉄で出来た鎖と南京錠がかけられているのを見て引き返した事があった。
そのドアの手前にある階段こそが、七不思議の6つめ『異世界への十三階段』らしい。
12段しか存在しないはずのその階段は、夜になると1段増える。
その増えた1段を踏んだ生徒は異世界へと行けるらしい。
「異世界に行ったらさ、やっぱり勇者として戦う事になるのかなっ? スライムとか、ドラゴンとかいると思うか?」
「どうだろう。異世界に来ている事にも気付かないくらい、元の世界とそっくりな世界かも知れないよ」
1、2、3……。
俺たちは心の中で1段ずつ数えながら階段を上がる。
……9、10、11……。
「……12、っと。……ハァ~~~~~~~~」
12段目に足を乗せて、俺は大きく溜め息を吐いた。
目の前には固く閉ざされた屋上への扉がある。
まるで、この先にも世界は続いているのに、ここで行き止まり……ゲームオーバーだと言われてしまった気分になる。
「6つめも起こらず……か」
がっくりと、うなだれながら階段を下る。
「6つ確認してる最中に7つめを見つけられるかもって思ったけど、やっぱ無いのかな、7つめ。残念だな。……あっ、でも夜の学校に忍び込むとかドキドキしたよな! 楽しかった!」
図書室の本棚の後ろを一棚一棚、覗き込む直前の、目の前に真っ黒な影が立っていたらどうしようという不安。
ヒタヒタと廊下を忍び足で歩く俺たち自身の足音に、ビクリとしてしまった面白さ。
踊り場の大きな鏡に映り込んだふたりの姿だけじゃなく、映り込んでいる廊下の奥や窓の向こう側に何かがひそんでいるのではないかという恐怖。
昼間に見てもオエッとなってしまうホルマリン漬けにされた小さな生き物や、何に使うのか分からない器具にすら感じてしまう不気味さ。
初めて知ったカギの外し方への高揚感。
こいつが居なければ、どれも知らないまま小学校を卒業していた。
「みんな、もう七不思議とか都市伝説とかガキっぽいとか言っちゃってさ。こういう事に付き合ってくれる友達いなかったから、お前が声掛けてくれて良かったよ。ありがとな! さぁ、見回りの先生に見つからない内に帰ろうぜ」
階段を下り切って後ろを振り返ると、まだ屋上へのドアの前に立っていた相手が口を開いた。
「ななつめのふしぎはあるよ」
「え?」
「僕、見つけたんだ。『7つめの不死樹』…………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。