第60話 まさかの振り出し

「ふぁー……。よく寝た。第十七層までどれくらい?」


 俺は、垂直に移動するラルクに、問いかける。返事はない。半分寝ているのだろうか? もしそうだったら困る。


「そうだクリム、例の」

〖これのことじゃな〗


 クリムから〈クリムゾン・ブレード〉を受け取り、仮想バッグに入れる。戦いがなかったのは悲しいが……。


「楽して移動できるんだから、それだけでも幸福に思いなさいよ」


 チェ、チェリスさん……。寄りかからないでください……。狭いスペースで暴れる俺に、馬乗り状態でくっつくさまは、ロデオでしかない。


「危険行為はやめてぇー‼」


 ――バキッ⁉ ビュゴォォォォ‼


 なにかが割れる音と風。案の定、俺とチェリスは、真っ逆さまに落っこちた。


 ◇◇◇第一層 坑道前◇◇◇


「いてて……。あれ? 全損してない……」


 目覚めたのは、初期スポーン地点。前方には懐かしい坑道。第十七層に向かっていたはずが、振り出しに戻ってしまった。

 でも、もっと大事なことを忘れている気がする。誰と落ちたんだっけ? 辺りを見回すと、少し離れたところに、一人の女性が倒れている。


「チェリスさん‼」


 急いで駆け寄り、呼びかける。


「ここは、どこ?」

「第1層っすよ。ラルクの背中から落ちて、最下層に……」

「ちょっとあんた、何してくれてんのよ‼」


 いや、原因を作ったのチェリスじゃん……。逆ギレされても困るんだけど……。ってか、また攻略をやり直すのかよ⁉


「じゃ、アタシは見守るだけにしておくわね。攻略は参加しないから……。あんた一人で……」

「するわけねぇじゃん‼ どうせなら、一緒にやった方がはかどるって‼」

「絶対服従……。忘れているわよね?」


 あ、はい……。忘れてました……。って、そういう問題じゃないんだよ⁉ 一人じゃ時間がかかりすぎるって‼ 特に第5層‼


「チェ、チェリスがいない……」


 心の中で吠えている間に、唯一の仲間が消えていた。走って坑道に入ると、ゴブリンと戦うチェリスの姿。


「しょうがないわね。少しだけ手伝ってあげるから、あとはご自由に……。服従も無しにしとくから」


 俺も加勢に入って、愛剣を振り回す。息は合っていない。まだルグアとの方が戦いやすい。

 彼女は視覚的、直感的に戦闘能力がわかるみたいなので、上手くテンポを合わせてくれるから。今度は俺がルグアみたいに……。


「チェリスさん‼ 俺がタイミングを合わせます‼ どんな動きでも、いいっすから、クリムさん達のところへ‼」

「随分気合い入っているわね……。わかったわ。全力で励みなさい」


 第一層からの再スタート。チェリスの相性は、きっと最悪。これをどこまで立て直せるか……。

 先が見えない状況で、他のメンバーと合流する旅が始まった。

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