第53話 振り子の悪魔
◇◇◇アレン目線◇◇◇
黒いオーラ、ボス部屋への近道。俺は仲間を引き連れて、淡々と歩き続ける。予想ではあと少し。
「アレン。例のまたやるのか?」
真後ろから質問してくる風魔。答えはもう決まっていた。属性強化を使う。たったそれだけの選択肢。
まずは、自覚症状の無い感覚を、よく理解することから始める。俺は未熟だ。風魔の言葉で身体の芯から熱くなっていく。
「ボス部屋に到着しましたね。ですが、フィールドが狭そうに見えます。どうしましょうか?」
アルスが、右の人差し指を頬に当て、可愛さ爆発のシンキングタイム。扉の中からは、カチカチという音。
もしかして時計? そんな予想を考えて、俺はアルスを指名した。もちろん、全員で入る。戦うのが二人なだけ。
「早速だけど、アルスさん。剣との組み合わせで、お願いしてもいいっすか?」
「構いませんけど……。どうして?」
これは簡単なこと。第十二層のボスは、振り子時計を模した悪魔。揺れるおもりを止めればいいだけ。
氷なら、凍結させることができるので、属性を氷に変える。適任なのは、アルスのみ。
「そうなんですね。わかりました。後悔のないバトルにしてくださいね」
「もちろん。俺の新しい能力。全力で使わせていただきやす‼」
アルスが真紅の剣に憑依する。熱い柄は急激に下がり、氷点下の冷たさ。温度なんかどうでもいい。
とにかく今はバトルが先だ。新能力〈
「今からでも、きっと大丈夫。能力解放しても……。風魔さん?」
「勝手にしやがれ。オマエが考えろ」
ですよね……。風魔に聞いたのが悪かった。決めるのは俺だから、聞く必要はないもんね。
「了解しやした」
もう、使えるようになったんだし、考え変えずに突っ走る。剣の能力を最大まで高めて、絡みつくのは冷気のローブ。
黒い瞳は、右だけ水色に変わる。これが、新能力の発動状態。凍てつく刃でボスを斬る。
「もっと全開にしてもいいんじゃね? 全力前進。振り子は止まれぇ‼」
冷気が敵に絡みつき、振り子をみるみる凍らせていく。まだ、俺の意識も武器の意識も安定。
バトル継続。激しい剣舞は、何百回にも繰り広げられ、肉薄を続ける。敵は、秒針を振り回して拒絶。でも、気にしない。
「身体が冷えてきた。自分まで凍ってしまいそうだ……」
それでも、熱量は自らを突き動かす。バトルは始まったばかり。凍結と解凍の連続を楽しみながら、夢中で相棒と共鳴させた。
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