第37話 フォルティッシモ

「フォルテさん、もしかして戦うんですか?」


 ガロンが尋ねる。俺はフォルテが戦うところを見たい。でも、フォルテは武器を持っていない。なんで?


「オレは武器は使わない。明理ルグアも、たまに素手の時があるが、オレはずっとこのスタイルだ」

「なるほど。えーと、ここのボスは……」


 視線をフォルテからボス部屋に向けると、中にいたのは鏡の魔人。いや、魔神だろうか? 反射する光に目を細める。


「んじゃ、行ってくるぜ‼」


 フォルテは、一人でボス部屋に入っていく。どんな戦いになるのだろうか……。


 ◇◇◇フォルテ目線◇◇◇


「さて、ガチモードで始めるか……」

『頑張って‼』

「トーゼンに決まってるだろ‼ 明理。アシストは任せたぜ‼」

『了解‼ ファイト‼』


 オレは拳を構えて敵を見据え、勢い良く床を蹴って急接近。連打を叩き込む。


 ――ガギィーン


 響き渡る甲高いフォルティッシモ。でも、オレの耳には届かない。聴こえてはいるが、気にする程の音ではない。

 明理がどうなのかはさっぱりだが、同じアバターでも思考情報や五感の情報は、バラバラだからだ。


「明理。〝外して〟良いか? 集中したいからさ……」


 外すというのは二つの意識を、完全孤立化させること。外している間は情報共有が途絶えて、オレの視覚・聴覚等は、明理には伝わらない。


『わかった、何かあったら、アレンを呼べばいいから。頑張って‼』

「おう‼」


 接続が切れる。アバターを操作するのは、オレだけ。仲間を呼ぶのも手だが、今は一人で戦いたい。


「よーし、やってやんよぉー‼ おぉりやぁー‼」


 ――ガギャァーン‼


 鳴り響く金属音。耳に音を受け止めて、猛打で魔神を追い込んでいく。秒速の打撃。痛みは感じない。感じる時間がない。

 ひたすら叩く。叩いて叩いて、敵のHPを削り続ける。魔神は未だ健在だ。少ししかダメージを与えていない。


「延長戦はマズイよな。アレン……。か。共に戦うのも良いか……。おい、アレン‼」

『急になんすか? 俺を呼んで?』

「一緒に戦わないか? お前のバトルも見せてくれ‼」


 ◇◇◇アレン目線◇◇◇


 フォルテに呼ばれたけど、一緒に戦えるって最高じゃん‼ 俺がゲーム始めたきっかけが〈ルグア異世界冒険記〉だったから、その主人公と戦えるんだよ‼


「喜んで‼ ルグアからもらった剣で、戦っても良いっすか? この剣を使いこなしたいので‼」


 右手に〈クリムゾン・ブレード〉を持ち、フォルテのところへ走る。からの、ボスとのすれ違いざまに、右回転の水平斬り。


「フォルテ‼ 俺は後方から援護するので、前衛お願いします‼」

「ラジャー‼ お前が持ってるそいつは、上手く使えば……」


 フォルテが言い切る前に、炎を剣に纏わせる。ここまでのやり方は覚えていた。勢い良く振り抜き、火炎の刃を飛ばす。


「やるなぁ〜。オレも負けてらんねぇぜ‼ どりゃあー‼」


 ――ガコーン‼


 拳と鏡がぶつかる音。フォルテが繰り出す一撃の威力が良くわかる。激しい攻防。ではなく、一方的な攻撃。

 ボスの魔神は、状況を理解していない。俺とフォルテに攻撃してこない。と思っていた次の瞬間。


 ――グワァウルアーウ‼ グルワァー‼ 


 魔神の雄叫び。気づけば空中に大量の鏡があった。魔神から放たれる光が乱反射して、レーザービームが飛び交い始める。

 接近戦は疎か、遠距離攻撃も難しい。どうすれば良いのだろうか……。


〖アレン殿。困っているようじゃが、我と……。いや、雷夜殿と組むのはどうじゃ? さすれば、威力も攻撃の手段も増えるじゃろうて、戦いやすくなると思うてのう〗


「お、お願いします……、クリムさん……」


 雷夜と、か……。すると、雷夜が駆けて来て、剣と一体化した。えっ⁈ 手を組むってこういうことなの⁉


「おい、アレン。バトルに集中しろよ‼ オレは明理みたい速くねぇからさぁ」

「はいぃ‼」


 そして、第八層ボスの後半戦が始まった。

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