第35話 鏡の間

「アレン、起きろー‼ 第八層だぞー‼」


 えっ? 第八層? 俺、第七層で何してたっけ? 覚えていない。初めて泳げるようになって、はしゃぎ回って……。


「酸素ゲージのロストでHP全損。私がいたから蘇生が間に合ったが、お前一人だったら、取り返しがつかない状態になってたんだぞ‼」

「えっ? 俺死んでたの? マジ?」

「マジだ。助かっただけ感謝しろよな!」

「それって何回?」

「20回、私も5、6回全損した」


 ルグアも全損してたのかよ⁉ 良く助かったなぁ~。って、お互いが全損したら意味無いじゃん。どうやって復帰したんだよ?


「全損時の自動蘇生魔法を使った。この魔法、1回の負荷が酷いんだよなぁ~。処理も時間かかるし。さすがに6回はきつかった」


 なら使わなければ良いじゃん‼ そんなに脳を痛めるならさぁ~。やめといたほうが……。


「問題ねぇって、それに私が早い段階で死んだら……。いや、これはまだ言わない方が良いか……」

「い、言わない方が良いって……」

「とと、とにかくだな。私はできるだけ死者を減らしたいんだ。前に他人の負荷を私が受けたことがあるだろ? それだけでも、死者は減らせる。お、お前にも……、成長して……欲しい……しさ……」


 なんか、照れてない⁈ ルグア顔真っ赤なんだけど‼ 照れてるよね⁉ そっぽ向いちゃてるし‼


「べべ、別に良いだろ? 私が照れてもさ……。どうやら私も……、お前のことが好きに、なっちまったみてぇだ……」


 なんかルグアの様子がおかしい。口調はどうであれ、女性らしさが目立ちすぎてる。ここまで女性らしいのは、これが初めてだ。

 男勝りな見た目に反した、照れ隠しの女性的な話し方。俺はもうメロメロだ。ずっとルグアを好きでいたい。誰にも渡したくない。


 今俺達がいるのは鏡で囲まれた場所。いくつあるのかわからない鏡に、姿が投影されている。


「アレン、早くしないと置いてくぞ‼」


 ケロッと元に戻ったルグアが俺を呼ぶ。でも、完全に行動を見損ねた俺は、8つ以上の鏡に映ったルグアを判別できなかった。どれも同じ見た目で全くわからない。


「ルグア、どこっすか?」

「「こっちだ‼」」


 四方八方から聞こえる声。頭がこんがらがって身動きが取れない。みんな一人称が『私』だから、本物がわからない。

 一体どれが本物なの? 誰か教えて‼ 思わず叫びたくなる言葉。気持ちを抑えて見定める。すると、


『おい、オレの方に来い。こうすりゃ簡単だろ? 〝あいつ〟から聞いたが、こういうやつは、一つだけ違うものが本物だ。だから、オレの方に来い』


 一人のルグアの一人称が変わった。良く見ると、オーラが黄金色から黒の強い紫色になっている。

 俺は、一人称が違う鏡へ向かい、中に入った。雰囲気も全部違う。今までのルグアではない。全くの別人だ。


「あなたは、誰なんすか?」

「ん? オレのことか? オレは……」

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