第34話 雷夜という者

『クリム先輩お久しぶりです。まさかこのゲームにもいらっしゃったなんて、ボク、感激です‼』


 このサソリが友人なの? 龍とサソリが友達? 人脈ならぬエネミー脈。ギルメン増えるのは良いけど、エネミーが増えるのはちょっとなぁ~。


『あれ? 君は……。初見だね。ボクは〈ライザレイ・スコーピオン〉。エネミーの姿だと話しづらいよね? ちょっと待ってて』


 エネミーの姿? 俺が疑問に思っていると、サソリが突然光りだして、人の姿に変化した。

 見た目は、小学生くらいの少年の姿。白銀の髪は肩を覆うくらい長く、金色のメッシュが入っている。


「こっちの方が親近感あるよね。繰り返しになるけど、ボクは〈ライザレイ・スコーピオン〉。呼ぶ時は雷夜でいいよ」


 透き通った高音ボイスはアイドル並みの可愛さだ。歌を歌うかのような語りは、心を穏やかにさせてくれる。


「は、はじめまして、アレンです。エネミーって人にもなれるんすか?」

「答えるなら、一部のエネミーだけなんだけどね。ボクはエネミーの姿が気に入ってるけど、初見さんには迷惑かなって……。動きやすさはこっちの方が良いから」


 今更だけどクリムと雷夜ってAI入ってるんじゃね? 絶対入ってる‼ どっちなのか知らないけど‼


「ん? この二人AI入ってるし、一から情報入力させていくボトムアップ型だが……」

「やっぱり入ってたんですね‼ ルグアさん‼ ボトムアップって、構成要素の簡略化で誰でも作れるようになったけど‼ プログラムは相変わらず難しいから、普及はしてないし‼ そもそも、最初から情報満載のトップダウンが多く広まってるから‼ お目にかかれて光栄です‼」

「急に〝さん〟付けかよ……。加えて語尾がいちいちうるせぇ~」


 そりゃ嬉しすぎるから、テンション上がるに決まってるじゃん。最高の気分だよ。だって、ボトムアップはやり取りが自然だから、話しやすいんだもん。

 俺は高揚する気持ちが抑え切れず、水中の方へ一直線。泳げないことを忘れて、両腕で掻き分けながら、右へ左へ移動する。


 って、もしかして俺、泳げてる? 水中ってこんなに気持ちが良いとは思わなかった。だんだん楽しくなってきて、自由に動き回る。

 水と触れ合うことができて、とても嬉しい。初めて泳げたのかもしれない。これなら、リアルでも泳げると思う。


「アレン。早く戻ってこーい‼」


 ルグアとクリムも笑顔で見守り、雷夜は、7層のボスのようだったが、泳ぐ俺を拍手で応援している。

 父さん、母さん。俺。泳げたよ。初めて泳げたよ。泳ぐって楽しいんだね。気持ち良いんだね。

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