第32話 無双に適した場所

 鍛冶屋で装備の強化をした俺とルグア。集合まで時間に余裕があったので、素振りと練習をすることになった。

 今回は水中での戦闘も練習メニューに入っている。もちろん、教えてくれるのは彼女である6歳年上のルグアだ。


『ほら、アレン。もうすぐで最適なバトルフィールドに到着するぞ‼ この場周辺は入り組んでるし、迷子になっても知らねぇからな‼』

「ちょ⁈ ルグア、待つとかしてくれないんすか⁉」


 早速遅れをとる俺。移動速度は桁違いで、ルグアの方が速い。頑張って追いかけるが追いつきそうにない。

 青い海を走り始めてから数分後、見えてきたのは魚類の群れだった。見た目はピラニアのような鋭い牙を持つ魚。噛み付かれたらひとたまりもないだろう。


「さ、始めますかね……」


 ――ガブッ‼


「あ、あの……。ルグア? ピラニアに噛み付かれてるけど……。大丈夫っすか?」

「ん? それがどうした? 私は別になんとも思ってないが……」


 でも、ルグアはHP100しかないんだよ⁈ なんとも思ってないなんて、どの口が……。あっ‼ 目上なの忘れてたわ……。


「おいおい、一人ボケツッコミはほどほどにしろよ‼ 私のことを気にしないで、お前は食われる前に動け‼」

「いや、先に食われてんのルグアじゃね? 身体中に群がってるけど……」

「だから。気にすんなって……」


 全くのその通りだ。間違ってはいない。なんせ短時間の間に、四十匹近くのピラニアがルグアにへばりついていたのだから。

 痛覚を感じているんだか、いないんだか……。ルグアの表情は、痛みを感じさせないくらい清々しい。


「私に直接攻撃してくれ‼ 回復魔法をラピットファイアさせてるから、HP気にせずかかってこい‼」


 みんな気にするよ。しかも俺の彼女だし……。殺したらどうすんだよ⁉


「私が死んだら、ウェンドラが喜ぶ。ただそれだけ……」


 ほんとにその言葉で済ませるんだ。どうしたものか……。ルグアは自分の命を守ろうとしない。

 逆に、命懸けで仲間や罪無き他人を守り、身体を張って指導をする。自分にも仲間にも鬼教官。そんな姿に惚れてしまったのだが……。


 強化したばかりの〈エレネス・ランス〉を使って、第四層でルグアが披露した舞いを、見よう見まねで再現する。

 突きから横スライド、終わり部分で斜め上に持ち上げて、バク転と同時にアッパースラッシュ。


「まあまあだな。でもい線はいっている。それなら、追加の動きを教えても問題ないだろう」


 この連続攻撃に続くモーションがあるとは……。俺はもうヘトヘトなのに、ピラニアに噛み付かれたままのルグアは現状維持で体操していた。

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