第6話 神速のルグア

 ◇◇◇ルグア目線◇◇◇


 私の身体に突き刺さる、風の針。皮膚を切り裂く、風の刃。全痛覚に刺激を受けながら、私は走る。

 久しぶりの強烈な脳への負荷。重くのしかかる痛みはゲームとは違い、痛みを軽減する痛覚補正が存在しない。現実と全く同じ痛みなのだ。


「3年振りか……。おっと⁉ 危ねぇ……。次は右からか……」


 緑狼りょくろうの行動パターンを暗記し、残りを全て勘に任せる。

 鈍くなっていた"バトル"専用のやつは、300段階にあたる二百万倍の負荷で、活性化。その能力を発揮し始めていた。


 勘は敵の動きを寸分違わず解析。次の動きを一足先に予測する。

 勢い良く振り下ろされる緑狼の尖爪せんそう。それを流れるステップで回避して、脚の付け根に一閃を喰らわせる。


「ようやく調子が戻ってきたな。んじゃ、十八番といきますか……」


 私はさらにスピードを上げて、誰の目にも映らない速さまで加速させていく。

 アレンは私を探しているようで、目をぱちくりと開閉し食らいついていた。でも、視認は不可能だ。


 すでに敵との間には、割って入ることができない。まあ別に無理やり入ってくるなら、味方に当たらないようにできるが……。

 神速の域に達しジャンプ力も上昇。緑狼の頭上から、高速回転斬りの雨を浴びせる。空気中の見えない壁を蹴り飛ばし、縦横無尽の斬撃の嵐。


 まるで魔法だ。仲間のことを一度忘れ、自分のことだけに集中。閃く刃は次々と緑狼にダメージを与える。

 空気の壁を足場に前後左右に飛び回って、ひたすら斬る、斬る。斬りつける。


 私は加速させたまま、もう一度アレンがいた場所を見る。しかしそこに姿はなかった。

 バトルに戻った私はクリアするまで止められない。止まることができない。ブレーキが効かない。


 すると突然、緑狼の近くだけが暗転、上から何かが落ちてきた。やむを得ずその場に留まり、気持ちを落ち着かせてギリギリまで待機。

 誰かが落とした球体に緑狼は押し潰され、私はぺしゃんこになる寸前で回避。ボス戦が終了した。


「お疲れ‼ ルグア‼ やっぱ神だ。崇めてもいいっすか⁉」

「別に問題ないが……。あの球体、お前がやったんだろ⁈ 一歩間違えたら私死んでたんだからな‼ ま、ウェンドラが喜ぶだけで済むだろうが……」

「なんで、ウェンドラが⁉」

「ん? なんとなく……、そう思った。あいつのことだし……」


 こうして第二層をクリア。私とアレンはギルドメンバーに報告するため、街に戻る帰り道で……。


「あの、ルグア? 今更なんすけど、仮定の数字間違えているんじゃね? って思って……」

「あれか……。ただ単に、ウェンドラが言っていたことを言っただけだが……」

「はぁ……。なるほど……」


 ほんとのことを言うと、機械の構造に興味があるだけ。専門知識は無いので、上手く答えることができなかった。

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