第14話 初めての依頼

 「ああーーーーっ!」

 大声が早朝の村を木霊した。

 たく、なんなんだ?

 「あ、あ、あああああーー!」

 自分たちを指さす、若い男。

 濡れた髪は、今出てきた場所=共同浴場からも分かるように、風呂上りなのだろう。

 けど・・・

 「あわわわ。何?おまえら何!なんなのさ」

 目を剥いて言う男。

 「何って、何?」

 「何、じゃないよ詩音ちゃん。なんで、そいつと二人で、いったいどこから来たのさ!」

 「どこからって、川辺?」

 「かわ、かわ、川辺!って、なんで!」

 「朝からやかましいのぉ。詩音と儂で川辺で汗流して来たんや。そやから風呂でも行こかいうて、連れだってきたんやんか。」

 「ふふふふふ二人で!汗っ、なが流してっててててて!」

 「なんやねんタチバナ。お前おかしいんちゃうか?」

 「いやいやいやいやいや、おかしいのはそっちだって!なんで詩音ちゃんとお前が朝っぱらから二人で汗とか、あせとか・・・・あーーーーーっっ!」

 なんか一人でもだえているけど、本当に大丈夫だろうか。


 「どうしたタチバナ!って詩音とタツ君じゃない。どうしたの?」

 「どうしたのやないで、お姉さん。タチバナが朝っぱらから大声出してうるそうてかなわん。」

 「おね、おね、おねえさんって!」

 「なんやねん。詩音のお姉さんやねんからおねえさんでええやんか。なぁ。」

 「まぁ、私はなんでもいいけど。ていうか、詩音、お散歩行ったっておかみさんが行ってたけど、タツ君と一緒だったんだね。」

 「うん。川辺でいろいろ、まぁ、お話ししてた?」

 「そうや。肉体言語っつうやちゃ。」

 「肉、肉肉肉・・・・」

 「あ、タチバナ君白目剥いた・・・」

 「あらまぁ。まあいいわ。お姉ちゃんが面倒見ておくから、詩音もタツ君も早く入ってらっしゃいな。後でお話し聞かせてね。」

 「わかった。」

 「ほんならお姉さん、お願いしますわ。いこか、詩音。」

 「ん。」


 しかし、賑やかだ賑やかだって思ってたけど、ほんと、タチバナはうるさいな。それに何か一人で興奮して目を剥くなんて、変な病気じゃないの?おねえちゃんにまかせたけど大丈夫かな?

 そう思いながら、脱衣所に入ると、双子と中川さんがいた。

 「あれ、詩音、今から?」

 「早くしないと、朝ご飯先に食べちゃうよ。」

 「うん。あ、そうだ。さっき表でタチバナ君に会ったよ。なんか一人で興奮して目を剥いちゃった。お姉ちゃんが面倒見るって言ってたから置いて来ちゃったけど・・・」

 「まったく、あいつ、何やってんの。」

 「ブフフ。お風呂でのぼせたところにかわいい詩音ちゃんと出くわし、興奮もMAXになったんでしょう。グフフ。」

 「詩音は心配しなくても、私たち香音姉かのねえを手伝うから、ゆっくり入っておいで。」

 「フフ。分かった。よろしくね。」


 まったく、早く入るのかゆっくり入るのかわかんないな、そう思いながら、一人お風呂に入る。

 あ。貸し切りだ。


 衝立を介して、隣の男湯でも、なにやら人の気配がする。


 「お、詩音、入ったか。」

 「タツ?」

 「おお。こっちは誰もおらへん、貸し切りや。」

 「こっちも一人。」

 「ハハ、朝から贅沢やのお。」

 「いっつもこんなんなのか?」

 「まぁ、朝はこんなもんかなぁ。昔はそうでもなかったんやけどな。」

 「ふうん。」

 「なぁ、詩音、さっきの話やけどな。」

 「さっきって?」

 「力、貸して欲しいっつうやつや。」

 「ああ。」

 「マジで頼むわ。」

 「できることなら、な。」

 「おお。マジな、この近くにも助け求めてるやつおるねん。」

 「はぁ?いや、そんな簡単に駆り出すつもりかよ。」

 「正直なところ、切羽詰まっとる。」

 「・・・はー。まぁ、いいけど。」

 「おおきにな。今日、このあと、連れていきたいんやけど。」

 「姉ちゃんたちはどうするよ。」

 「そうか。それやな。ま、ええわ。観光、つうことで車出させるわ。向こう行ってから、結界つこうて、二人でいこか?」

 「言っとくが、お前以外に前世のことは。」

 「わかっとるって。誰にもばれんようにする。」

 「なら、いいけど。」

 「おおきに。ほんまおおきにな。」

 「・・・ああ。・・のぼせそうだな。俺、いや、私はもうあがるね。」

 「よっしゃ。儂も宿で飯もらうさかい、出たところで集合な。」


 そうして、タツと二人旅館へ戻ったところで、またタチバナの大騒ぎがあったが、タツの提案どおり、もう少し山奥の秘境の神社なる場所が景色もきれいだから、と、全員で車ででかけることとなった。一応、旅館の車で送り迎えしてくれる、という。さすがに龍神様。村人はなんでも言うことをきいてくれるようだ。


 旅館の車は、小さなバスというか、まぁ、そこそこ人の乗れるワゴン車で、主に送迎に使っている、という。

 運転手のおじいさん、あとで迎えに来てくれる、とのこと。しかもお昼を食べるところはないから、と、お弁当まで渡された。

 そして帰るとき、私の耳元にささやいた。

 「私の子供たちがお世話になります。」

 「え?」

 聞き返す私に、ニッと笑ったおじいさん。そのまま車をもと来た道へ。


 車1台が止められる程度の広さのその広場からは、二人は並べないよな、と思わしき石畳の階段が上へと伸びていた。

 その麓にはなにやら書かれた石の柱。が、風化していてなんてかいてあるかは、よく分からない。

 きゃいきゃい言いながら、双子主導で、その何がかいてあるか分からない石の柱と、階段が写るように記念撮影。そして、先の見えない石畳に、みんな、とくにピーチが大きなため息。


 「この上な、小さい建物しかないけど、上がったもんだけが堪能できる絶景があるんや。んでな、胎道っちゅう名前の真っ暗な洞窟が本殿の後ろにある。狭いし暗いからな、気ぃつけて歩くんやで。怪我せんようにな。これはな、おかんの腹の中から出てくるのを再現してる言われてんねん。ええか、一人ずつ、間、開けて入るんや。新しい自分に生まれ変わる、ちゅうんを再現してるんやからな、人と会わんようにせなあかんねん。」

 「へぇ。なんかちょっと怖いね。」

 「平気平気。お化け屋敷みたいで、ワクワクだよ。」

 「お化け屋敷は、女の子と堂々と手をつなげられるからいいんだよ。てことで、詩音ちゃん、僕と手をつないでいこうか。」

 「あほかタチバナ。聞いとったか?一人で入るんや。これは絶対や。いややったら外で待っとり。へたれって言い回ったるさかい。」

 「な、だれがへたれだよ!おまえが抜け駆けしたからこっちも焦ってるんだよ。てか、なし。今のなしね。俺が1番に入ってやるよ!」

 「はは、その勢いや。せやけど、この階段もあるしな。絶景も見た方がええ。まぁ、自分のペースでみんな行きや。ほな詩音、行くか。」

 「ん。」

 私は、歩き出したタツに続いた。

 なぜかわめきながらタチバナは走り出すが、あれで上まで持つのかな。

 

 中腹までは走り去っていったタチバナが先頭、タツと私。少し開いておしゃべりが忙しい双子と中川さん。さらに開いてピーチ。体力のないピーチにつきそうように進むのはお姉ちゃん。

 そう、中腹まで。

 走ったりわめいたりと、ペース配分を間違えたタチバナを抜いた私たち。

 結局、お姉ちゃんに拾われて、ピーチと3人で来るようだ。


 みんなに先んじること数分。

 確かに絶景だ。

 しばし景色を楽しんだ俺は、後ろに立つタツを振り返った。


 「悪いのぉ。そこに例の洞窟があるんやけど、入ったら普通に目がきかんぐらい真っ暗になる。ゆっくりと左手に曲がっとるんやけど、暗くなってすぐに右手に結界が張ってるんや。シオンやったらわかるやろから、その結界抜けたとこで待っててくれるか。次のん来たら洞窟の場所案内してすぐに行くさかい。」

 「分かった。」


 俺は、ステータス盤をシオンへと変えながら、洞窟へと足を踏み入れたんだ。

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