第15話 洞窟

 本殿の裏にある洞窟、というのは、本当に小さな入り口で、背の高い男なら頭をぶつけそうな、そう、180センチ程度、幅は2人は並べないぐらいの、70センチ程度のものだった。

 が、1歩踏み入れると、ドーム状の空間があり、2メートル×3メートル程度の奥に長い楕円状に広がっている。高さも高いところで3メートルぐらいあるだろうか。

 このドーム状の空間までは、うっすらと光が差し込んで、ごつごつした感じが、前世で何度か挑んだダンジョンの入り口にも思える。


 奥に、入口とほぼ同程度の高さ・幅の道が続いているよう。

 大きく左に曲がったその奥の壁の腰ぐらいの高さに、おそらく人工的なくぼみが掘られ、そこにろうそくがゆらゆらとオレンジの炎を揺らめかせている。

 この炎の揺れが、辺りのごつごつした岩肌を映す様子は、ある意味で神秘的、ある意味で不気味なのだろう。


 この洞窟の明かりは、そのろうそくで最後のようだった。


 1本道に沿って大きく左に曲がる。うっすらとカーブに沿って歩くが光はほとんど届かない。

 さらに奥に見えるのは無数の備えられた地蔵のようだ。3センチ程度の小さいものから大きくても20センチ。奥の方は段々に飾られ、手前には無造作に折り重なって置かれている。

 光がもう届かないから、これが同じような顔をした地蔵だ、と分かる者は少ないだろう。うっすらと黒いシルエットが浮かび上がる様子にぞくり、とするかもしれない。


 それを過ぎるとさらに真の暗闇。

 一切光が入らない。

 壁に手を置いて進むのか、手が触れる高さの岩肌は無数の手が触れたためであろう、つるつるとしていた。

 多少蛇行しながらも概ね左へと進むその道を通常にたどれば、入り口の左手のどこぞの穴から表にでれるのだろうな、なんて思いながら、俺は通常の人よりも元々良い視力を身体強化でさらに上げて、暗闇の中を見回した。


 地蔵エリアから数歩。

 強化した視力で見ると通路の右手が、一部、こぶのように凹んでいる場所があった。

 こういうのは別に洞窟なら珍しくはない。が、何か感じるものがあって、そのこぶの中へと歩を進めた。


 そのこぶの中も、暗闇の手探りの洗礼にあったのだろう、壁は岩肌がつるつるとしている。通常に人が通れる場所だ、というのはそのことからも分かった。


 しかし、よくよく見ると、何かおかしい。

 魔力を帯びてる?

 さらに魔力を介した視覚にスライドさせる。

 普通に岩肌に見えていた壁の一部が、扉の形に魔力を帯びているのが分かった。


 その岩肌に現れた扉の形をした魔力の前に立つ。

 実際、これは岩をくりぬいて戻したのだろう。

 さらに目を凝らすと、うっすらとした隙間があって、その隙間から魔力があふれ出ているため、遠目に扉型の魔力に見えたようだ。

 俺は、その扉をそっと押してみた。


 ちょっとした抵抗はあるものの、重めの扉という感じで普通に扉は開いた。

 俺は1歩踏み出す。

 違和感があった。

 これは結界か?

 最初、扉を押したときにあった抵抗が、これなんだろう。



 踏み込んだその先は、まぁ、変わりばえのない洞窟だった。

 いや違うな。

 5歩ほど進んで、すぐにそう思う。


 これは人工的なトンネルだ。

 幅と高さがほぼほぼ同じで、少なくとも今までのように自然とできた穴ではなく、仮にもともと穴があったとしても、それを広げて同じような幅にしたとしか思えない。

 それに地面。

 岩肌ではあるが、凹凸がかなり少ない。ざっくりと均したのは間違いないだろう。


 そんな風に観察しつつ、強化した目でゆっくりと進む。


 誰?


 そんな俺の目に、ぼうっと浮かび上がる白い着物姿の、女?

 着物、と言っても肌襦袢のような薄いもの。

 帯も浴衣にするような、細いヒモでここからじゃ分からないけど、濃い色なんだろう。今は黒っぽいヒモで腰のあたりを搾っているようにしか見えないが。

 そして、胸元まで垂らされた、ストレートヘアー。


 魔物?


 俺は、少し気を引き締める。

 人型のの放つ気配が、人間とは異なるものだと、すぐに分かったからだ。

 だが、敵意は・・・感じない?

 は、身じろぎもせずこちらを見ているよう。

 約10メートル。魔法はもちろん、霊剣でも十分対応できる彼我の距離。

 さて、どうしよう。

 考えてみれば、結界を超えて勝手に入ってきたのは俺のほう。

 招かれざる客、というわけだ。

 こちらから斬りかかる、なんてのは非礼に過ぎるか?

 そんな風に思って、思わず苦笑した。

 これは、この世界に生きてきた弊害か?

 敵、なれば、早めの対処が吉。

 勝手に入ってきたから斬りつけるのが非礼?

 向こうが仕掛けてきたら、手遅れかもしれないのに?

 られる前にれ。そんなの常識だろう?


 だけど・・・


 ダメよ、そう私は否定する。

 お邪魔したのはこっち。

 それに敵意もないし、こっちがその気なら瞬殺できる。

 決して強者じゃない。

 ただ、、それだけ。

 それなら、タツだって同じじゃない?

 私は、緊張感は保ちつつ、さらに1歩、また1歩と近づいていく。


 彼我の差3メートル。

 、いいえ、が動いた。

 こっちをじっと見ていた白い着物の女性は、おもむろにきれいなお辞儀をしたのだった。

 

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