第11話 龍神の村
山奥の割には整備された道路。なるほど、ツーリングが盛んなことはある。このカーブは、走っていて楽しかろう。
道路の遙か下には、川が流れていて、山があって。
村には、龍神様を奉る神社と共同の銭湯。もちろん温泉。
有名な銭湯らしく、この風呂を目当てにドライブ、という人も多いのだとか。ちなみに薄い生地のタオルが売っていて、手ぶらでも入浴が楽しめるシステム。
村自体は小さな集落で、その名も龍神温泉、という旅館が1件あるだけ。
温泉に入るために来る人は多いけど、泊まる人は少ないのだとか。
高野山か大阪まで行っちゃうのよね、とは女将さんの言葉。
若い人が少なくて、私たちのことは大層喜ばれた。何故か、多くの村人が宿に集合して、大広間で宴会が開かれるくらいには。
とまぁ、まじめに言ってみたんだけど、今俺はかなり、複雑な心境だ。
温泉、である。
旅館にも男女別の風呂はあったが、大きいところへ、ということで、村の共同浴場に来ている。一応、旅館宿泊者は無料なのだとかで、浴衣を着て、みんなでやってきたんだが。
吉澤詩音。花も恥じらうJK様だ。
JK=女子高生。すなわち女子、だ。
女子なんだから女湯に入るべきで、一緒に入るのは、同級生と姉。全員同じくJK。
中身。シオン・グローリー、享年19歳、♂。
いや、記憶を取り戻してから5年。
だからと言って、詩音が消えたわけじゃない。
別に自分が男とか女とか、あんまり気にしないで生きて来れた。
詩音は、もともとのほほんとした性格、というか、主張をするような性格じゃなくて、流されるままに、周りに可愛がられて生きてきた。
ハハハ、考えてみたらシオンだって変わらないか。
主張する、ということができない環境で、流されるままに冒険者になって、命じられるままに魔王討伐のパーティを組み、あれよあれよと殺された。
記憶もないのに、自分がこうしたい、という欲望もなく詩音も生きてきたんだなぁ、なんて、周りの裸体を見つつ、感慨深げに思う。
今回一緒の女子はナコ、ミコ、中川さん、姉。
ナコとミコは裸になってもそっくりだなぁ。
かわいいから美人になる正に途中、といったかんじ。
中川さん。性格はともかく美人でモデル体型。まぁチッパイだけど。細いからな。
姉。色々スポーツ好き。私と違いスラリと背も高く、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。クールな顔にわがままボディ、いい意味で。
私は、まぁ・・・
顔がね、高校生には見えないし、チビだし。小学生とか言うなよ。たまには中学生にも見えるんだから。て、言っててむなしい。
なのにスリーサイズは、姉とほぼ同じ。
で、さっきから、ナコとミコが順番にわぁわぁ騒ぎながら、乳をいじってくる。
別に私はずるくないし、卑怯でもない、と、思う・・・
中身が19歳♂(プラスαと重ねるべきかは、ちょっと分からん)といっても、そこは肉体に引きずられているのか、こんな美女たちの裸を見ても、助平心が沸き上がるでもなく。まぁ、前世の頃から、王女の言動もあってか、また旅ではすぐに裸になってうろつく女にことかかなかったってこともあってか、そもそもが心を動かされることも少なかったのもあるのだけれど、でもやはり、こうあけすけと裸体をさらされ、こっちも触られているのは、なんだかなぁ、と、ため息もつきたくなるというもの。モノローグへと逃げたくなる心中も察して欲しい。
そんな、騒がしい日を過ごした翌朝。
念話で起こされて、やってきたのは龍雄を奉るらしい神社。その敷地から下ったところにある川岸で・・・
「じゃあ、やろか。」
みんなが寝静まっている中、もともとが魔素(ではないらしい。そんな邪悪そうな言い方しんといて、と、タツには怒られた。神気が満ちてる、というのだそうだ)が濃いと思っていた、その辺りを、ブワーンっという音と共に、さらなる力が広がった。
それは、龍雄を起点としているようだ。
そして、その龍雄の力に誘われるようにして、別の魔力溢れる存在が、ポツンポツンと浮かび上がる。
「立ち会い、ちゅう名の、見学者いや見物人や。みんなシオンの力が気になってしゃあない、神仲間や。」
なんだよ、神仲間って。
が、確かに龍雄と同じような魔力を神気というなら、かれらは神気をそれぞれ纏った、力の塊、というところか。
「まぁ、気にせんでええ。この中は下界と違うさかい、現世に影響はあたえへん。見学の神々も、おんなじところにおれへんから、怪我とかする心配もないし。いうたら、儂ら二人だけや。心ゆくまで拳で語ろうやないか。」
ニヒっと、唇を歪めるタツ。
好戦的なことで。
拳、と言っているが何でもあり、という理解でいいんだよな。
とっくにシオンへとステイタス盤を移行したオレは、手に霊剣を呼び出す。
思った通り。
ずっしりと馴染む触感が、右手に感じられる。
ドクン。
オレの心臓が、一つ大きくはずむ。
強固な魔力がオレを包み込む。
纏わり付くこの魔力の感覚も、懐かしい。
一瞬、水に包まれたような錯覚が起こったかと思ったら、次の瞬間には、オレの脳に、幾多の情報がかけめぐる。
敵の息づかいから、魔力、土を踏みしめる音、動く空気の流れ。
それらを脳の奥で感知し、一瞬で判断を下している自分がいる。
ああ、これもなんと親しんでいた懐かしい感じなんだろう。
そんな様子を片唇を不敵に上げて見ているタツ。
その視線も息づかいも感じる。
強い。
ああ、こいつは強いな。
オレは、さらにピッチを上げる。
「へぇ、こりゃほんまにすごいやんか。悪いけど、本気出させて貰うわ。」
ブワッと、空気が厚みを増した。と、思ったら、息が出来なくなるほどの魔力。
なんだ!
やつが仕掛けたのは分かる。
いったいどれだけのものを隠しているのか、まだ対峙しただけなのに冷や汗が止まらない。
まだまだふくれあがる、やつの魔力。
一瞬収縮した?
思った瞬間、ビッグバンか、と思うほどの爆発的な広がり。
思わず、防御に全振りし、息をつめた。
キーン。
そんな音が聞こえるぐらいの静寂が突如襲う。
思わず爆発から顔を覆ったその腕をゆっくりと降ろす。
「龍神・・・」
思わずオレはつぶやいた。
ああ、龍神とはこういうことか。
こりゃ、見知ったドラゴンとは完全に別物だわ。
前世で、何度かドラゴンと呼ばれる魔物とは対峙した。
そういやあれは、どっちかってぇと、この世界で言う西洋ドラゴンに近かったな。
が、今、目の前のもの。
これは、龍だ。
日本人として生きてきて、龍、と言われて思い浮かべるもの。
まさにそれが、目の前の空間に浮かんでいたんだ。
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