2025年お正月小話

去年の年末年始は二人で旅行を楽しんだけれど、今年は秋に引き取った2匹の猫を置いてはいけないからと早々に旅行は諦めて、家で過ごすことを決めていた。


2匹をペットホテルに預けるという手段もあるとはいえ、やっと我が家に馴染んで我が物顔に駆け回っている2匹を不安にさせて旅立つことは、わたしにも真凪まなにもできなかった。


ルナは年老いた猫だったから活動量も少なくて、多めに水やフードを置いておけば手間が掛からなかったけど、家中を飛び跳ねている成長期の2匹はそうはいかない。お陰でお正月でもわたしは普段と同じ時間に起き出す。


一緒のベッドで寝ている真凪も、わたしが起きるのに合わせて覚醒した気配はあったけど、すぐにまた眠りに落ちてしまう。真凪が朝に弱いのは今に始まったことじゃないので、それは見慣れた光景だった。


寝室を出て、まずは2匹をケージから出して朝ご飯をあげるところまでは、いつも同じルーティーンだった。一心不乱にキャットフードを食べるロトと、ちょっと食べては休憩するノアは性格が全く違う。


ロトは自分の分が少なくなるとノアのフードを食べようとするので、2匹が食べるのを見守りがてらブロックする。


「ロト、駄目でしょ」


ロトは怒られると、何でもなかったように自分の皿に戻って残りを食べ始める。1匹だと、猫ってこんな行動をするんだって思い込みがちだけど、2匹いると猫にも個性があることに気づく。


今日は急いで何かをしないといけないものもないので、ノアがごはんに飽きるまでを見守ってからわたしも立ち上がる。いつもなら朝食の準備をするんだけど、休日だし真凪はなかなか起きて来ないだろう。


それでも、昨日までは大掃除って程じゃないけど、普段掃除できないところを掃除したりとやることはあった。でも、今日はお正月なんだし、ゆっくりしてもいいかなという気分になる。


真凪も寝ているし二度寝しようと決めて、わたしは寝室に戻った。


シングルのベッドを2台くっつけているせいで、寝室はベッドが大部分を占めている。


残っているのは僅かな家具と通路だけで、喧嘩をしても離れるだけの距離も確保できない。


人と触れ合うことに臆病なわたしには、それくらい逃げ場がない方がいいのかもしれないけど、最近は真凪と目立つ喧嘩もしていない。


ロトとノアを飼い始めてから、猫バカな真凪に呆れることはあっても、2匹を慈しむ真凪に共感してしまう自分がいて、何だかんだと二人でやってることが多いからかな。


ベッドは、わたしが抜け出した状態がそのまま保たれていて、隅に横寝で眠る真凪は、わたしに戻っておいで、とでも言うように向かいを空けて眠っている。


そこに潜り込むと、


佳織かおり?」


寝ぼけ声の真凪の声が届いたけど、まだ夢うつつなのか、そのままわたしの体を自らに引き寄せただけで再び寝息が聞こえてくる。


真凪の温もりに包まれると、わたしはもうそこから抜けだそうなんて気にはならなくて身を沈める。


付き合い始めたばかりの頃は、真凪と体がほんの少し触れることすら緊張を感じていたけど、今は真凪が触れても素直に身を委ねることができるようになった。


それは真凪と触れ合うことに慣れたってこともあるけど、心理的に真凪を信頼するようになったことも大きいだろう。


真凪は器用な人じゃないけど、優しくて真っ直ぐな人だ。人と触れ合うことに臆病なわたしに、本心でぶつかってくれたからこそ真凪を信じようって思えるようになった。


この人の手を離してしまっていたら、わたしは今も何も得られないまま独りで過ごしていただろう。


真凪におはようと新年の挨拶をしたい思いはあっても、このまま真凪の腕に包まれていたさもあって、わたしは意識を曖昧にさせる。


お正月くらいは、無為に過ごしてもいいよね。


真凪の腕の中で半覚醒のわたしは、真凪の手が体を滑って行くことに気づく。


それがただの身動ぎの所作でないと気づいたのは、真凪の手がパジャマの隙間からわたし素肌に潜り込んできたからだった。


「真凪、起きてない?」


わたしの声で真凪は動きは止めたものの、応答はない。


これは怪しい。


「まーな、起きてるでしょう?」


「起きてない〜」


苦し紛れの声が届く。これは確信犯だ。


「起きてるじゃない」


「起き上がってないからノーカウント。珍しく佳織がベッドに戻ってきてくれたんだから、いちゃいちゃするくらいいいじゃない」


「いちゃいちゃだけじゃないでしょ」


わたしの声にも怯まず、真凪はまだわたしの素肌に触れている。真凪の細い指が背を這うだけで、ぞわっと寝ていた感覚が呼び覚まされていく気がする。


「いいじゃない。お正月なんだし、一番したいことをすべきでしょう?」


「半分寝てたくせに、本能に従いすぎでしょう」


「佳織、大好き。愛してる」


『おはよう』よりも先に愛を囁いてくれる人に反抗はできなくて、わたしは身を委ねていた。



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明けましておめでとうございます。

今年もマイペースですが、更新して行きますのでよろしくお願い致します。

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後輩として、恋人として 海里 @kairi_sa

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