猫の日記念2023 Gift
「これでいいの?」
スマホを持ったままの
「これならプレゼントじゃなくて、私が普通に買うよ?」
「いいの、他に欲しいものも今はないから」
数日前、わたしは真凪から誕生日プレゼントは何がいいか考えておいて、と言われていた。
この冬の誕生日でわたしは29歳になって、出会った頃の真凪の年齢に追いつくことになる。それがもうそんなに経ったなのか、まだそれだけしか経っていないか、どちらだろう。
「
「お小遣い制にする?」
わたしと真凪は生活に関わる費用は毎月定額を出し合って共同のお財布を作っている。でも、それ以外は個々で管理だった。
だから、真凪の年収もわたしは知らなくて、わたしよりも多いだろうという程度の認識だった。
「それだけは勘弁して〜 佳織とロトとノアのために散財するのが私のストレス解消方法なの」
真凪はすぐに目についたものを買っちゃうところがあるけど、確かに自分のものへの散財は少ない。2匹の猫を引き取ってからはそれは顕著で、呆れるくらい一気に部屋が猫のもので一杯になった。
「買うなとは言わないけど、置く場所を考えてからにしてね」
「そうする」
ソファーに座る真凪に引き寄せられて、そのまま隣に招かれる。
「それで、佳織の誕生日プレゼントは、本当にこれでいいの?」
少し前にわたしが送ったURLを開いて、真凪は商品の細かなチェックを始める。
「どのくらい役に立つかわからないけど、仕事中に何してるか気になるんだもん」
「そうだね」
わたしが真凪に強請った誕生日プレゼントは、ロトとノアの行動を記録できる首輪型のデバイスだった。
スマホアプリで記録は確認できて、いつ寝ていつご飯を食べたとかが表示される仕組みになっている。
外部から確認できる室内用の監視カメラは設置しているけど、それだけでは2匹が捕捉できないこともあって、前から気にはなっていた。
自分で買うつもりだったけど、真凪に誕生日プレゼントに何が欲しいかと聞かれて、思い浮かんだものもなくて、そのデバイスをリクエストすることにした。
だって、わたしは真凪がいてくれることこそが最大の幸せだから、今それは叶っている。
「これ、トイレ用のデバイスもあるみたい。こっちも買おうか?」
「真凪はすぐそうやって増やすんだから」
「でも、猫にとってトイレの管理って病気の予防って意味で大事じゃない?」
「そうだね」
確かに真凪の言う通りで、猫は尿路結石や腎臓病に罹りやすいので目で見えるものがあるのとないのでは大きく違うだろう。
「じゃあ、これも買うでいいよね?」
「何が確認できるの?」
真凪のスマホを覗き込んで、チェックできる項目を確認する。
「これならいいけど、半分出すよ」
「佳織の誕生日プレゼントなんだから、だーめ。そのために私は頑張って働いているんだから、佳織は誕生日くらいは私に気を遣わずに我が儘言って」
「別にいつも通りでいいから」
だって、わたしは真凪との日常だけで十分楽しめているのだ。
「せっかくの誕生日なのに〜 お姫様ごっことかするのどう?」
「それ、真凪がしたいだけでしょ?」
「したい」
真凪は相変わらず迷うことなく本心をわたしに見せてくれる。
「それは考えておくけど、今はこっちでしょ」
そう言ってスマホの画面に戻ってデバイスを注文する。
「来るの楽しみ」
そう言うと真凪から笑いが返される。
「笑うことないじゃない」
「だって、猫はもう飼いたくないって言ってた佳織が、自分の誕生日プレゼントにロトとノアのものがいいって言うから」
真凪に乗せられたのは分かっていたけど、飼えば情は湧いてしまうものだ。
「拗ねないで。ロトとノアは私たちにとって、かけがえのない家族だよね」
頷いたわたしに真凪の顔が近づいてきて、そのままキスを受け入れる。
真凪と二人で暮らすのも良かったけど、ロトとノアがやってきたことで、その中に新しい風を吹き込んでくれたように私は感じていた。
そして、それが真凪とわたしの関係に家族らしさを与えてくれた。
真凪のキスは触れるだけでは済まなくて、本気度を増して行く。
ここでする気かな。
別に拒否する理由もなくて、まあいいかとそれを受け入れる。
真凪と触れ合うことはもう日常になった。
もっと言えば、真凪が私を求めてくれることが嬉しいと感じられるようになった。
それは真凪がわたしだけの存在だという証なのだ。
キスを続けている内に、不意に真凪の行動が停止する。
「真凪?」
首だけで自らの背を見る真凪に続いて、わたしも視線をやると、
「ロト!」
真凪の背中にどこから飛んできたのかロトがくっついていた。
真凪の声にもロトは驚きもせずに、あろうことかその上に座り込む。
「佳織、笑いすぎじゃない?」
「だって、真凪の背中が広くて気に入ったみたいだよ、ロト」
真凪は身長が高いので、それに応じて背中もわたしより広い。
「どうしたらいいの〜」
「その格好で我慢?」
元々わたしに覆い被さるというちょっと無理な姿勢をしていた上に、ロトに乗っかられたのだ。幾らロトが軽めとはいっても、時間が経つにつれて辛くなってくるだろう。
「佳織といちゃいちゃしようと思ったのに〜」
「自分たちも忘れるなってことじゃないかな。じゃあ、わたしはお風呂に入ってくるね」
そう言ってわたしはソファーから抜け出して立ち上がる。
真凪はロトを動かすことは諦めたようで、ソファーにうつ伏せに身を任せて寝そべっている。
すぐにノアも真凪の顔の傍にやってきて、ぐるぐる喉を鳴らしている。
「大人気じゃない」
「想像していた猫ライフと違うんだけど……」
ここは飼い主である真凪の頑張りどころかな、と唸る真凪を残してわたしはバスルームに向かった。
end.
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猫バカのお祭りの日なので、今年も書いてみました。
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