水上真凪の非日常 第3話 結婚式

その夜から佳織の元には沙織さんから次から次へと情報が届いて、まずは式場の確保を最優先する。


やっと決まってもそれで終わりではなくて、そこからがまた大変だった。それを先導してくれたのは既婚者である沙織さんで、私と佳織は週末に埋められていくスケジュール通りに動くだけで準備が進んで行く。


いつもは途中で気弱になる佳織が挫けなかったのは、はっきり言って沙織さんの情熱のおかげだろう。沙織さんにとって佳織は本当に大事な妹で、その妹を託す存在として私を受け入れてくれているのは素直に嬉しかった。


式の参列者は、佳織の家族は佳織の要望で沙織さんだけで、私も伯母夫婦には言えずにナナちゃんと唯依ゆいにだけ声を掛けた。


ナナちゃんと唯依はすぐに別れるかもと思っていたけど、意外と長続きしていて、最近唯依は少し性格が変わったように私は感じていた。唯依を甘やかさないナナちゃんは案外良い組み合わせなのかもしれない。


結婚式の日、佳織と手を繋いで式場に向かい、それぞれ別室で準備に入った。


ドレスを選びに行った時に今日の佳織のドレスは見ていたものの、ドレスアップするともっと綺麗だろうと妄想しながら自らの支度を式場のスタッフに指示されるまま進める。


私の今日のドレスは、佳織と沙織さんがまだ入荷前のものまでカタログを引っ張り出して、半日近く検討した結果選んでくれたものだった。


私のなんか、そんなに真剣にならなくてもと思ったんだけど。


それでも、佳織と並んで歩いても邪魔にならないものという私の要望は聞き入れてくれる形で、マーメイドラインの裾がそれほど拡がっていないドレスだった。


私の方が先に準備を終えて控室でナナちゃんと唯依と待っていると、準備ができた佳織も入ってくる。


佳織には少し華やかめのドレスがいいと私が選んだのはシルクのプリンセスラインのドレスで、背中のリボンが緩く裾まで拡がっているのがポイントだった。


胸上で留まるタイプのドレスで、佳織が肩を晒す姿なんてまず見られないので、思わず抱きつこうとしたところをナナちゃんに止められる。


「水上さん、そういうのは式が終わった後に存分にしてください。今は崩れるから動いたら駄目です」


ちょっとくらいと言ってみたものの、許してもらえなくて仕方なくしっかりと佳織の姿を焼き付けておこうと視線だけを佳織に向ける。


すごく綺麗で可愛い。


語彙力がないのでそんな言葉にしかできなかったけど、私のパートナーだと周囲に言いふらしたいくらいに、顔が弛む。


そのすぐ後に、式場のスタッフと調整を終えた沙織さんも顔を出して、揃って式場へと移動をしていく。


ナナちゃんと唯依だけが参列者席に座って、私は奥の祭壇の前に立つ。佳織と沙織さんは入口近くに留まって式が始まるのを待った。


親族として出席するのが沙織さんだけなので、オルガンの音が響く中で、佳織と沙織さんが腕を組んで、ヴァージンロードを歩いて私の元にやってくる。


沙織さんは今日は主役じゃないからと、黒の落ち着いたドレス姿で、その沙織さんに導かれるように歩いてくる佳織は清ましている分絵画のような静謐さに満ちていて、いつもとは違う綺麗さに心を奪われる。


写真だけ撮るでいいと言ったけど、やっぱりちゃんと式をするのとは大きな違いであることに今更ながらに気づく。


一生の思い出になるのは間違いないだろう。この佳織を見られたことがやっぱり嬉しい。


一歩ずつゆっくりと歩みを進めて、私の目前まで来た佳織に目を細めて腕を差し出す。


肘上までの白い手袋をした佳織の腕が絡められると、本当に今日結婚するのだと感慨が押し寄せてくる。


結婚しているみたいなもののつもりだったけど、女性同士は法的には男女と同じ扱いではないので、関係に明確な線引きをすることは難しい。


こういう晴れの日的なものも、心の区切りをつけるという意味ではやっぱり必要なのかもしれない。


「真凪?」


「……もう泣きそう」


式はこれからなのに、と笑う佳織の声に少し心が落ち着いて、佳織と二人で前を向く。


自分たちは神に認められるのかは分からない。それでも私は佳織と生きて行くと迷いなく言えるようになった。


詠み上げられる祝福の言葉を聞きながら目を閉じて、佳織と出会ってからの記憶を呼び起こす。


私と佳織はお互いが素直になれなかったり、価値観の違いですれ違ったりしたけれど、今この日を二人で迎えることができた。


これから先にまだ上手く噛み合わない時も出てくるかもしれない。それでも佳織の手を離したくはなかった。


誓いを、決意を口にして、私は佳織と向き合う。


「真凪……」


「泣かなくてもいいでしょう? 幸せになるためにここにいるんだから」


ヴェールをお互い外し合うと、今度は佳織が涙ぐんでいて、目元を指先で拭った。


「真凪とこれから先ずっと一緒に生きたい」


「今日はそれを誓約する日でしょう?」


頷いた佳織の唇に、私は誓いの口づけを乗せた。

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