水上真凪の非日常 第4話 それぞれの想い
式が終わった後に、5人だけの集合写真を撮るために式場の外に揃って出る。
その途中、
「
今日は振り袖姿の唯依がナナちゃんにくっついて行く。
「じゃあ、年末に海外に行く時にする?」
あっさりと承諾したスーツ姿のナナちゃんに、唯依は着物なのもお構いなしに飛びついて行く。
「迷いないんだ、ナナちゃん」
「だって式するだけだよね?」
ナナちゃんはクールだとは思っていたけど、こんな時でも表情を変えない。
「それってもうプロポーズ済み、ってことだよね?」
一足飛びに結婚式にはならないはずで、話は聞いていなかったけど、二人の関係は思っているよりも進んでいるのかもしれない。
「それは唯依がしたから」
「唯依がしたの!?」
「そう。七海はもうワタシのなの」
唯依は胸を張るけど、以前唯依とつき合っていた私からすれば、そんなことを言う唯依は有り得なかった。
「唯依にプロポーズさせるなんて、ナナちゃん神じゃない? そこまで惚れさせたって、ほんとナナちゃん格好いい」
「どうしてナナを褒めてるの? 真凪」
愛を誓い合ったばかりのパートナーの突っ込みに、抱き寄せることは流石に思いとどまって口だけで誤解を解く。
「佳織、違うから。単純に感心してるの。唯依って世界で自分が一番なタイプだから何でも与えられて当然なの。その唯依からプロポーズさせるなんて、どんな魔法を使ったらできるのかなって思ってるだけだから」
「手放したくなかったらそうするしかないんじゃないの? わたしだってそうだったし……」
佳織の照れた口調が可愛くて、踏みとどまれずにドレスのままの佳織に抱きつく。
あ……佳織をサポートしていた沙織さんにまで笑われてしまった。
「真凪っ……今は駄目だから……」
「水上さん、そこから先は二人っきりなってからやってくださいね」
佳織とナナちゃんの二人からストップが掛かって、仕方なく私は引き下がるしかなかった。
「相変わらず成長ないのね、真凪って。まあそんな真凪にはその女がお似合いでしょうけど。ワタシは七海が世界で一番ワタシに相応しいって思ったからプロポーズしただけよ」
ナナちゃんの腕にしがみついて照れる唯依は相変わらずの可愛さで、でも、ナナちゃんだからこそ唯依をここまで導けた気がした。
「ありがとう、唯依。唯依にも一緒に生きたいって思えるパートナができたのは嬉しいよ」
唯依なりの最大限の祝辞だと受け取れたのは、唯依と少しでも生活をしたことがあるからだった。
だからと言って佳織と唯依の犬猿の仲は、相変わらずだろうけど。
「真凪」
私の腕を心配げに掴む佳織に、行こうか、と笑顔を見せる。唯依への心残りはもうないし、私は佳織と、唯依はナナちゃんというパートナーを見つけられた。
「私は、佳織が一番だからね」
念のために口にすると、佳織からは肯きだけが返ってくる。心配しなくてもいいのに、すぐに焼きもちを焼く佳織の可愛さは、もう私だけが独占できるものだった。
「沙織さん、今日と今日までの準備を手伝って頂いて有り難うございました」
式の後、私と佳織は普段着に戻って、それでも手を繋いだままで、改めて沙織さんに礼を言う。
沙織さんも既に着替えていて、家のことがあるから早々に帰ると既に鞄を手にしている。
「後はよろしくお願いします、真凪さん」
「はい。任せてください」
「佳織もちゃんと真凪さんの言うこと聞くのよ」
「子供じゃないよ、わたし」
「我が儘ばかり言ってないで、真凪さんの望みもちゃんと叶えてあげないと駄目よ」
同棲するまでの子細は沙織さんには話していないはずだった。それなのに見ていたような台詞に笑いが漏れる。沙織さんは佳織の性格を本当によく分かってる。
「してるもん」
助けを求めるように私の腕に抱きついてきた佳織の腰に手を回して、自らに引き寄せる。
私の同意を受けて威張る佳織に沙織さんは近づいて、そのまま佳織の頬に手を当てる。
「佳織、平凡な道じゃないってことは分かってるでしょう? それでも進むと決めたのなら、苦しくても辛くても足掻いて、真凪さんの手を離しちゃだめよ」
沙織さんの言葉に頷く佳織の目尻には涙が浮かんでいた。
「お姉ちゃんは佳織が本当に大事だって思える人に出会えたことが嬉しいの。だから、幸せになりなさい」
涙声で頷いた佳織は、私から離れて沙織さんに抱きつく。小さな声で泣く佳織の背を沙織さんは撫でて、落ち着くのを待った。
「真凪さん、佳織のことよろしくお願いします」
「はい。上手く行くことばかりじゃないかもしれません。でも、今日の日を忘れずに二人で進んで行きます」
沙織さんを式場の入り口まで二人で見送ってから、私たちも最後の片付けをして帰路に着く。
さすがに佳織はもう涙は止まっていたけど、荷物を持っていない方の手は私の手を握っている。
「今日は疲れたから早く寝ようか」
「うん。でも、今日の真凪すごく綺麗だった」
佳織に先に言われてしまったと、私は急いで佳織も惚れ直したと言葉を返す。
「よかった。真凪のために着たから」
「でも、一生の思い出になったね。沙織さんに言われてやるになったけど、やってよかったなって今は思ってる」
「うん。真凪はこれからは結婚してるってちゃんと言ってね」
佳織が可愛い、抱きつきたい。
「世界一のパートナーがいるって言うから心配しないで」
「世界一は言い過ぎじゃない?」
「私にとっては世界一だから。佳織は?」
「……そんなの、決まってるでしょ」
ぎゅっと腕を掴んできた佳織の顔は真っ赤で、早く家に帰ろう、と返して私たちは家路を急いだ。
end
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最後までお読み頂き有り難うございます。
『篠野佳織の日常』を書いた時からタイトルだけは決まっていましたが何を書こうかと思って、一生に一度しかないハレの日にしました。
この先もこの2人はつまらないことで喧嘩をして、空回りするんだろうなとは思いながらも、離れない覚悟を固めたので2人+2匹でやっていくはず。
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