水上真凪の非日常
水上真凪の非日常 第1話 来訪者
同棲を始めて、
行き当たりばったりで相変わらず怒られることもよくあったけど、甘えても来てくれるので、佳織が私に遠慮しなくなってきていることを実感していた。
「
スマホ画面を見ながら佳織が近づいてきて、私の隣に座る。
「いるけど、何かあった?」
「お姉ちゃんが来たいって言ってるの」
佳織には兄弟がいるらしいことはなんとなく知っていた。でも、私自身が親兄弟に縁が薄いせいか、佳織の兄弟について深く聞くことを今までしてこなかった。
年末年始の休みも佳織が帰ることは今までなかったので、なんとなく疎遠なのだろうと感じていたくらいだった。
「じゃあ、私は出かけようか?」
「真凪もいてくれて大丈夫だから。お姉ちゃん、わたしが男の人が駄目だって前から知ってるし、真凪のことも紹介したいから」
「いいの?」
「他の家族は関わる気がもうないけど、お姉ちゃんにならいいかなって」
それで佳織が姉に対しては心を開いていることは知れた。
「佳織が嫌なら無理に言わなくてもいいけど、佳織の家族ってどんな人たち?」
「両親と姉と弟がいるけど、わたしは就職してからは全然実家に帰っていなくて、お姉ちゃん以外にはもう何年も会ってないんだ。……お母さんとわたしは性格が違いすぎて、話をしてもストレスにしかならないから、帰ることもなくなったかな。お姉ちゃんもその事は知ってるし、無理しなくていいって言ってくれて、時々連絡してきてくれてる」
「佳織のお母さんは佳織にだけ当たりが厳しいとか?」
それに佳織は緩く首を振る。
「多少は弟を贔屓にするところはあるけど、そこまで酷くはないと思う。でも、なんて言うのかな。お母さんとわたしは根本的に性格が違って折り合えない気がしてる。たとえば、
佳織の表現に吹き出すと、佳織はリスのように頬を膨らませて、それがまた可愛い。
「ごめん、ごめん。佳織って唯依が苦手なんじゃなくて、あのタイプが全般的に苦手なんだ」
「そう」
確かに唯依と佳織は太陽と月のような相容れなさはある。血の繋がった親子でもそこまで噛み合わないことがあるのだろうかと思うものの、佳織が合わないというのだから合わないのだろう。
「だから、わたしの家族のことは気にしなくていいけど、お姉ちゃんにだけは真凪のこと言っておこうかなって思って」
「佳織がそう言うなら挨拶する。お姉さんって幾つくらい?」
私が挨拶をしてもいい存在なのだろうと、今度は佳織に姉のことをヒアリングする。
「お姉ちゃん結婚して、子供もいるからね」
「何の心配をしてるの、佳織は。私は佳織のパートナーでしょう?」
そう言ったものの、佳織の言葉の意味が分かったのは、翌週の佳織の姉の来訪時だった。
「佳織の姉の
佳織の姉の沙織さんは、必要最小限のパーツが完璧に配置されていて、甘さはないものの清涼感を誰しもに与える美人で、微笑まれて無意識の内に微笑みを返す。
かわいい系の佳織とはタイプが違うので、それぞれがどちらかの親似なのだろうと推測はつく。
「
「それは、佳織から聞いています」
柔らかな笑顔は、日常を忘れて見入ってしまう程のもので、既婚者で子持ちの持つそれには思えなかった。
佳織が私の腕にしがみついてきたことで、うっかり呆けていた自分を取り戻す。美人に弱いのは一朝一夕で変わるものじゃないから仕方ない、と心の中で弁明をする。
「不安定な関係ですけど、佳織とはこれから先もずっと一緒にいようと話をしていますので、よろしくお願いします」
「佳織を懐かせた以上は、責任を取っていただければいいですよ」
「もちろんです」
声音は柔らかくても、目は笑っていない。返答次第では許さないという意思を感じ取り、私は迷いなく決意を示す。
「お姉ちゃん、真凪を虐めないで」
「虐めてないわよ。こういうことはきちんと言っておかないと駄目なの」
「真凪、ちゃんとプロポーズしてくれたもん」
したことはしたものの掛け合わなくて一騒動あった過去を私は思い出す。よくここまで辿り着いたものだと思う。
「あなたが素直に受け入れたとは思えないけど。水上さん、手が掛かる子ですけど、よろしくお願いします」
美人に頭を下げられて、慌てて私も頭を下げる。
多少は嫌な顔をされるかもしれないと覚悟はしていたので、本当に分かって貰えてるのだろうかと不安にすらなる。
「それで、式はいつするの?」
式に思い当たるものがすぐに紐付かなかったのは、私も佳織もそんなことを全く考えていなかったからだった。
同棲を始めたことで実質結婚生活を始めたようなものだったけど、オープンにはし辛い関係なのでで、いちゃいちゃするのも基本は家でにしようと佳織と話がついていた。
「式、ですか?」
「お姉ちゃん、佳織のウエディングドレス姿見るの楽しみにしてるの」
本当に佳織と血の繋がりがある人だろうかと思うくらい手強い。悪い人でないのは分かったものの、どう躱せばよいかの策が浮かばない。
「呼ぶ人なんていないし、する必要ないでしょ」
佳織のできるだけ自分は目立たないようにという性格を考えると、やる気がないのは聞かなくても分かった。
「それは違うんじゃない? 佳織。結婚式は自分たちのためにするものでもいいとお姉ちゃんは思ってるの。真凪さんのウエディングドレス姿見たくない?」
ちらっと佳織が視線を私に向けてくる。
興味あるのそんなものにと言いたいけど、私も佳織のウエディングドレス姿はちょっと見たい。
「写真だけ撮りに行く?」
「ワタシの妹と結婚式をしたくない理由があるのかしら?」
駄目だ、この人には勝てない。
早々に白旗を揚げるしかなくて、新居を見に来たはずなのにそれらから先は結婚式の話に終始して、良さそうな場所を探しておくから、と言い残して沙織さんは帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます