第31話 独占欲

その日は佳織の泣き落としに負けて泊まることになって、翌日からは正式に二人での同棲生活を始めた。


まだ少しぎこちなさは残りながらも、徐々に触れ合うことを馴染ませようと、お互い意識はしていた。


同棲を始めてからは、佳織はかなり頑張って自分を偽らずに私に見せてくれようしてくれていて、それまであった不安なんかもう絆されまくってしまうくらい、私は佳織との新婚生活に弛みまくっていた。


「そう言えば真凪、離れて暮らしている時に、真凪が浮気してるって聞いたんだけど。バーで女の子口説いてたって」


別のことはしていても傍には居るをお互い無意識下でしていて、その日も食後にリビングに置いた新しいソファーで体をくっつけて並んで座っていた。


佳織が言い出したのは、引越する勇気もなくてやさぐれて呑みに行った時のことだとはすぐにわかった。


新たな出会いを求めてというよりも、ただむしゃくしゃしていたので酔いたくてバーを訪れた。その時にナナにも会って、わざと私は佳織にも伝えていいよと告げた。


「飲みに行って、ちょっと話しをしただけだよ?」


私の膝に手を置いて覗き込んできた佳織の焼きもちは堪らなく可愛い。でも、わざと何でもないことのように私は振る舞う。


「ほんとに? 連絡先聞いたりもしてない?」


「……登録はしあったような気はする。でも、一度も連絡してないから」


「スマホ出して」


佳織の鋭い視線に私はスマホを差し出す。佳織は私のスマホのパスワードを知っているので、いつでも見ようと思えば見れるんだけど。


「女の子の名前ばかりなんだけど」


受け取ったスマホのパスワードを解錠すると、佳織はアドレス帳をスクロールして行く。


「仕事用は分けてるし、プライベートだと普通女性は女性の連絡先の方が多くて当然じゃない?」


「じゃあ、申告があるやつ以外は女性っぽい名前のやつ全部消すから」


「はい……」


こういうところは独占欲が強いのに、変わって行く自分を出すことになると途端に弱くなる恋人は、なかなかに難解だけど手放せないと改めて思っている。


隣に座った佳織の腰を抱き寄せながら、一つずつ佳織に確かめられてアドレス帳を整理していくと、残った連絡先は半分以下だった。


「……真凪って、今まで何人とつきあってきたの?」


「唯依までで五人かな。ほら、バーでわりと気軽にアドレスを交換しちゃう方だったから、私は。元カノとはもう連絡も取り合ってないから心配しないで。たまに唯依がナナちゃんのことで、話を聞けって連絡してくるくらいかな」


「これからはわたしの許可なくアドレス登録したら怒るからね」


「そんなことしなくても、体で示してくれたら私は佳織に夢中で、よそ見なんかしないのに」


「もう……」


ちょっと怒りながらも照れている佳織は、一緒に暮らし始めて変化してきていることには気づいていた。


スキンシップをそこまで嫌がらなくなったし、セックスも週に二回はしたいと要求していて、内一回は佳織の方から誘って欲しいとも条件を出している。


佳織は今それを頑張ろうとしてくれていて、あまりの可愛さについ夢中になってしまう所はあった。


「…………真凪はわたしで満足できてる?」


「どう思う?」


「わからないから……」


潤んだ目と声は震えていて、意地悪くしたことを謝る。


「佳織がすごく頑張ってくれて、佳織と愛し合えてるから満足してるよ。佳織はそんなに愉しくないかもしれないけど」


「そんなことない。真凪とするのは最近ちょっとその日が来るのが楽しみになってきたし、すごく真凪を独占してる気になれるから」


「全部佳織のものでいいよ。何なら週二じゃなくて、もっと誘ってくれてもいいからね」


「もう……」


「キスしたり、抱き締めてるだけじゃ佳織への愛情を示し足りないんだ、私。だから佳織に触れたい」


「ちょっとその気持ちはわかって来た気がする」


「ほんとに?」


「真凪、私が気持ち良くなれることをいつもしてくれようとしてるよね?」


「セックスってそういうものでしょう? 気持ち良くないとする意味ないでしょう? 私も佳織も」


「そういうのが、わたしはちゃんとわかってなかったんだろうなって思うんだ。近づき合うためにしてるのに、わたしは真凪に近づこうとしてなかった」


「佳織がそういう性格なのは知ってるから、もう気にしなくていいよ。でもちょっとずつ前向きになってくれてるってことは、佳織も私とのセックスは意味があることなんだって思い始めてくれてるのかな」


「……しないって言われたら悲しくて死んじゃうと思う。えと……セックスが好きなんじゃなくて、真凪が私を愛してくれる行為だから……」


「大丈夫、佳織に全部晒させた責任は取るから」


「真凪……」


「愛してる」


「わたしも」


頷いた佳織に顔を寄せて私は唇を重ねた。

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