第27話 覚悟

誰かのためを思ってすることが、必ずしも正しいとは限らない。


私は佳織のために、我慢をするという選択をして、その先にあるのは何だろうか。


腫れ物のように触れ合うことに恐れを感じるようになって、そうなると佳織は不安定になって、私もいらいらして、という悪循環が生まれるだけのような気がしていた。


久々の墓参りから戻って、私は自分なりの答えがようやく導き出すことができた。


佳織のことは愛しているし、大事にしたいし、プロポーズをして一生いると言った言葉はできれば違えたくないと思っている。


それでも、掛け合わないことは勿論人にはある。



もしかしたら別れることになるかもしれない。



その覚悟までして、翌日の昼間に佳織の部屋を訪れた。


「流石に佳織は荷造りが早いね」


佳織の部屋の私物は既に大半が段ボールに入っていて、ベッドとテーブルくらいしか使えるものは残ってない状態だった。


引越慣れしているのもあるだろうけど、ルナがいなくなって佳織の私物は更に減っていた。


「段ボールに入れすぎちゃって、物がなくて今困ってる。どうしてもって時は段ボール開け直すんだけど……」


「だから所々蓋が開いてるんだ」


まだ閉じられていない段ボールがいくつかあって、そのうちの数個は、ガムテープで閉じられたような跡があるのは、佳織が一度荷造りしたものを再び開けたものだということだろう。


「そう。真凪は進んだ?」


「昨日出かけちゃったから、まだまだ。最後徹夜するしかないかも」


「もう、金曜の夜からなら手伝いに行くから」


「有り難う。でも、終わるかなぁ」


「終わらなかったら真凪が手で運ぶ?」


「それは嫌かな。佳織、今日は少し話をしたいことがあって来たの。ちょっと座ってくれる?」


私のお願いに、佳織はフローリングの床に残された小さな食卓代わりのテーブルの前に腰を下ろして、私も向かい合うように座る。


「佳織、私なりに真面目に考えてみたんだけど、私はやっぱり佳織とは触れ合いたいし、セックスもしたい。佳織がレスを望んでいるのは理解してるつもりだけど、そこが合わなかったら一緒に住むのは長続きしない気がしてるんだ。今すぐじゃなくてもいいけど、時間かけてもいいから考えて欲しい」


「ごめん、そんなに真凪を悩ませていたんだ」


俯いたままの佳織の声は沈んだもので、佳織も佳織なりに悩んでいたことは何となくわかった。


「我慢するつもりだったんだけど、できる自信もないなって気づいたの。私は佳織を愛しているから、佳織の全部が欲しい」


それは佳織を悩ませることだとわかっていた。それでも言わなければ私たちに未来はないと言葉にする決意をしたのだ。


「じゃあ、今日は片付けもあるし帰るね」


伝えたいことは伝えたので、後は佳織に時間を掛けて答えを出してもらうつもりだった。


「真凪、待って」


「今の話はすぐに答えを出さなくていいよ?」


「わたしは、真凪がわたしのことを愛してくれれば愛してくれるほど、自分が真凪と同じだけ愛情を返せるのかってわからなくなるんだ。自信がないかな。わたしは真凪に甘えてるだけで何も返せてない。そんな自分が嫌になるんだ」


「どちらも同じ思いでバランスとれることなんて、滅多にないことなんじゃないの? それで衝突することも、上手く行かないこともあるのが普通だって私は思ってるよ。逆に私が自分のことで一杯一杯で佳織のことを気遣う余裕もないってことだって、これから先あると思うし、佳織は佳織のできる形で愛情を示してくれたらそれでいいよ

……でも佳織にとってのそれに体は含まれないんだ」


「…………優先順位は低いと思う」


「一緒に住むの、もうちょっと先にしようか。佳織はこの部屋の契約もあるから、来週末に引越をして。私はある程度荷物は運んでもらうけど、もうしばらく今の部屋で暮らすから」


「真凪……」


俯いた佳織を慰められるほど私は人間ができていなかった。そのまま無言で部屋を出て、自分の家への道を辿った。



心だけじゃなくて体も欲しいなんて、私は強欲すぎなんだろうか。

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