第24話 異変
週末になるとルナはもうほとんど起き上がれなくなり、缶詰やふやかしたドライフードすらも自力では食べられない状態だった。
注射器で水を飲ませてあげたり、水分に近いようなフードを少しずつあげたりはしたもののほとんど口にもせず、その日が近いことを私も佳織も感じていた。
「ルナ、ルナ」
佳織はずっとルナの眠っている籠の隣につきっきりで、私はそんな佳織のサポートに専念した。
「ごめん、真凪」
「いいから」
ルナの前で佳織は泣いていることもあって、それだけ佳織がその時を恐れていることを示していた。
佳織の頭を撫でて、私も隣でルナの様子を見つめる。
ルナはもう起き上がる力もほとんどないものの、目だけは佳織に向いている。
耳と耳の間を指先で撫でると、ルナは顔を私の手に押しつけて来て、手を舐められる。
「ルナ、本当に真凪のこと好きだよね」
「そう? 一緒に住んでいた頃にわりと早く懐いてくれた気がするけど」
ルナは私に佳織を任せようとしているんじゃないか、そう言えば佳織は本当に泣きそうで、私は言葉にできなかった。
月曜日の朝、ルナは温もりはあったものの、息が少しおかしくなり始めていた。私は子供の頃に猫を飼っていたこともあって、その症状が何を示すかは知っている。
「わたし、今日はルナといる」
「佳織、今日って面談の日じゃなかった?」
佳織は今日は元々有休休暇を取っていて、2次面談に向かう予定だった。
「…………ごめんなさい、真凪にいっぱい手伝ってもらったけど、今はルナの方が大事だから」
「わかった。それでいいから。転職先はまた次を探せばいいだけだしね。でも、キャンセルするって連絡だけはできる? 先方も忙しい時間を割いてくれてるから、ちゃんと説明だけはすべきだと思うから」
「わかった」
佳織が頷いたのを確認してから私は佳織を抱き締める。それで佳織が震えていることを私は知る。
「今日はお客さんとの会議があるから、私は出勤しないといけないけど、終わったらすぐ帰ってくるから」
そこまでルナが保つかはわからない。それでも、少しでも佳織とルナの傍にいたかった。
私は普段と変わらずに出勤して、午後一の顧客との打ち合わせを終えると、その足で佳織の部屋に帰った。
それでももう時刻は16時近くて、佳織に貰った合鍵で部屋に入る。
「真凪……」
部屋に入ると、ルナの元に座り込んだままの佳織が目に入った。それは朝から全く変わっていない姿だった。
「ルナは?」
「頑張ってる。ルナ、真凪が帰って来たよ」
ルナに近づくと目を一瞬だけ開いてくれて、またすぐに目を閉じる。
もう一度ルナに会えて良かったものの、結局それから数時間後にルナは息を引き取った。
いつもは佳織のベッドの横に敷いた布団で眠っている私は、その夜は佳織のベッドで佳織を抱き締めて眠った。
泣いて、泣いて、泣き疲れて、佳織もやがて眠りに就く。
もう過去を取り返すことはできないけれど、少しでも私の存在が佳織の支えになればいい、そう願いながら目を閉じていた。
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