第22話 二人でのお泊まり

その夜、私と佳織は近くの温泉街で素泊まりで泊めてくれる宿を見つけて、1泊してから帰ることになった。


ルナは自動給餌器もあるし、明日の朝帰れば大丈夫だと言う佳織に安心して、思いがけず二人で初めて外泊をすることになる。


チェックインだけしてから外で食事をして、旅館に戻るなりお風呂に行かないかと佳織に誘われる。


今日の宿は観光客向けの旅館で、大浴場も露天風呂もあるとはチェックインの際に聞いていた。とはいえ、二人でなんて何もしない自信がないから無理だと言うと、呆れながらも佳織は笑っていつものように交代で入ることになった。


露天風呂つきの部屋であれば一緒に入るということもできたのにと、次に訪れるなら前以て下調べをしようと誓う。


「真凪、眠いならもう布団で寝たら?」


先に風呂に入った私は広縁に座って、いつのまにかうとうとしていたらしく、風呂上がりの佳織の声に目を開く。


「うーん」


「今日は疲れたんじゃないの?」


「疲れてるけど、こんな機会逃したら一生後悔するので、嫌」


目の前には宿の浴衣に身を包んだ佳織がいて、おまけにさっき私のものになってくれると承諾してくれたのだから、何もしないで眠るなんてもったいなさすぎた。


「別にわたしは逃げないのに」


「佳織はそう言うけど、佳織はタイミング合わないとすぐ逃げるでしょう。今日みたいに。わりとそういうところ大変なんだから」


「そうかな……ごめん自覚なかった」


「だから、今日はしっかり佳織を感じさせて」


頷いた佳織を私は和室に敷かれた片方の布団に誘って、その上に寝かせる。


私も隣に転がると、佳織の方から抱きついてきてくれて、ちょっと嬉しい。


「真凪とこんな関係になるなんて初めは全然思わなかった」


「そうだね。私もわざと可愛くなく見せてる佳織にすっかり騙されていたよ」


「唯依に夢中だったくせに」


「過去は過去として、今は佳織に夢中だよ? 佳織といると体だけじゃなくて、心も溶け合ってるみたいに感じられるから、すごく満たされる気になる」


「……真凪、絶対離れないでね」


それは佳織の心の奥底の声に思えて、私は離れないと誓いを口にする。


そのまま唇を重ねて思いを直接佳織に届ける。


「愛してる」


「わたしも……」


キスを交わしあいながら、一方で手は佳織の浴衣の中に潜り込ませて佳織の肌に直接触れて行く。温泉に入ったせいか、いつも以上に佳織の肌は触り心地がよくて、もっと触れたいと襟元を開く。


「もうっ……帯解けばいいのに」


「そんな余裕もないくらい早く触れたいの」


佳織と顔を見合わせて笑い合って、ちょっと呆れられたけど、佳織は自分で帯を解いてくれる。


「いいよ、真凪が好きに触って」


そのお許しの言葉で、私は佳織の肌に唇をつけた。そうなるともう完全にスイッチが入って、夢中で私は佳織を愛して行く。


受け身の佳織は私の動きを受け入れるだけでも、徐々に佳織の私を受け入れる幅が拡がっているのは肌の反応で感じ取れるようになった。


「真凪、じらさないで……」


「いきたい?」


余裕のない恋人からの強請りに、私は佳織を解放へと導いて行く。佳織は性格所以かセックスの時もストイックで、なかなか声をあげてくれたり、素直に私の手の中に落ちて来てくれることは少ない。でもそれが可愛くて、我慢できなくすればいいのだと、つい攻めてしまう。


だから佳織にしつこいと言われてしまうのだとは分かっているものの、お互いが気持ち良くなってこそのセックスだと私は思っていた。


「佳織、可愛い。全部私に見せて」





熱の余韻を残したまま肌を触れ合わせていると、佳織が改めて今日の佳織の部屋での件を謝ってくれる。


「佳織が追いかけてきてくれたからいいよ」


佳織の性格だと、動けないまま家で泣いているだけだと私は思っていた。それがここまで追ってきてくれたのは、かなり頑張ってくれたのだとは知っている。


少なくとも佳織にとって私は、離れて欲しくない存在だったと認識できて、嬉しさは勿論あった。


「わたし、また駄目にしたんだって、怖かった……」


「私は傷ついたくらいで佳織を諦めないから、大丈夫だよ」


「ほんとに?」


「でないとプロポーズなんかしないからね。今日は逃げちゃったけど、別れる気なんかもちろんなかったし、佳織と一緒にいたいのをどう我慢すればいいんだろう、佳織に気を遣わせないようにするにはどうすればいいんだろうって、ずっとそんなことをぐるぐる考えていたよ」


「言葉にするの上手くなくてごめんなさい」


「それが佳織だって分かってるから、それに対して自分を責めなくていいよ。そんな佳織が私は好きになったんだしね」


「わたしも真凪が大好き」


耳元で囁かれた佳織の声が可愛すぎて、落ち着いていた欲望に再び火が点る。


「今日は寝かせられないかも」


「まだするの!?」


「佳織はちょっと淡泊すぎるの」

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