第22話 神術
「貴様等ごとき下級神術で十分だと思っていたが…我の見誤りだったようだ」
ジャハールからは先程までとは別人の様な威圧感が漂っている。テセウスは強く剣を握り締めた。
(何か、今まで以上の力が来る…!)
テセウス達がそう悟った時だった。ジャハールが掌を正面を押す様に前に出した。
「貴様等、灰になれ」
―『熱炎砲射(ヴァイス・ローガ)』—
瞬きをする刹那もなかった。ジャハールの掌から溢れ出した真紅の光線はテセウスの胴体から10センチも離れぬ横をすり抜けた。いや、突き抜けた、と言った方が良いだろう。そしてその光線は空を走り、神殿から離れたファールスの礼拝堂の屋根に撃中し、爆発した。
「馬鹿な…こんなことが…」
高台からは燃え盛る礼拝堂とその周辺の街並みが見える。ベルクセス王は思わず震え呟いた。
「か、神の御技か…?」
「だから言っているだろう。我こそは炎の神だと」
ジャハールは本領を発揮出来たことに満足そうに笑みを浮かべた。そしてテセウス達に言った。
「レベルの高い神術は制御が難しくてな。外してしまったよ。長引けば長引くほど、ペルシア一帯は焼け野原になってしまうかもな…くくく」
燃え盛る礼拝堂の炎が夜空を赤く染めている。
「畜生…!このままじゃ、あの日と同じことになっちまう!」
ソーマがそう呟いた時だった。ソーマの横から矢が放たれた。それはジャハールの顔面へと向かっていたが、ジャハールを守る様に火の粉が彼の周りに現れた。矢はその火の粉に絡み取られる様に燃え、灰となり空中でサラサラと風に流されて消えた。
アリンダが放った矢であった。
「何が、何が神よ…!罪もない人を沢山殺しておいて!神様面しないでよ!あんたは最低の人間よ!!」
アリンダは叫びながら再び矢を放った。しかし、それは先程と同じ様にジャハールに辿り着く前に空中で塵と化した。
ジャハールはアリンダの方を向いた。
「我を愚弄するのか…?」
静かな怒りが混ざった声だった。ジャハールは掌をアリンダへ向ける。
「いかん!あの神術が来る!」
とっさにヴァロがアリンダへ駆け寄ろうと動いたが、それよりジャハールが速かった。
「貴様!さっきはよくも漆胡瓶を壊してくれたな!さらに我を愚弄するとは万死に値する!」
―『熱炎砲射(ヴァイス・ローガ)』—
真紅の光線が迫る。
"死"—アリンダは悟った。体が灼熱に包まれる。その時、アリンダには走馬灯が見えた。それは孤児だった自分を引き取って優しく育ててくれた神父の姿だった。彼の微笑みを薄れゆく意識の中で垣間見た。
「(お父様…ごめんなさい…あたし…負けちゃった…)」
すると神父は柔らかい口調で
「アリンダ、君は1人じゃないよ」
「(え…?)」
「仲間がいるよ。だから君も仲間を助けるために生きなさい」
アリンダの瞳から涙が溢れた。優しい声が遠く聞こえる。
「君に神のご加護を。アリンダ。私の大切な娘」
「(お…とう…さ…ま…)」
煙の中でアリンダは意識を取り戻した。「自分が生きている」と分かったと同時に、アリンダを庇う様に、目の前でジャハールに向かって両手を広げた少年の背中を見た。
「ソーマ…?」
「アリンダ、大丈夫か!?」
振り向いたソーマの瞳を見て、アリンダは驚いた。山吹色の瞳、いや、黄金の様に輝くその瞳に神々しいものを感じた。
「神…様…?」
「くっ!」
しかしソーマはすぐに膝をついた。酷く疲労している。アリンダはソーマの肩を支えた。
そこにジャハールが近づく。
「信じられん…我が神術を無効化しただと…?ふざけるのも大概にしろ…!」
「くそ…体が…動かない…」
ソーマは疲弊し切っている。アリンダがクロスボウをジャハールへ向かって構えた。
「来ないで!!」
その声にジャハールが苛立ちを露にする。
「我に指図するな!!わきまえろぉぉ!」
ジャハールが再び掌をアリンダに向けた、その時だった。
パァーン!と弾ける音が鳴った。その瞬間ジャハールは瞳に激痛を感じ、目を閉じた。
「うわっ!なんだ!これは!!?」
テセウスが夏雪草の花粉が入った袋をジャハールにぶつけたのである。
「ソーマとアリンダに手を出すな!」
テセウスがジャハールに斬りかかる。ヴァロも続く。
「でかしたぞ、ソーマ、テセウス!」
―『旗昇斬撃(ライザー・ハウ)』—
―『雷縦斬波(ケラヴノス・ブレイク)』—
それぞれが技を繰り出す。しかしジャハールの火の粉の盾、そしてジャハール自身の超人的反応とガードがあり、胸に浅い傷を負わせたに過ぎなかった。
ジャハールは後退りテセウス達と距離をとった。そして目を擦りながら言った。
「小僧ぅうう…!!」
ジャハールの掌に気流が集まる。先程とは違う神術が繰り出されようとしている。
「はっ!!テセウス、逃げよ!」
ヴァロが叫んだ。
「遅い!小僧から地獄に堕としてやる!!」
テセウスが逃げる間もなく、ジャハールは物を投げる様に手を上から下へ振った。
―『呪焔(プロキネシス)』—
上空に牛の頭ほどの大きさの紫色の火の玉が9つ現れた。そしてそれらが一斉にテセウスに向かって降り注いできた。
ドドドドドォドドドォドォォン!!
凄まじい衝撃音が響く。テセウスは爆煙の中に包まれた。
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