第19話 告白
夏の美しい星空の
「テセウス。呼吸を深くしろ。落ち着くんだ」
ヴァロにそう言われて少し緊張が和らいだらしく、テセウスはゆっくりと正面を見る。
ジャハールが口を開いた。
「侵入者か。あれは…ベルクセスだな。ライデル、
冷たい口調にライデルが答える。
「すみません、あの剣士に及ばす…まだ…」
「まさか、ここまで逃げて来たのか?」
ジャハールはライデルを睨みつける。ライデルは震えながら跪いた。
「申し訳ありません!どうか、お許しを!」
「この
ジャハールはライデルの頭を蹴った。「ゔっ」どいう低い悲鳴とともにライデルはその場に倒れ込んだ。鼻と口から血を流している。
「救いようのない負け犬め」
ジャハールは悲しそうに横たわるライデルに言い捨てて、テセウス達の方を向いた。
「雁首揃えて貴様等から出向いてくるとは笑える。ベルクセス、伝統の品を差し出せ」
「お前にはやらん。お前を討伐に来たのだ!覚悟せよ!ジャハール!」
ベルクセスが毅然として言う。これまでの様子と違い、凄まじい剣幕である。
そして沈黙が訪れた。
ぬるい風が吹き抜ける。周辺の草が揺れる音、猫がなく声。月に雲にかかった時、一瞬の闇の中で二つの朱色の点から言葉が発せられた。
「貴様等、皆殺しだ」
同時にジャハールがベルクセスに向かって走り、殴りかかった。咄嗟にウィシュターがアキナケスを構えて庇いにはいる。
"グンッ"という音がした。
ジャハールのボディブローがウィシュターの腹に入った。ウィシュターが呻いて前傾姿勢になったところで、その顔面をジャハールは右足で蹴り上げた。その間僅かに1秒。恐るべき速さである。
「ッゥガッ…ッ!」
ウィシュターは膝をついた。その隙にジャハールはベルクセス王に襲い掛かる。
「させるかよ!」
ジャハールの背後からソーマが狩猟用の短刀を持ち飛びかかった。しかしジャハールの首に刃が届く寸前、ソーマは振り返ったジャハールの回し蹴りを横っ腹に浴びた。
「ウグッ!」
ソーマはギリギリ堪えたが、激痛のため片手で腹を押さえている。
「ガキ…貴様から先に死ぬか?」
ジャハールがソーマを睨みつけた時、アリンダがクロスボウを放った。またテセウスも剣を構えて斬りかかる。
「あんたはお父様の仇!許さない!!」
「ジャハール!くらえ!」
しかし2人の攻撃にジャハールは動じない。ジャハールは放たれた矢を拳で撃ち落とし、テセウスの斬撃をかわして、顔面を殴打した。
「くっ…!」
テセウスは五間程吹っ飛ばされた。アリンダは呆然としている。ジャハールは笑いはじめた。
「ふはははっ!なんだ貴様等どいつもこいつも雑魚じゃないか!ベルクセス…貴様は一体何をしに来たんだ?」
ジャハールは勝ち誇っている。ベルクセス王は至って冷静に答える。
「何度でも言おう。今夜、お前を討伐する」
その時、ヴァロがジャハールに斬りかかった。
―ヴゥンッ!
空を切る音がした。ジャハールは斬撃をかわし、ヴァロの頭へ回し蹴りをした。
―ブォンッ!
ヴァロは膝を曲げ体勢を低くして蹴りを回避した。そして剣を下段に構え、斬り上げた。
―『旗昇斬撃(ライザー・ハウ)』-
ヴァロが凄まじ勢いで下から上へとブロードソードを振るう。
「!?」
ジャハールは両腕でガードを固めた。斬撃は命中しジャハールは空中へ吹っ飛ばされた。
「浅いか…」
ヴァロが着地したジャハールを見ながら呟いた。
ジャハールはガードした両腕の傷から血が滲むのを見ながらヴァロに向かって言った。
「貴様がホズを殺した剣士だな。我に血を流させるとは誉めてやってもいい」
ヴァロは再び剣を構える。ジャハールは続ける。
「だが後悔するだろう。我に本気を出させたことを…なぜなら我は…」
テセウス達は異様な雰囲気を察知していた。ジャハールの瞳の朱色が一層輝き始めた。
「炎の神プロメテウスの末裔!!シャー・ジャハールだからだぁぁあああ!!」
ジャハールの叫び声と共に、吹いていた風は止まった。テセウスは実際か体感かは分からないが周囲の温度が上昇した気がした。汗が
「行くぞ、貴様等!!」
―『錬燃体躯(イグニフリート)』-
ジャハールがヴァロに向かって殴りかかった。
ヴァロはブロードソードで断ち切ろうとするが、ジャハールは拳で斬撃を撃ち返した。あまりの衝撃にヴァロは後退りした。
「むっ!先ほどとは腕力が段違いだ」
「ヴァロ!」
テセウスも加勢する。ジャハールから見て右からテセウスが、左からヴァロが同時に斬りかかる。しかし、
「くだらぬ!くだらぬ!くだらぬ!」
ジャハールはヴァロの斬撃をガードしながら、横蹴りを打ち込んだ。またその後すぐさま体勢立て直し、テセウスの剣をかわし、ボディブローを放った。
「ッッかッはっ!」
テセウスは腹を押さえ膝をついた。ヴァロはよろめきながら踏みとどまった。その様子を見ながら笑みを浮かべて言う。
「貴様等、もう諦めたらどうだ。錬燃体躯(イグニフリート)は我の体温を上昇させ、身体能力を極限まで高める神技。どう足掻いても人間では勝てんのだ」
テセウスは立ち上がって剣を構えた。しかし内心絶望が湧き上がるのを感じていた。
「テセウス、顔を上げなさい」
ヴァロの声にテセウスははっとした。
「全てが終わるまで、希望を捨ててはいけないよ」
その言葉に苛立ったのかジャハールが言った。
「ご老人よ、この状況で我に勝てる要因でもあるのか?ご教示頂きたいものだ」
そしてヴァロはふっと笑いながら言った。
「いくつもあるが、ただ一つだけ教えてやろう。わしもまた神の末裔なのだ」
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