第4話 剣舞

 テセウスとヴァロが船を降りると、賑やかな街の喧騒が彼らを迎えた。

「わぁ、人がいっぱいだね!」

「ここがアンティオキアだ。交易で栄えている。ここからペルシアまで陸路を行こう。」

 テセウスがヴァロと歩き出そうとした時、


「あなた、ちょっと待って!」


 呼び止められて、振り向くと船で同乗していたムーア系の少女がいた。


「君は…」

 テセウスが少女を見る。

「船ではありがとう。お礼が言いたくて…。私はコフィ、あなたの名前は?」

「僕はテセウス。話せて楽しかったよ。」

「私はお父さんとイスパニアに行くわ。テセウス、もし機会があればまた会いましょう。」

 コフィは別れを告げ歩いて行った。


「友達が出来たな。」

 ヴァロが微笑んだ。

「友達なんて…生まれて初めてだよ。」

 テセウスは不思議そうだ。

「友達と話したり、遊んだり、苦楽を共にすることで世界が広がるものだ。大切にな。」

「うん!わかった!…ところでさ、ヴァロお願いがあるんだ。」

「何だ?」

「僕に剣を教えて欲しい!ヴァロみたいに戦って人を守れるようになりたいんだ!」


 ヴァロは少し考え込んだ。市場から客寄せをする商人の声が聞こえる。


「良かろう。剣の心得はあった方がいい。旅には危険もあるだろうからな。」

「やった!ありがとう!」

 テセウスははしゃいだ。

「ただし一つ約束をしよう。決して武力を私利私欲のために使うな。」

「分かった!約束する!」


 ヴァロは市場で鉄の剣を買い、テセウスに与えた。その後2人はアンティオキアを出発した。

 旅の道中、ヴァロは剣術の基本をテセウスに教えた。

 野宿をする際に焚き火の灯りに照らされたヴァロの剣舞を見て、テセウスも真似る。その様子はまるで何かの儀式のようだった。



「あ!人が倒れてる!」

 テセウスとヴァロが草原を進んでいると、少年が倒れていた。横にはウサギの死骸がある。

 2人が駆け寄ると少年はまだ息があるようであった。ヴァロは少年に水を飲ませた。

「大丈夫か。どこから来た?」

 少年は頷いて、草原の先の荒野を指さした。テセウスがその方向に目を凝らすと微かに建物が見えた。

「建物がある!彼の家かもしれない!彼を背負って行こう!」

 少年はテセウスと同じ年頃のようだった。

「大丈夫か、わしが背負おうか。」

 ヴァロが言ったが、テセウスが少年を背負った。

「僕だって鍛えてるんだ!これくらい楽勝だよ!」


 3人が荒野を行くと、そこには屋根に十字架を掲げた大きな建物があった。

 敷地の門の前に着いた時だった。


「止まれ!あんたたち!」


 威嚇するような声が門の中から聞こえた。

 テセウスとヴァロが目を向けると、修道服を着た娘がクロスボウ(弩)を構え、2人を睨みつけている。

「ジャハールの手下ども!今すぐ立ち去りなさい!この敷居を跨いだら殺すわよ!!」


 炎天下に舐めるようなぬるい風が吹いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る