第5話 逃避行の始まり
風露は逃げるガキどもの背を見送って、息を吐き、歩き出す。もうこの村にはいられない。そう思うと少し寂しく感じるが、罪悪感はなかった。
「自分は自分の生きたいように生きる。たとえどんな結果が待っていたとしても」
そんな事を考えているうちに、気づいたら図書館に着いていた。
「せめて、最後の別れぐらい伝えておこう」
そう言って図書館の扉をそっと開いた。
魔導書を持ち出し、少し掃除をした頃にお昼の鐘が鳴った。
息を大きく吸って、図書館の扉を開くと、外にはたくさんの村人たちがこちらを見つめていた。
「みんな、どうしたの?」
風露はこうなった原因に痛いほど心当たりがあるが、わざと何も知らないことを装って声をかける。
「みんな、 どうしたの?」
もう一度同じ事を聞いてみる。だが大人たちからの返答はない。 しかし、その手には指先が白くなるほどしっかりと鉄の剣が握られており、 いざという時は風露を害する覚悟があるようだ。
「答えてよ。何もしないからさ」
我ながら笑ってしまうほど白々しい台詞。やはり、返答はない。
風露は対話での交渉を諦めて、杖を取り出す。
真っ赤な顔をした村人の一人が鉄の剣を振り上げるが、それを振り下ろすよりも前に全身から炎を吹き出し、悲鳴が上がった。その悲鳴は一つだけではない。
呆気に取られる村人たち。その足元にも同時に火が吹いた。
その地獄のような景色から風露が背を向け転がるように走り出すと、 数人の若者が追って来た。風露の脚力ではすぐに追いつかれてしまうだろう。
だから、
「待て! 風露!」
足元だけでなく、身体に直接火を点け、
パニックになる村人たちからひたすら逃げた。
村を離れ、平原を通り抜け、森に入って、力尽きるまで走り続けた。
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