第3話 魔法使いへの一歩

「す、すごい」


 風露は感嘆の吐息と共にそうこぼした。黒曜石の机の四隅にはダイアモンドが埋め込まれており、紅いクロスがかかっている。財宝などにあまり詳しくない風露でも一目で一級品であることが分かる代物だ。


 また、その机の上にある本も同じく高級品であろう。 金の装丁の本は、ページもうっすら黄金色に光っており、周りの本棚から飛び出る白い文字を吸い上げて、風にあおられたようにめくられていく。


 風露はその本に近づくと、文章に目を落としてみた。だが、パラパラとめくられ続ける本は上手く読むことができない。手でページを押さえようかと迷ったが、本が自分を拒絶しているように感じ、本の攻略は諦めた。

 顔を上げて周りを見渡してみる。空間の異質さに反して、本棚の本は普通の物が並んでいた。

 風露が探索していると、高い位置の本棚にボタンがついていることに気づいた。おそるおそるボタンに触れてみる。滑らかな木の手触り。すっと手に力を込めて押し込むと、カタンと軽い音がして持ち物の右端に本が現れた。その本はうっすらと金色に光っている。不気味に思いつつ、本を開く。


 本のタイトルは 『魔法使いの指導書』


「この本には、私が今まで弟子に教えて来た 魔法の術を全て纏めておく。遠い未来の才ある者がこれを見つけ、魔法を使えるようになって、世界の平和を守って欲しい。』


 古い本だからページが擦れて薄くなっている。だが、風露はそれに構わずページをパラパラとめくっていった。


「本当に、魔法の本だ······」


 中には本当に使える魔法の使い方が書いてあった。


 風露はページをめくる度にどんどん本に引き込まれていった。


 そうなったら風露は周りが見えなくなる。風露は明くる日も明くる日も、体力が空っぽ になるまで魔法の練習に打ち込んだ。

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