プロローグ②:甘々ラブコメのとある日の朝。 後編

 「んんっ……」


 彼女の目が少しずつ覚めてきたようだ。後、一、二分あればすぐにシャキッと起きるだろう。なんせ、僕よりも遥かに寝起きが良いのだから。(→ちなみに僕は目が覚めて三十分くらい経っても、布団の中でうずくまってグダグタとしておりました)


「ふ、ふわぁ~。い、今何時でしょうか?」


 こんな感じの、寝起きの寝坊助さんモードも、ほんの数十秒程度で終わる。個人的には、もっとみたいものだが。


「……わ、わわわわわわわわ!ご、ご免なさい。今日も、より遅く起きてしまって……。自分の部屋じゃないから、目覚ましかけるの忘れてました(・ωく)」

「いや、別に良いよ。巫女さんは僕よりも、遅くまで仕事頑張ってるんだし。……でも、せめて自分のお部屋で寝ようね、わかった?」

「はいっ、わかりました。明日から、先生のお部屋に目覚ましを持って来てから同じお布団で一夜を過ごします。共に朝を迎えましょうね♡」

「絶対にわかってないから!!」


 すぐにシャキッと、寝坊助さんモードから切り替えると、毎度毎度、先に起きている僕に驚いて謝罪してくるので、いつも朝イチはこんな会話をしている。

 ちなみに、彼女が僕のことを先生と言っているのは、『教師と生徒の禁断の関係』とかではなく、単にであるからだ。ただそれだけだ。

 だから、断じて彼女にイヤらしいことはしていない。一夜を過ごすだの、一緒に朝を迎えるなど言っているが、本当にその言葉のままの通りで、R18になっちゃいそうなことは、全くやっていない。


 でも、僕も彼女も、まだ出てきたばかりのほぼほぼ無名のラノベ作家&イラストレーターのコンビなので、当然ラノベ数冊を出しただけじゃ食べていけない。

 なので、僕と彼女はもう一つ仕事を(どちらかというと、現段階ではこちら本業)兼ねてやっている。

 それは──、


「今から、神様にご挨拶をして、一緒に境内をお掃除しましょう。それから朝食を先生に愛を込めて作ります♡」


 そう僕と彼女は、神社の社務所(本来、神職が社務を行ったり、受付をしたり、お守りを受与する建物)を、ちょっぴり作り替えて、住み込みで働いているのだ。

 そうしたのにも、があるのだが、その話もまた後日。

 ちなみに、この神社で働いているのは、神職の僕と巫女の彼女の二人のみ。参拝客も多からず、少なからずで、意外と二人で、人手は足りていたりする。

 だから、こうやってちょっとマイペースにのんびりと出来ているのだ。


「よしょっ」


 彼女と僕は一旦、着替えたり、これからの準備をするために別れた。しばらくして、彼女が巫女服を整え、化粧をし、ほどけた髪をしっかりと結い直すと、僕の手をとって両手で優しく包み込んで柔らかく微笑んだ。


「さあ、参りましょう。先生改め、神職さん♡」

「う、うん……」


(か、可愛い。巫女さん、めちゃ、いと可愛し!)


 素っぴんでも、超可愛いと言うか、神社のお仕事の時以外は、ほぼ素っぴんなのだが、また化粧した姿は、ちょっぴり大人な感じがして、それはそれでまた別の可愛さがあって非常に良い。

 本当はもっと彼女のその姿を立ち止まって、凝視しておきたいところだが、参拝客の方が来られる前に、先に祀っている神様にご挨拶をして、掃除をしなくてはならない。


「よしっ。今日も一日頑張ろう、巫女さん」


 僕は彼女の手を握り返すと、そう言って、神様のいる拝殿の方へ向かって足を進めて言った。


「……い、いきなり温かい手で握り返して微笑むだなんて……そんな不意打ちはズルいですよ(ボソボソ)」


 彼女は急に顔をちょっぴり赤くして、僕に聞こえないくらいの声で、何かを呟いたように見えたが、すぐにいつもの様子に戻り、「手を繋いで行きましょう♡」と笑顔で言ってきたので、先程の彼女の様子は気にせずに、普段通り手を繋いで二人で一緒に歩みを進めていった。


 ──隣にいる世界で一番大好きな人の温もりに、ついデレそうになるその顔を引き締めながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る