第8話 When you wish upon a star.

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(通信開始)


<sideA>

sample:真田 海衆(サナダ カイシュウ)

birth:ロシア連邦/ボリショイ経済州

nationality:Japan(As of 2120)

age:65(As of 2120)

family: none


 ー日本人の父とロシア人の母の元に産まれる。近代日本の租・勝海舟を尊敬する父に名付けられた。ー外交官としてロシアに滞在中の父が現地の娘と結婚、そして出来た子であった。 学問好きで言語学者でもあった父に似ず、ケンカ好きで我儘放題、子供ながらに現地では『"怪衆"ラスプーチン』と呼ばれていた。


 海衆が12歳になる頃、外交官の父の役務も終わり、帰国し実家のある北海道へと移り住んだ。

 そこで彼は初めて自分と同じ日本人ばかりの村社会を経験した。

 それは彼に良い影響を及ぼした。理由の無いケンカはしなくなり、学問にも励み始め、ゆくゆくは父親と同じ外交官への道を歩もうという夢も出来た。


 ーそんなある日、痛ましい事件が起きてしまった。仕事帰りに居酒屋で飲んでいた父が酔っ払いに殺害されたのである。

 父はその日後輩を労う為、気負わない居酒屋に誘った。

 ー呑み始めて1時間程経った頃、ほろ酔いの後輩がトイレから戻る際、転んで近くで呑んでいた男の飲み物をテーブルにぶち撒いてしまったのだ。

 すぐに謝罪したが、その男はかなり酔っており、表に出ろと執拗に後輩に絡んできた。


 ー父は怒りを収めようと間に入った。しかしそんな父を男は思い切り突き飛ばした。


 …酔っぱらった状態で本能のまま力を込めた男の突きは、父の心臓あたりを強打した。 …もともと心臓が悪かった父はそれが原因で発作を引き起こし、その場で亡くなった。


 男は"格闘家"らしかった。


 噂では軍が訓練をアウトソーシングしている武術インストラクターのようだったが、軍は知らぬ存ぜぬの門前払い。証拠も目撃者も無く、父の後輩もその日を最後に退職し行方知れずとなった。


 …訃報を受けた母は寂しさからの深酒と奇行を繰り返す様になり、夫の死の通知から1年程経った日、彼の跡を追うようにして湾内メトロで…亡くなった。


 サナダはこの頃から仇討ちの為、格闘家達を襲撃する様になった。


 しかし相手は当然プロ、毎度酷い返り討ちを受けていた。


 そして、いつもの様に奇襲が失敗に終わり重症を被ったある日、襲撃相手の朝倉流武道家 "朝倉 悔"に事情を聞かれ、他人に初めて自身の身の上を話した。


 そこで朝倉にこう告げられた。


 “格闘家に勝つのは結局格闘家だ。お前が成るべきはお前が憎む格闘家そのものだ” と。


 その日から格闘家/朝倉の門弟となり、その後は類稀な才能で数年で師範にまで登り詰めた。


ーしかし道場破りという名の、武器を使った他流派への襲撃を何度も繰り返し、幾度となく警告を告げるも行動を改めないサナダを悔はついに破門した。


 ーその後のサナダは仕事もせず、あいかわらず仇を探しまわりながら道場破りの名目で格闘家を襲っては金銭を略奪して全国を放浪していた。


 しばらくして彼は自身の襲撃を動画にし、父殺しの犯人へのメッセージとして公表する事を始めた。


 何らかの情報が得られるとの考えたのだ。


 しかしそれは思いもよらぬ方向に振れた。

 無関係な一般大衆が反応したのである。襲撃動画は刺激とスリルに飢えていた当時の国民に刺さり、その後の動画もバズり続けた。


 配信サイトのみならず、TVCM、公共放送での特番などでも取り上げられ、『サナダ』の名は日本中に知れ渡った。


 しかしサナダ本人はいつまでも苛立ちを募らせていた。いくら有名人になっても親の仇の情報は皆無だったからだ。


 そして格闘家としての名を馳せてから3年経ったある日、忽然と世間とメディアから姿を消した。




 ー長い月日が流れた。


 浮世から消えたサナダ カイシュウは40年後のある日突然、新日本軍に入隊してきた。


  同期達は格闘家たる実力をまざまざと見せつけられた。


 『やはり本物のサナダだ。』

 『…凄い。』

 『彼は別格だ。』

 否応にも自分達との差を意識してしまう。


 実力と戦闘センスは教官達をも凌ぎ、

 いつしか訓練兵の中でサナダは憧れを通り越し、神格化されていった。

 


 …そこにひょっこり現れたのがマエダだった。サナダを知らない男。


 まさか舐めていたとはいえ、技を遮られた上に発言にも逆らってきた。


 (…お前は一体何なんだ?)

 

 ーその挙句今朝マエダに言われたあの言葉。


 …サナダが自分を表すのに1番否定したい言葉。

 …しかしこれ以上なく芯を喰った言葉。



 『可哀想な人』


 だった。



 この一言でサナダの最後の良心は吹き飛んだ。

 父を亡くしてから今までのこの50年をまるっと否定された気分だった。


 (…私の何を知っていると言うのだ!!)


 …悍ましい。

 マエダが生き続ける事は自分の人生を否定され続ける様なものだ。


 (やはり私はお前は生かしておけない。私はこの先も信念の元、父殺しの犯人を探し続けるんだ。)


 (たとえ私の人生そのものが復讐で終わったとしても。)


 (たとえ私の人生が…)


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(通信終了まであと1分)

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<sideB>


 私は前田に助けられた。


 私は血の滲む様な努力で労働許可証を取得して上京し、小さなうどん屋台を構えた。

 いつものように"食いモンねぇか!?"とやって来た不良老人達がタダ飯を貪っていた。


 …若者が働く飲食店、ガソリンスタンドは老人ギャングの格好の餌食になっていて、ただ若い、というだけで迫害されるのが常だった。


 しかしこの日は奴らの機嫌はかなり悪かったらしく、暴れて店を壊し始めた。

 ーそれを私が止められるはずも無く、立ち尽くしていると、その中の1人が今度はこいつをやっちまおう、と言い出し全員で私に殴りかかった。


 私は死を覚悟した。


 まったくツイてない。産まれる時代を間違えたと思った。



 でも、…誰か、 …助けて


 そう無言で叫んだ。



 …その時薄れゆく視界に映ったもの

  踊りながら一人の老人がやって来て…そのまま彼らを一蹴したのだ。


 目覚めた時、私の近くに置き手紙があった。

 


 『みんな仲良く』

  

 

…薄い。


 しかし私はこの時、この人に付いていく事に決めた。


 

(通信終了)


GPS


シルバニア王国東京都品川区役所通りにて



 

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