第7話 So what.

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(通信開始)

0930(9時30分)


place:巣鴨練兵場 兵舎裏


<sideA>

決闘の日の朝、吾郎たち(前田、佐藤、木戸)と対戦相手(サナダ)は午前の訓練を免除された。

1200から始まる決闘の準備の為である。


 なお本日、佐藤と木戸は吾郎のセコンドを許可された。


サナダはキャンプ内を散歩したり、はたまたコンクリート塀を殴り続けたりと、彼なりの決闘前の『緊張と弛緩』を粛々と繰り返していた。


 そして吾郎達…。


 佐藤:「ここ、ここだよ!押すの。」


 木戸:「かなり急ごしらえどした(だった)からのぉ。」


 吾郎:「え!?何?イヤホンこれ… うわ五月蝿!!耳が痛いよ〜。」


 木戸:「わしが調整しちょるきに!勝手ん触るな!!」


 佐藤:「…ダメだもう腹減った。今から昼喰って来ていいかい?」


 吾郎:「サトちゃん!ちゃんとしてよ〜。俺、ホントに死んじゃうよ!?」


 木戸:「でもはん(貴方)だけは骨になっても四国には絶対入れんきな!!

 …いや練兵場で死んだら政府は事実隠すために遺体ば隅田川に流すっちよ。」


 吾郎:「やめてよ〜。ちょ、考えたくもない。サトちゃんも木戸さんになんか言って〜。」


 佐藤:「オレはそれを食った魚を店で売って線香代を…。」


 吾郎:「も〜〜〜〜!」


 木戸&佐藤:「wwwwww」



 真田:「余裕ですね…。なんだか楽しそう。」


  いつの間にかサナダが立っていた。


 吾郎が飛び起きた。

 「わわ。いつからいらっしゃったんですか!?サナダさん。ほうじ茶でもいかがですか?ティーバッグですが…。」


 「いえ、お構いなく。

  で、…いかがですか?あと数時間でこの兵舎…いえこの世を去るお気持ちは?」


 チーム吾郎は鎮まり返った。


 サナダは続けた。

 「…冗談ですよ。

 私はあなたに“望み”を土産に来たのです。 

…もしあなたが今棄権すれば、命は助けます。 

…その代償として今の仲間と同僚全ての嘲りと罵りも受けますが、それが何だって言うんです? 

 どうせ皆すぐに忘れます。

 ー皆、戦争に忙しいのです。いずれはここに居るほとんど全員が、虫ケラの様に意味もなく死んでいく事でしょう。そんな彼等に貴方がプライドを張る必要はないんですよ。


 いいですか?私は…武術を体得した貴方を買ってるんです。他の無能な人達と違ってね。 


ここの兵士なんて無価値で、


“野獣の本能の上に理性の皮を被せてあるただのソーセージ” みたいなもんです(笑)。


 あなたが本気を出せば私以外の同期全員が貴方に負けるなんて、まず思ってもみないでしょう。


 だ・か・ら・私は今こうして話しているんです。


 私や貴方は…価値のある人間だ。


 命を無駄にせず、次の世代に、未来に…この価値ある命を繋ごうではありませんか!!」




 (佐藤)「クッ… 」


 (木戸)「ーあんた…友達おらんじゃろ。」



 吾郎は少し間を置いて、応えた。



 「サナダさん。」


 「…私はこんなに悲しい言葉を聞いたのは初めてです。

 …こんなに悔しい想いを持ったのも初めてです。


 …こんなに…


 怒った事もありません!!


 サナダさん!


 許、許しませんよ!!!


 も、もうほうじ茶返して下さい。 帰って!


 言葉だけで悔しい。 涙が出る。


 サナダさん、 あなたは本当に、


 『可哀想な人』


  なんですね。」


 ーその言葉を聞いた瞬間、サナダは逆上し、吾郎の心臓目掛けて全身の力で右の拳を放った。


 …が、その前に彼を羽交締めにして吾郎から引き離す者が居た。

 

 「サナダさんいけない!

 もう少し待つんだ!! 今やったら全てを失う!!」


 檜山だった。サナダが何かを起こさないか後を付けて来ていたのだ。


 「何やってんだ!あんた…そんな頭に血が昇る漢じゃないだろ?(苦笑)…後2時間だよ。サナダさん。そうしたら何やってもいいんだから。…一緒に飯食ってスパーリングして時間潰そう。な。」


 徐々にサナダという野獣に理性という皮が戻っていくのがわかった。


 「あぁ。そうですね…すみませんでした。檜山君。」


 「それと、前田さん。本当に現れなくても何とも…思いませんよ。私は。」


 そしてサナダと檜山は食堂へ歩いて行った。


 吾郎はまだ興奮している。

 今起きたことを整理しようとしていたが、脳の処理が追いつかない様だった。


 不意に木戸が吾郎の額にチョップを喰らわした。


 「あいた!何するんですか!!木戸さん。」


 木戸は言った。

 「阿呆ゥ!コントロールじゃ! 気を鎮めぃ。そんな顔で踊れるか? 漫画みたいに怒ったら強くなれるんか?

  …なぁお前さんがあいつに笑顔で勝ったら、


 それが本物の勝利やと思わんか?」


 吾郎から毒気が退いた。


 「…ありがとう、木戸さん。その通りです。

   …感謝するがで。」

 


 「こら!薄情もんが気安う四国の言葉使うな。」


 「(泣)木戸さんそりゃあんまりだぁ。」


吾郎・木戸・佐藤「wwwwwww」


そして1200。


時は満ちた。


(通信終了まであと1分)


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<sideB>

 本州に戻った前田吾郎は母国の現状に驚いた。

 ここまで分断が酷いと思ってなかったようだ。

 憎しみを抱いた事のない彼が何故ここまで同胞同士で憎しみ合えるのかがわからなかった。


 いや…一度だけあった。一瞬だが憎しみを抱いた事が。


 まだ彼が未熟で、練兵場にいた頃、自分の同僚達が1人の兵士に馬鹿にされた時の事だった。

 その兵士…相手こそが、今この国を治めている真田 海衆だった。

 真田とは長い間バディだったが、戦争中期に別々の部隊に配属されてしまっていた。


 (前田)「長い、…長い時間放っておいてごめん。」


その時前田は真田を想って涙を流しながらいつまでも呟いていた。




(通信終了)

シルバニア王国東京都ニューメルボルン区某所にて。


 




 

  

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