第9話 I got rhythm.
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(通信開始)
<sideA>
実記録: 皇紀2781年(西暦2120年)6月14日
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「では両名!リング上へ。」
ジャッジ(判定員)が叫んだ。
格闘場の対角線上にサナダと吾郎が姿を見せた。
唸る兵士たち。
「来たーー!!レジェンド!」
「マスターオブキル復活!」
「オレの青春ー!スゲー!」
「サナダ!サナダ!サナダ!サナダ!…」
ジャッジ:「クッソ共ー!静粛にー!!
…よろしい。これより、訓令兵第3721番サナダ・カイシュウと第3746番マエダ・ゴロウの、
…決闘を始める!!」
(唸る兵士たち)
「戦闘ルールはたった一つ!
貴様等である!軍規では立ち合う兵士達が認めればリング上では何をしても構わないとしている!
そして勝敗はどちらかが戦闘不能になる事。それはジャッジが判断する。
決着後の取り決めに関しては全員協力をし速やかに行う事。
ー最後に!決闘は新日本軍の決闘実記にも記録される。即ちここに居る全員が決闘の結果に責任を負っている事を肝に銘じる様に!尚、故意に神聖なる決闘を汚す者は除隊又は殺処分の対象となり…。」
〜3分スキップ〜
「では、健闘を!両者リング中央へ!!」
(兵士たちの唸り・叫び)
サナダと吾郎はリング中心で向かい合った。
ジャッジ:「拳を見せろ。…よし、各サイドに戻って3カウントしたら決闘開始だ。わかったな? …よし行け。」
各自コーナーポストへ。
3…2…1
では始めよ!
兵士達(ウオーーー!!)
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実記録: 同 日12時25分 決闘 開始
サナダ) 勢い良くリング中央に飛び出す。
マエダ) 両手を平行に、右腕をやや高く上げながら膝を使い下半身のみで上下に揺れ始める。
サナダ) マエダの動きに反応、突進を止める。
兵士達)「ギャハハハ!なんでェあのタコ!あれ何?祭り!? 超ダセー!サナダさん早く殺って下せぇ!!」
マエダ) 上下運動を繰り返しながらサナダとの間合いを徐々に詰めて行く。
サナダ) (…?なんだこの奇妙な動きは。これでは隙が無いのか隙だらけなのかが…。)
様子見の為、一発右のミドルキックを放つ。
マエダ) 膝を曲げた低い姿勢から左肘をミドルキックに上手く合わせる。肘がカウンターとなりサナダの右足を強打。
サナダ)「ウッ!!」
佐藤)「上手い!吾郎ちゃん!!、木戸ちゃんの作戦大当たりだね!奴さん凄い集中力だよ。」
木戸) 「…まだまだ始まったばかりじゃきぃなんとものぉ。(汗)」
サナダ) 被弾した右足を2-3回軽く空で伸ばしながら仕切り直す。
マエダ) 再びジリジリと間合いを詰める。
サナダ) (…不気味な奴だ。しかし今の肘は危なかったですね。ほんの数ミリズレていたら骨折していた…。いやまったく出来過ぎだ。ではこれで…。)
思い切ってマエダの間合いに飛び込み、彼の下半身の動きが止まる様な顔面パンチの連打。
(兵士達) 「オオー!!」
佐藤) 「ヒエーッ!!」
マエダ) サナダのパンチに合わせて交互に両腕をパッと花を咲かせるように上げ下げを繰り返し、しっかりと顔面ガード。次に両腕を同時に上げサナダの首にモンゴリアン・チョップを見舞う。(敵の首の付け根に両手刀を振り下ろす打撃。蒙古の怪人/キラー・カーン〔1947ー 〕が得意とした。)
サナダ) 「がはぁ!」
(兵士達)
「おいおい…なんかおかしくないか? タコの攻撃…効いてるのか!?」
サナダ) (ッつ。なるほど。…やっぱりガチの隠密戦闘術でしたか。ならこうしましょう。)
ー動きをマエダに合わせ、モハメド・アリ・スタイルばりのボクシング・ステップを踏み始めた。
マエダ) (ありゃあ一体…?いやいや、集中集中…)
そのさまはリング上でなければ西洋と東洋のダンスバトルにも見えた。小気味良くステップを取るサナダ、膝を曲げ伸ばし摺り足のマエダ、異質ともいえる決闘だった。しかし2人の間には何者も入り込む隙はなかった。
サナダが恫喝で獣の様な『動』の攻撃を出せば、マエダが絢爛でしなやかな『静』の守備で捌く。こんな攻防がしばらく続いた。
これを言葉に当てはめるなら、戦闘武芸(Martial Arts)というものが正にそれだった。
サナダ) 「あぁ鬱陶しいですねェ!!アナタ。実に鬱陶しい!」
ー腕と脚による攻撃が全て遮られ、剛を煮やして右肩からラグビー・タックルを見舞った。
佐藤) 「ウヒッ!!」
マエダ) 飛んで来たサナダの全身を、両腕を花びらの様に優しく包み込む形で抱きかかえ、そのまま半身を捻りながらサナダを倒した。
(兵士達) 「ウオー!!」
柔道なら『一本!』と言いたいところだが、これは決闘なので、反撃を警戒したマエダは直ぐに跳び下がった。
(兵士達)「アイツ…あのタコやばくね!?」
「凄ェ…あんなに強かったんだ。弄って危なかったんだな俺ら…。」
「なんか…実はサナダが弱いのかもな。」
「いっこも攻撃当たらないし。」
「ウソッ…!サナダさんの戦闘力…低すぎ!?」
「お前それ昔の広告じゃんw」
「wwwww」
サナダ) (クソッ…、言いたい放題…ゴミ共はこれだから信用ならないんだ…じゃぁもう終わらせてやりますよ。)
ーポケットから山切り型の鋼鉄ナックルを取り出し、両手にはめた。
(兵士達) 「ここで来たー!!伝説の鉄拳!!」
「散々動画で使ってたヤツな。」
「…不利だからって今使うか?しかも神聖な決闘で!?」
「でも懐かしいなぁ!まさか本物観れる日が来るとは!マスターオブキル!!」
「いくら強いってマエダ元サラリーマンだぞ!?鉄拳はちょっと酷いわー。」
兵士を二分する賛否両論に耳を貸さず、サナダは前田の顔面目掛けて重い右フックを放った。
…マエダは今まで通り左前腕でフックをいなした。
…が、今回の結果は違った。山切りのチタン製ナックルがマエダの前腕に喰い込んだ。
マエダ)「あ、あいたぁぁぁ!!」
マエダは小股で逃げ回り、コーナーで左腕を抱えながら悶えた。
サナダは“それ”を逃さず、今度はマエダの左脇腹をえぐった。
ゴゴゴキッ。
…嫌な音がした。何本か肋骨が折れた音だった。
マエダ)「ぎやぁぁ!!イ、痛ィー!!」
激痛で倒れ掛かったマエダの右足爪先がたまたまサナダの胸元をかすめたので、サナダは一旦攻撃を止め、数歩後退した。
しかし意図した攻撃ではないと見抜いたサナダは再びマエダを仕留めに行った。
しかしその時、リング外から投げ込まれた空き缶がサナダの頭に当たった。
サナダ) 「!」
(兵士達) 「お前いい加減にしろ!」
「これは決闘だ!!前田は素手じゃないか!!」
「この恥知らず!」
「…やり過ぎじゃあ。」
「無名の頃のアンタじゃないんだぞ!」
「こんな試合…孫にどう話せって言うんだ。」
「お前さん軍人じゃねぇ!」
しかしサナダはリング外の声を遮断し、とどめにマエダの右側頭部を殴った。
マエダ)「ギャア!ちょ!!痛ァアァァ!!ウアアアア!!!」
かつて経験した事のない激痛にマエダは悶絶し、失神しかけた。
そしてマエダの右耳から何かが落ちた。
木戸)「いかん!まずい!外れてもた!!」
佐藤)「え!!何ヤバ!?もう駄目じゃん…。殺される。」
…これはイヤホンだった。マエダが決闘に勝つために木戸が思い付いた奇策で、耳に阿波おどりの音頭を流す事でマエダの恐怖心を退け、闘いに集中できる様にしていたのだった。
…それでマエダは伝統技能を喚起し闘いに集中できていたのだ。マエダは踊りに身を委ね、夢遊又は酩酊に近い状態であった。
ーしかし今や肋骨が折れ、左腕は垂れ下がり、顔は赤く腫れ上がり、そして…イヤホンが潰され今までサナダを完璧に制してきたトランス・ダンスは封印されてしまった。
サナダ)「wどうしました? 前田さん。 先程迄とは別人の様ですよ? 痛みに戦意を削がれましたか(笑)。みじめですw。まったく素人が決闘なんてしちゃいけませんよ。
…これですか?ナックルが気になります? 何を言ってるんです。
…本物の戦場では銃も刃物も何でもありなんですよ?こんな物ごときにモチベごと崩れてたんじゃぁ…今ここで死んだ方がいいですw」
(兵士達) 「あーあ終わった…。」
「…もっと観たかった。」
「でも…マエダには驚かされたよ。」
「クネクネしながら闘って…アクション映画みたいだったよな!」
「あぁ。…良かったよ。」
「もっと観たかったな。正直。」
「その…あのさ、俺の婆さんは四国の出で、アイツの、いや俺の婆さんが昔あんなの踊っていたような…」
「武術じゃなくて、やっぱりあれって踊りだったんだ。」
「いや、えぇ!?…踊り?それって一体…」
「ちょっと待て今思い出す。確か婆さん…婆ちゃんが唄って…そう、
『エライヤッチャエライヤッチャヨイヨイ…』。」
「おお!それ知ってるぞ!!」
「…うわぁ懐かしいなぁ。」
「お!それ俺の叔父さんも唄ってたぞ。『踊る阿呆に…。」ーだっけ?」
「知ってる。徳島特別区(District of Toqushima)の踊りだ。」
「それ!そうだよ!!間違いない!!」
「……なぁ、マエダってあんなに勇気あったのな。 それなのにずっと俺達に腰低くてさ…それを俺ら面白がって…散々な事してきたよな?」
「ーおい!」
「…バカ今それ言うか…?」
「まぁ、その通りなんだけど」
「…いや、そうだ。ーもっともな話だ。」
「だからさ、今マエダに謝ま…今こそマエダを応援してやらないか?このままアイツが一人で死んだら…俺たちこの先ずっと悔やむと思うんだ。
言っても俺達はみんな、マエダとは
ー同世代だろ?」
「…わかった。俺は応援する!!」
「俺も!俺も!!俺も!!」
木戸):「(泣)…んだら俺ら全員で合唱じゃあ!!
ーサトさん、いっちょ音頭頼むぜよ!!」
佐藤):「あいよ!!
ではみんな注目ー!!
" …えー…物の始まりが '1 'ならば、国の始まりが'大和の国'、島の始まりが '淡路島'。こちとら産まれも育ちもアンダー葛飾は柴又…“」
木戸):「いよっ!!」
佐藤):「”時は戦国、出会いは大和国、
…泥棒の始まりが石川ノ五右衛門なら、
決闘の始まりは前田吾郎。
お相手するのは『伝説級』
、こちとら暴力『ノーサンキュー』。
しかしケンカとあっちゃぁ逃げてはいられない。
どうかお見知りおきを。
'鬼'の前では踊る事しか出来ない、
我儘で、
散漫で、
卑屈で、
自信も金もない、
ー誰にも必要とされていない
俺らの代表、
そして不屈の漢、
『前田吾郎』
一世一代の舞で御座います!!“」
木戸):「ソーレ!!」
(佐藤・木戸・兵士達) :
”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!
同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“
…ヨイヨイヨイ!
はい!
(佐藤・木戸・兵士達)
”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!
同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“
それ!
(佐藤・木戸・兵士達)
”踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ!
同じ阿呆ゥなら踊らにゃ損損!“
(くり返し)
※ ※ ※
サナダ)「う、うるさい!ゴミ共め!!おいお前ら『指名試合』って知ってるか? ”これ“が終わったらお前ら全員一人一人指名して殺し…!」
…!
ー皆の音頭が彼の身体を持ち上げるかの様にマエダは…ゆっくりと立ち上がった。
マエダ) 「…私の友人達にまで手を出さないで下さい。」
(兵士達):「ウオーーー!!」
「いいぞ!サナダなんかやっちまえ!!」
「さすが!キングオブダンシング!!」
「マエダ!!マエダ!!マエダ!!マエダ!!」
サナダ)「…貴方、肋骨が内臓に刺さって顔面が骨折中ですよ?ふ…バカなのですか?」
ー立てる状態ではないはずだ、と呆れている。これまで手にかけてきた格闘家なら泣いて命乞いしている時間なのに。
それをカメラに収めて俺は有名人になったのだ。
(…しかし間違いない。コイツはもう闘えない。)
佐藤)『…スゲェよゴロちゃん、泣)。
でも、…どうやって闘ったら…。」
木戸)「…阿波踊りにはな、
『男踊り』と『女踊り』があってな…。」
佐藤)「(泣)え…。」
木戸)「…ホンにたいした大将よ。
今まで踊ってたんは体幹重視の
『女踊り』ぜよ。
顔や片腕やら胴体壊されても、
ー片腕と両足はまだ動くんじゃ。
観とけよ。こっからは、
ゴロはん十八番の
ー阿波踊り一番の華、
『男踊り(おとこおどり)』
のはじまりじゃ!!」
(通信終了まであと1分)
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<sideB>
前田は東京中の若者を助け、信者を増やしていった。
ー当たり前だ。老人に牙をむく老人など当時は居なかったのだ。
『みんな仲良く』
この稚拙な言葉が彼のスローガンだった。
彼は若者と老人を区別しなかった。
なんとかサナダ国王に謁見して国を変えないといけない、が口癖だった。
そして遂にその機会が訪れた。
前田吾郎の名を聞いた国王が会いに来いと言っているらしい。
1人で来い、が条件だったので信者達は引き留めたが、
『ちょっと会ってくるだけだから』
と、あまりにも軽く言うので、誰も何も言えなくなってしまった。
…念の為上着の第二ボタンのカメラで状況をモニタリング出来るようにしておいた。
何かあれば私達も…命を賭けるつもりだ。
(通信遮断)
シルバニア王国東京都青梅市新日本軍化学工場より
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