第10話 Alone together. 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(通信開始)


<sideA>


サナダ)「…バカなのですか? まだ闘うなんてねw。 まぁいいでしょう。…ですがそろそろ決着を付ける時間です。


   ひとつ…死ぬ前に一つだけ問わせて下さい。」


 マエダ) 「ハァ、ハァ(汗)…?」


 サナダ)「…この時代に産まれ、学び、職に就き、結婚をし子を育て、退職後は戦場に逝く…不可分のないこの完全な世界は…そしてそこにいる我々とは…一体何なのでしょうか?


 …(苦笑)考えたことも無いという呆けた面ですね。…まぁ何でもありません。


ーそれでは、さようなら。」




 木戸) 「(…見とけよ、ここからが本番じゃあ)」


※ 再   開  ※


佐藤:「みんな!声張るぞー! ソーレ!!」


(兵士達) エライヤッチャ

エライヤッチャヨイヨイヨイヨイ

 踊る阿呆ゥに観る阿呆ゥ。

 エライヤッチャ

エライヤッチャヨイヨイヨイヨイ

 ソレッ!同じ阿呆ゥ…♪


 マエダ) 両足をガニ股に腰を大きく落とし、使える右腕を突き出した。

 ーその先のサナダを見る。


 サナダ) 「…行きますよ。」

 急速に間合いを詰め、鋼鉄ナックルを活かした鋭いワン・ツー(パンチ連打)を浴びせる。


 マエダ) 低い姿勢のまま左足から右足、前後を入れ替えながらパンチを俊敏にかわす。


 サナダ) 自重を効かせた重い右ストレートを放つ。


 佐藤) 「ヒィィ!!」


 マエダ) 飛んできたサナダの右拳外側に、

自身の右の裏拳を当て、軌道をずらす。


 木戸) 「おお、上手いのぉ!」


 (兵士達)

  「ウオー!」

 ♪エライヤッチャエライヤッチャ


 サナダ) またもや同じ右ストレート。

 今度もまたマエダの裏拳でパンチを左に流される…が、しかし今回のそれはサナダのフェイクで、その流れの軌道を使った速く強烈な回し蹴り。


 マエダ) しゃがんだ姿勢から右足を伸ばしスピードの掛かったサナダの蹴りを足裏で止める。


 サナダ) 「…グッ!!」


 木戸) 「おぅおぅ甘いのぉ!ゴロはん(苦笑)。踵で受けたらサナダの脚潰せたのに。」


 佐藤) 「そうなの!? そんな余裕なんて無いんじゃぁ…。」



 サナダ) 「(クソッ!)

 (…私が負ける訳がないのだ。私は本物です!ならば本物の実力を観せてあげましょう!!)」

  

 ーサナダはおもむろにマエダの方を向いたまま後ろに約10歩下がった。



 木戸) 「(何じゃぁ…?)

 おーい!ゴロはん気ィ付けなもし!!」



 そこからマエダに向かって突進し、 


 1m手前で宙高くジャンプした。


 


マエダ)「(回し蹴り?)」

 

 サナダの蹴りに気付いたマエダは、慌てて身体を逃がすも、サナダのキックの異常なスピードと圧倒的な力にそのまま背中に強打をもらい、地面になぎ倒される。


 マエダ)「ふがああ!!!」



 (兵士達) ザワ…(汗)。

 


 「なに…今の?」

 「飛んでから…回し蹴り…?」

 「回転数やたらとバグってない??」

 「…あんなの観たことない。」

 「マエダにがっつり入ったな。」

 

 「…あれは一体…?」



 木戸)「…ダブル・アクセル。」


 (兵士達) 「ダブル…アクセル?」


  「え!? フィギュア…スケートの?」

  「いやいや、これ格闘技だって!!」

  「ダブ…2回転半かよ?回し蹴りで?」

  「…ヤベー。」

  「アイツ一体…まさか今考えたのか?」


 佐藤) 「…『真田 海衆:ロシア生まれ』ってなんかで読んだ。」


 (兵士達)

「じゃあスケートはお手のもの…。」

「だからってそんな…別ジャンルから持って来れるか?」

 「う、美しい…」


「本物の…戦闘芸術家(マーシャルアーティスト)だな。」


サナダとマエダ、2人はもう常人では到底理解できないレベルで闘っていた。



サナダ) 「…さぁ起きて下さい。…アナタまだ立てますよね?」

 

 サナダは蹴りの方向にマエダが上体を逃がしてい事に気付いていた。


 マエダ) 「いやぁ(苦笑)、ゴホゴホ(苦)、なるほどこりゃ…いたたた(汗)。」

 

 サナダ 「(もう…あなた…逃げられませんよ。)


 …これで最後にしましょう。」

 

 サナダが先程と同じ位置まで下がった。

 

 佐藤)「も、もうおしまいだ。と、止めなきゃ。」


 木戸) 「そうや…ゴロはん。」 


 佐藤)「?」


 木戸)「ゴロはんは…相手にやられながらずーっと溜め込んじょったんじゃ。全く反撃せんと。…見てみぃ。あの爆発しそうな太腿を。身体裂かれても折られても今この瞬間を待って…よう我慢した。(泣)」



 木戸)「ーもうええぞ。舞ってくれなもし。」



 スタート位置でクラウチングポジションのサナダから物凄いオーラが出ている。


 兵士達) 「ヤ、ヤベー。」

 「気、気を付けろマエダー!!」

  佐藤) 「みんな、が、合唱ー!!」

 エライヤッチャエライヤッチャ

 ♪(repeat.)


※ ※ ※


 サナダ) 堰を切ったように一気に駆け出す。

 

 疾走の初動が物凄い砂煙を辺りに散布し兵士たちは2人を見失う。


 マエダ) ガニ股の低い左前構えから腰をさらに落とす。


 それは下半身という弓が上半身という矢を今にも打ち上げそうなポーズだった。


 サナダ) スピードのベクトルをマエダの1m手前で変換。大きく跳躍した。



 マエダ) 最も低い姿勢からサナダに向かってジャンプする。



 ーー両 者 接 触 ーー






「ぐあああ!!」







砂埃が風と逃げていく。




 …墜落したのは


 

ーサナダだった。



 サナダ) 「がっ(吐血)」


 マエダ) 片足で着地し、そのままちょんちょんと斜めに飛んでリング端で…しっかりとコーナーを掴んで、最後は両足で立っていた。


 (木戸・佐藤・兵士達)

 「ウオーーーーー!!」


 (兵士達)

 「サナダがはじかれた!」


 「本当にやったんだ!!」


 「マエダ!マエダ!」


 「踊りの神!!」



 ー「わしらの代表!!」

 



 「何が起きたんだ!木戸!!」



 (木戸) 「 サナダはさっきと同じ完璧なダブル・アクセルを出した。


 …そう完璧じゃった。しかしゴロはんはこれを待っとったんじゃ。」



「…そして決めた。」



 (兵士達) 「…ゴクリ」 




 木戸:「 “阿波踊り仕舞32手・秘技


  

 鳴門の渦潮 (なるとのうずしお)”

   

  ー『トリプル・アクセル』

 

              をな!!」

 



 (兵士達) 「な、何ー!?」

 

 「ト、トリプル(3回転半)!?」


 木戸)「…つまりはゴロはんはサナダと同時に、同じ方向にアクセル・ジャンプをして、サナダよりも1回多く回って…ただ蹴ったっちゅうだけの話じゃ。」


 (兵士達) …ゾクッ。

 「ただ1回多くって…マエダ助走すらしてなかったぜ…そこからトリプルアクセルって…。」

  

木戸) 「壺から出てきた大ダコは強いじゃろう(笑)。 」

  

 「タコ…」

兵士達は静まり返った。



 マエダはサナダに近付いていった。


 サナダはダブルアクセル後のノーガード状態 (回転後は足首を捻らずに着地する事で精一杯なのだ) で、回し蹴り3回転半分…おそらく通常の3.5倍の破壊力を持つ蹴りを受けたのだ。…無事である筈がない。


 マエダ) 「ねぇ、サナダさん。」


 サナダ) 「…な、なんです(早く殺せ)。」


 マエダ) 「…もうやめましょう。もういいです。私はあなたとは闘いたくありません。」


 サナダ) 「!?バカ…言わないでください!これは決闘ですよ?どちらかが戦闘不能になるまでひたすら続けるんです…。」


 マエダ) 「…じゃぁワタシの負けでいいです。闘う意志が無いので戦闘不能です。これでいいでしょ?」


 サナダ) 「(怒)…何を言ってるんですか!!…それでは貴方、明日軍を除隊する事になるんですよ!?」


 マエダ) 「ええ(笑)。…それでいいです。かあちゃんもわかってくれます。たぶん(苦笑)。 でなくても毎日怒られながらなんとか生きていきますよ(笑)。そんな事より、」


 サナダ) 「…?」


 マエダ) 「…私ね。サナダさん。私、決闘前に貴方の記事を読んだんですよ。

  そこにはあなたは何十年もずっとたった1人で父親の事件の犯人を探している、って書いてました。

 …私なんて父が嫌いで嫌いで十九で家を飛び出してからは帰省はおろか、殆ど連絡も取ってないっていうのに。

 貴方は本当は私なんかよりもずっと義理とか情を大切にしていて、ただ器用じゃなくて…ええと、


 つまりあなたは、『良い人』なんです。


 …で、あなたの親への想いを見習って試合前に勇気を出して父に電話してみたんです。


 あぁ父の声は何十年振りだったか…。

 貴方のお陰です。…現在父は米軍と働いているらしく、除隊したらまずは彼らのネットワークを使って貴方の仇を、父と一緒に探してみるつもりです。

 サナダさん。貴方さえ良ければですが。


 ーあの…今朝はついカッとなって『可哀想』だなんて言ってしまってごめんなさい。

 

 生きている身内を許せなかった私の方が余程、…自分で言うのも何ですが、


 『可哀想』でした。


 それをどうしても試合後に伝えたかった。」







 「ありがとう。 サナダさん。」








 サナダ) 「ジャッジ(判定員)ー!! 決闘終了ー!」



 近付く判定員。









 サナダ) 「…私が負けました。」




(通信終了まであと1分)

----------------------------------




<sideB>


 前田吾郎は王室(旧皇居)にスムーズに通された。

 彼の第二ボタンから流れてくる映像は、

 まるでセキュリティなど無いような扱いで、それは彼は本当は政府側の仲間だったんじゃないかと疑う程だった。

 

 王の間に入室すると、そこには初めて見る、筋骨隆々の国王と見られる人物が立っていた。


 国王)「…ついにご対面だな!!」

 国王は前田の方に近づいて来た。


前田)「…久しぶりだね(笑)。海…あ、あぁ!?」

 画面が揺れる。…前田が動揺している。


 国王)「驚いたか? …間抜けのタコ野郎。」

 前田の目の前に立つ王は、この世界そのものを象徴しているような、強く、無慈悲な出立ちだった。



 私達のリーダーが聞いた。

 前田)「国王…真田さんは…どこ…ですか?」



 国王)「バカか?今は俺が真田だ。わからんのか?タコ助が。」

 明らかに前田を見下し、しかも知っていると言う風な言い方だ。



 前田)「…真田さんをどうしたんですか?」

 前田の声には、怒りを深く鎮め、同時に王に個人的な畏怖の念があるような揺れがあった。


 突然、国王は命令口調で叫んだ。

 王「質問が多いぞ!誰に口を聞いている?


  3746番!!」


 静かな声で前田はそれに応えた。




 前田)「…お久しぶりです」





前田)「…教官殿。」

 



(通信終了)

 

シルバニア王国東京都内にて



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る