第4話 The way you look tonight.

---------------------------------------------

(通信開始)


1120(11:20)


Place:巣鴨練兵場 西手洗い場



<sideA>

 (佐藤)「どうすんの!?ゴロちゃん。あんた決闘なんて! 確かにこの前は凄かったよ!?なんか…よくわかんないけど…すごかった!」


 前田吾郎の唯一の話し相手、佐藤は言った。


 (前田)「何?『すごかった』って!?何の励ましにもなってないよ!サトちゃん。


 あぁ…

 あんなの絶対あり得ないよ…。


 なに、サナダさん?朝倉流M.A.(マーシャルアーツ)の師範…相手だなんて本当無理ゲーだよ。

 俺40年間ただのサラリーマンだったんだよ?まだ頑固一筋、元魚屋40年のサトちゃんの方が絶対筋がいいはずだよ。。」


 (佐藤)「よせやいゴロちゃん(汗)!代わりに闘わそうったってそうはいかねぇ。

 しかし…まったく相手が悪いよなぁ。

 まぁ…ゴロちゃん。早目にやられてさ…再就職先は豊洲の親類に頼んでやっから、無理すんなよ 

    …なぁ。きょ、兄弟。」


 照れながら、佐藤は話した。


 吾郎は胸が熱くなり、言った。

 「…んでぇサトちゃん!兄弟って(照)。

 あぁ…俺たちももう軍人なのな!!俺もサトちゃんとはなんだか本物の兄弟みたいな気がして来てんだよなぁ。

 …ありがとな。じゃ、ここはお言葉に甘えて…。」


 その時、吾郎は背後に強い存在を感じて、ピョンと跳ね退いた。


 (前田)「サトちゃん!!どいて!」

  吾郎はその相手から眼を離さず、佐藤を自身の後ろに隠しながらその存在に向かった。 


 

 (木戸)「なるほど…やっぱ、おま(貴方)さんは…普通やないきいな。」


  そこには新兵の同僚、木戸が立っていた。


 (前田)「な、なんですか!木戸さん!私には決闘までは手は出せない規則なんですよ!!」

 吾郎は今朝読んだ『はじめての決闘』の知識を絞り出した。


 木戸はふーんと薄目で吾郎を見ながら話した。

 (木戸)「ちなみに、…前田さ、いや、ワ(私)も佐藤さんみてにゴロさんてぇ呼んでエエとね? 


…なぁ、ゴロさん、はん(あなた)は出身は何処とね!?。」



 拍子抜けしながら吾郎はオドオドと応えた。

 (前田)「東京都アンダーカツシカ区…」


 (木戸)「違う!!」

 

 木戸は大声で言った。


 (吾郎)「ヒェッ!!」



 (木戸)「おまはんは上京者ぜよ?ほんに少し訛りが残っとる。ええか?ワ(私)はホンに(本当の)クニ(故郷)は何処かと聞いちょるんじゃ!!」


 …吾郎はポカンとした顔で、右手で頭をぽりぽりと掻きながら言った。


 (前田)「そう…ですね。実は私は…19(歳)で上京しまして、その後家内と出会い婿に入ったんですが、…実はもともと四国の生まれなんです。だから木戸さんの使う方言もなんだか懐かしゅう有ります。」


 佐藤はへぇーっという顔をしている。


 一方の木戸は、何かを確信した様な顔をした。


 「やはりそうでおしたか(そうでしたか)!!

 あんたの術ば観て感心しちょりました(しました)!」


 吾郎達には何の事か分からない。


 (前田)「あの…人違いでは?」


 木戸は続けた。


 (木戸)「何言うちょりまするん(言っているのですか)?あんな立派な舞をされてなもし。」



 ますます吾郎は分からない。

 (前田)「あの…すみません。…怖いんですけど。」



 痺れを切らした木戸は苛立たしく言った。


 (木戸)「あぁ、もう!はがいたらし(じれったい)のぉ!!



あんたぁ、東亜最強の武術




 ”阿波おどり“


 の名手でねぇかい!!。」


(通信終了まであと1分)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


 

<sideB>


 多くの諸外国の国民は、『64歳迄と65歳以上』の2グループに分かれてお互いを憎み、歪み合い、また恐れながら暮らしている。 


 既に国家間の争いは無く、どの国も自国を治めるのに手一杯だった。


 その原因の1つとして、C.T.B法を廃止するのが遅すぎたのだ。


 各国の若い政治家達は国務経験のなさと権力行使の未熟さから、大胆な変化ができず、老人達からの喫緊の要望の一切を拒んだ。…今や若者達が保守派だった。


 そして老人達が通りで声をあげ始め、それは数週間後大きなうねりとなり、やがて超大規模な反政権デモが始まった。


 そのしばらく後C.T.B法は廃止されたが、


日本ではそれで収まらず鬱憤の溜まった高齢者達があらゆる要求ー無理難題を政府に飲ますべく武装蜂起し、それが長い内戦に発展した。


 …そして5年経ち…


 遂に『日 本』は消滅し、


 まったく新しい国が生まれた。



 世界初の寿命のない老人達の理想国、




 …"シニア"と"シルバー"の為の国、






 "シルバニア"



 

 がここに誕生した。

 

 


(通信終了)



-log-

2136年8月13日


シルバニア王国東京都港区東京海底大学駅構内









 

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る