第3話 Old Folks.

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(通信開始)



<sideA>

1900(19時00分)


place:巣鴨練兵場 兵舎内


 

 今は練兵達の唯一の自由時間である。


 いつも通り前田吾郎は妻からのメールをチェックしていた。


 (前田)「なに!?かあちゃんまた家の改築したのか!?あちゃぁ…またローンの上乗せ。。もうこれ以上は…ブルッ(汗)…くわばらくわばら…。」


 ゴッ!!


 (前田)「あいたぁ!!」


 吾郎の頭に何かが当たった。


 うつ伏せのベッドから起き上がり後ろを振り返った。


 (前田)「な、何をするんです!?」


 …そこには同僚で…ガタイの良い

大男が錘の様な何かを靴下に入れてグルグルと振り回しながら立っていた。


大男は吾郎を睨み付けながら話した。


 (大男)「…おいこのタコ野郎。俺等はお前さんのせいで新日本軍始まって以来の延長補習記録を喰らってんだよ…。


 俺ぁこないだなんか、孫とのエアー面談の時間がお前の連帯責任のお陰でなくなっちまったんだ。


 …なぁ前田さんよ。いつまで俺達の足を引っ張りゃ気が済むんだ?お前が言わないなら俺が言わせてやるよ、


 ”私は新日本軍を除隊します“ってな!!」


 そう言いながら錘の入った靴下(おそらく中身は石鹸だ。)を力一杯に吾郎目がけて振り下ろした。 

それは吾郎の眼に当たり、

 吾郎は痛みに悶えながら言った。


(前田)「すみません!すみませんでした。

 私もっと努力しますから!!。」


 (大男)「うるせぇや!早く辞めちまえ!!」


 吾郎はベッドから通路に逃げ出し、随分と強く殴られて赤く腫れた片目をおさえながら話した。


 (前田)「わ、私も私なりに頑張っているんです。…が迷惑をかけてすみませんでした…お孫さんとの事。

 …私達は明日の訓練でどうなるかわからない高齢者です…お気持ちはお察しします。

 でも私にも愛する家内が居るんです!!…皆さんもそうでしょ!?

 …どうか…私も仲間と認めてください!!。」


 心からの嘆願だった。靴下を振り回す大男は…いや、周りに居た兵士すべてが一時吾郎の話に聞き入った。



 …しかし日々の訓練の過酷さとペナルティの残酷さが彼等を狂気へと引き戻した。


 (兵士A)「ちょ、調子のいい事言うんじゃねぇ!」


 (兵士B)「お前のせいで今日もズタボロだ!!」


(兵士C)「肩がもう上がらないんだぞ!」


(兵士達)「ー殺せ!殺せ!!殺せ!!。」


 

 (大男)「お、前だけはなあああ。」


 兵士達に煽られた靴下男は吾郎の頭上目掛けて力一杯に靴下を振り下ろした。


 (前田)「やめて…下さい!!」


 そう言うと同時に吾郎は半身で攻撃をかわし、靴下を突き上げた自分の右腕に絡ませ、もう一方の手刀にした左手の爪先を男の顎下に突き付けた。


 …あっと言う間の出来事だった。

 皆吾郎の頭が割られる事を想像していたので今観た事の処理が追い付いていなかった。


 (大男)「ち…くしょうっ!!。」


 靴下男は一歩下がって、もう一度殴りかかろうとした。が、

 今度はそれを別の誰かが静止した。


 (兵士D)「待て。…私が相手する。」


 … そう言って兵士達の中から出てきたのは特別大きくもない普通の男だった。…が、何と言おうか彼の周りには一切の”空気“を感じなかった。


 そして男はうっすらと笑って言った。


 (兵士D)「前田さん…でしたっけ?本当に何なんですか?… いや貴方は一体…“誰”なんですか…。」


 吾郎は怯えた。たまたま身体が勝手に動いてなんか上手くいっただけなのに、

 なんだか物凄い人に物凄い勘違いをされている。


 (前田)「あ、あの、すみません。いや私はね、みんな同世代というかね、その揉めたくはないんです。」


 “空気”を一切感じさせない…そうだ、

「真空男」と呼ぼう。真空男は応えた。


 (真空男)「そういう事じゃなくて…貴方…本当は一体、貴方はいったいは何流なんでしょうか!!」


 そう言うか早いか真空男は軍靴の1番硬い部分…すなわち踵(かかと)底で、

 吾郎の、いや人の弱点である膝ー左の膝を完璧に踏み込んだ。


 …かに見えた次の瞬間、吾郎はその左膝を軽く曲げて攻撃をいなし、半拍で左の掌底(手の平の打撃)を真空男のやはり顎下で寸止めした。



バンッ!!



…兵舎の扉が開いた音だった。



2020(20時20分)


 (教官)「やめーい!!貴様ら何をやっておるか!!」


 教官が入ってきて…相当激怒している。


 (教官)「貴様達の自由時間はすでに終わっている!すなわち今のお前達は新日本国軍の所有物である!!お前らに人権は認めない!!さっさとベッドに…。」


 そのとき多くの兵士達に囲まれた真空男と吾郎が彼の視界に入った。


 (教官)「貴様ら…なんだ。決闘か?」


  興味深く言った。


 (教官)「…真田海衆(サナダ・カイシュウ)、お前みたいな朝倉流武道家がなぜこんなタコ助を相手しているのだ?」


 サナダは応えた。

 (真田)「オヤジ(教官)…、すみません。それは…。」


 その時、間に割る様に靴下男が入って来て土下座をした。


 (靴下男)「すみませんでした!オヤジ!!俺が始めたんです!!」

 激情した靴下男が言った。


 (靴下男)「俺が…こいつ…前田のせいでペナルティ喰らったってイチャモン付けて喧嘩を売って…。

 だからサナダさんは関係ないんです。俺のせいなんです!」


 ー教官はふと閃いた。

 なるほどこれは好都合だ。

 誰かが公式に吾郎をブチのめせば皆の日頃の鬱憤も晴らせ、結果隊の規律も戻る。


 そして自身がうかつにも急所を外してしまった唯一の新兵という目障りも消えるー。


 しばらくの沈黙の後、教官は言った。


 (教官)「良かろう!皆、正直で何よりだ。

 …では皆の前で1週間後の格闘技の授業で公式に前田とサナダを闘わせる。

 武士道の復興により決闘が法で認められているのは皆、知っての通りだな?

 決闘の栄誉は


 …前田が勝てば皆、全てを忘れ前田を仲間として認める事! 


 しかしサナダが勝った時は


 …なぁ前田よ…これだけお前は皆に疎んじまれ迷惑をかけているんだ。

 どうすればいいのかは新日本男児である貴様にはわかるな?」


 吾郎は涙をこらえながら言った。



 (前田)「はい…。私…家に帰ります。」





(通信終了まであと1分)

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<sideB>


 気付きはほぼ同時に、多方面で始まった。

 世界中の老人達は、戦う相手は他国ではなく自国の政府だと知った。 彼等にとって何より重要なのはC.T.B法を潰す事だった。


 年の功から経験と知識は政府側を凌駕した。WEB上のデータベースへのアクセスも65歳以上のみ(65禁)とし、情報を独占した。


 そして時の流れも味方した。若者はいずれ年を取り彼等の仲間になっていく。


 また、彼等には『寿 命』がないので、出生率は減っても仲間は増える一方だ。


 …更に、実際内戦が起きたらやたらと強かった。長年の経験がさまざまな戦略を生み出し、また実戦のプロも生産していた。


 こうしてもともと出生率が低く、平均年齢が高い国『日本』は、


 高齢者側が圧勝し、2000年以上続いた天皇制は消え去った。


 その後新たに王政復古をし、その第一の王座には

 先の世界大戦で見事な活躍をし、今回の内戦のリーダーだった


 真田 海衆(サナダ カイシュウ)が選ばれた。

 



(通信終了)



-log-

…国東京都世田谷区…北沢ぺアーポンドエス…ッソ
















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