第2話 How insensitive.

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(通信開始)


<sideA>


Area: 東京都豊島区


Base: 新日本軍 巣鴨練兵場


ここでは入隊者を一人前の兵士にすべく、心構え・体力・戦闘術・反老化などありとあらゆる軍人の為のスキルを修得させる。


また、ここでの最終試験の結果によりどの部隊に配属にされるかが決まる。



訓練兵の生活


朝 0400 起床のサイレンと教官の怒鳴り声

  0405 整列と点呼 

  0410 身支度を整える

  0420 兵舎の掃除

  0430 練兵場内をジョギングと行進

  0600 朝食

  0700 授業

  1000 体力作りと訓練。

  1100 昼食

  1200 戦闘術と格闘技

  1600 兵舎に帰る

  1700 夕食

  1800 入浴(シャワーのみ)

  1815 銃の整備(分解-磨き-組立-調整)

  1900 自由時間

  2000 天皇陛下万歳三唱-就寝

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 今日もこんな1日が始まる。


0400(4時00分) 「起きろ!このゴミ共が!!そのヨボヨボのケツをケツ税で買った御国のベッドから離せ!!」


 同時に、パトカーのようなけたたましい起床のサイレンが鳴る。


 ベッドから飛び起きた兵士たちはシーツを4つ折りに畳み、通路に整列する。


 前田:「ゲップ…ムニャムニャ…2つで充分ですよ…ムニャ…わかってくださいよぉ…」

 

 吾郎はすっかり熟睡してしまって起きる気配がない。


「!今のはなんだ?」


老人とは思えない、堂々とした肩幅と筋骨隆々の教官が大声で言った。


「聞こえなかったのか? 

…そうか。ではこの兵舎内の監視カメラ全てをチェックして探し出そうか?

ここで名乗り出たら罰は軽くしてやる。しかし…。」


『ま、前田吾郎であります!』


 吾郎の近くの兵士が叫んだ。


 教官は吾郎のベッドまで歩いて行った。


 そして次の瞬間、教官の重い右拳が仰向けで熟睡している吾郎の腹を大きく響かせた。


「げへぇ!!」


 眼がばっちり開いた吾郎は息を吸う事も出来ずに教官に目を向けた。


「…貴様は誰だ?…言ってみろ。」

 腹を殴った状態で静止したまま教官は言った。



「…ま…え田吾郎であります」

 息絶え絶えの吾郎は小さな声で言った。



 教官は吾郎に顔を近づけて話した。

「…違うだろ?お前は新日本軍兵士だ。さっきお前が口にしたのは”識別コード”だ。「お前」が死んだ時に「お前」の棺桶に「お前」を間違えずに入れる為のな。」


教官の拳はまだ吾郎の溝落ちを刺したままだった。


教官は耳元で叫んだ。

「だが新日本軍兵士は無敵である!!

日本人は戦場では死なない!

だから”識別コード“など軽々しく口にするな!!

 ー貴様が今度名前を聞かれたら

“自分は新日本軍兵士であります!”と言うんだ!わかったか!?わかったら言え!!」


「わぁ、っかりました。わたしは

 しん日ほん軍へい士でありまぁす。」


「声が小さい!!!」


「“新日本軍兵士“でありまぁす!!。」


教官は拳を引き、吾郎はベッドでうずくまった。


教官はすぐさま周りを見渡し、叫んだ。

「何をしている!?貴様らクズ共全員外で行進ー!!

 あと、このタコ野郎を医務室に運べ!

 当分は訓練に戻れないだろうからな!!」


「…だ、大丈夫であります!教官どの!!

  私を…皆と走…らせてください。」

 吾郎は息絶え絶えに起き上がり、言った。


「…お前はバカか?…2-3日眠っていろ。」


吾郎は話した。

「ここで遅れを取っては…いかん…のであります。皆と合流…します。」


教官は少し腑に落ちない様子で応えた。

「…では勝手にしろ。急げ!進め駆け足ー!!」


「は、はい。…お手加減ありがとうございました…。」

 千鳥足の吾郎が兵舎を後にした。


ー教官は自分の拳を見つめた。

 (…手加減だと?俺はみせしめの為に急所を突いたのだ。クッ…そこまで私は老いぼれてしまったのか…?)


 教官は鼻で少し溜息をつき、グラウンドに向かった。



 0415(4時15分) 行進開始


行進とは名ばかりの、

整列した状態での1km/4min.のランニングだ。脱落者も多い。吾郎も長らくその1人だった。

しかし入隊してしばらくした頃からは余り遅れをとる事もなく最後まで走れる様になってきた。


 …徹底した軍の栄養管理と最新健康医学は素晴らしい。それは高齢者の身体を40-50年程若返らせると言われているのだ。


 …しかし残念な事にそれが彼ら初老特有のひねくれた心を真っ直ぐにする事はほとんど無かった。


「なぁ、またあの前田ってタコのせいで20分も長く行進だ…。」

「あいつぁ新日本軍の恥だ。」

「どうする?いっちょボコって俺ら専用のパシリにでもするか?」

 

 行進中の誰彼の会話が吾郎の耳にも入ってくる。


 その時1人の背の低い男が声を掛けてきた。

 (佐藤)「…なぁ、ゴロちゃん。あんたマズいよ。ちょっとヤラかし過ぎだよ。これじゃ敵じゃなくて先に仲間にやられちまう。」


 柴又の元魚屋の佐藤だった。

 吾郎の自宅からわりと近所という事で、入隊直後から親しくしていた。


 吾郎は眉を八の字にして言った。

「仕方ないよ。俺、精一杯でこんなだもん。だから教練に付いて行けてるだけでいいんだ。それ以上は贅沢だよ。頑張っていつかかあちゃんに楽させたいからね。」


 「ゴロちゃんあんたって…、割と江戸っ子だね。純だ。」佐藤は同情混じりに言った。


 「そんなのサトちゃんもだろ? まぁ俺らみんな同世代なんだし、そのうちちゃんと話せば仲良くなれるさ。」


…訓練から3ヶ月、いつも間にか前期高齢者(新日本軍第37期生)達全員が、ほぼ2時間全力疾走しながらもこんな会話が出来る体力が付いていた。

 




(通信終了まであと1分)

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<sideB>


 世界中で行われているブートキャンプ…老人への過剰なトレーニングと反老化薬剤のオーバードーズ、遺伝子組換え施術の結末…


 彼等はとうとう『寿 命』という曖昧な概念を超越した。


 文字通り"死 ぬ"ような訓練と忍耐を経て、


 ついに『不 老』を勝ち得たのだ。


 不慮の出来事にさえ合わなければ、永遠に命は続くのだ。


 …しかしその結果が『揺籠から戦場まで』を終わる事なく繋ぐこの社会が加速させてしまう事となってしまった。


(通信終了)



-log-

2136年6月11日


…国東京都足立区リト…ムンバイコ…ュニティ前
















  

  


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