第1話 Drifting on a reed.

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(通信開始)


<sideA>


sample:前田 吾郎(まえだ ごろう)

age:64歳 

family:妻 1 子 1

region:東京都アンダーカツシカ区


 ここからは定年退職を翌年に控えている彼の人生からこの世界を紹介する。


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……「…部長! …前田部長!!」


前田)「ん? あ、あぁ 常田君か。どうした?」


常田)「どうしたじゃないですよ〜。最近よくボーっとされてますけど、大丈夫っスか? あの、例の三ツ橋工房さんの企画書って、部長まだ目通してくれてませんよね?」


前田)「ありゃあ! しまった!! ごめん常田君。夕方までに終わらすわ。もうちょっと待ってて!」


常田)「もお頼みますよぉ…。まぁ前田部長は俺の心のGranpaなんで(笑)別に良いですけどね!でも来年定年ですよね!?前田部長にちゃんと軍人が務まるンスかね〜(笑)。」


前田)「…常田君(苦笑)。君のジジってのはちょっと酷くないかい?

 でも…僕は入隊はしないつもりなんだ。性格的にどうも…ね。」


常田)「!まじっスか?いやいや!! ここの退職金なんて『スズメノナミダ』みたいなもんって部長前言ってませんでしたっけ?

 …一体どうするんすか?民間の再就職先なんてもうコネでもない限り皆無っスよ。」


前田)「うーむ……それはそうなんだけどね…。僕にはドンパチの世界はやっぱり向いてない気がするんだよなぁ…。」


常田)「またそんな事言って!奥さんはどうするんスか!? ここは一発ビシッと入隊して退役後に絢爛優美に余生を送りましょうよ!」


前田)「ビシッと、かぁ、、。」


常田)「そうっす!一昨年定年になった山中課長って居たでしょ? あの人今、米軍との合同作戦中で、南イエメンでバリバリ活躍してるみたいですよ!

この間も反政府軍のトラック5台爆破したってblogにアップしてました。 今やイエメンで“オニノヤマナカ”と言えば有名だそうですよ!」


前田)「ーそうなんだ。 …あの山中さんがなぁ。ブービートラップの名手だって? うちではいつでもコピー機の前にいる“コピーのヤマナカ”だったのに。」


常田)「ー少しは知ってるんですね。

そうですよ!めっちゃ頑張ってるんです。

あ、あと去年退職したシルバーの小畑さんは

フランス外人部隊とのチームで、検挙は100%不可能と言われていたルーマニアンマフィアの大物の捕獲に成功したらしいですよ。

単独潜入中の小畑さんが撮った写真が逮捕の決定打になったようです。」


前田)「…小畑さんって昔っからコアな盗撮マニアだったんだよなぁ。 一度女子大生に訴えられかけて200万円払って和解した事もあったっけ…。」


常田)「い、今輝いてるからいいんスよ!

  部長もそんな皮肉ばっか言ってないで一旗上げてくださいね!応援してますから。 

 あ、じゃ、その前に今日中にその企画書頼んます!(笑)」


前田)「あぁ。またね。常田君。」

 …全くお節介な奴だなぁ。でもホントに俺の孫でもおかしくない歳なのに、今の子はちょっと…しっかりし過ぎだよなぁ。

 やはりもっと若者らしく…あ!いかんいかん。企画書に目を通さないと。

 うわわ何ページあるんだよこれ…。



    ※ 一年後 ※



社員A)「お疲れ様でした! 部長。」


社員B)「お元気で。 前田さん!」


社員C)「寂しくなります(泣)。 私が新入社員の時からいつも色々…。」


前田)「いや〜。みんな、ありがとう。 本当に僕は幸せ者だよ。 プロジェクトの成功を一緒に見れないのは残念だけど、

 …皆で頑張って成功させて下さい。」


社員A)「わかってますって。うぅっ(T . T)

わかってますよ部長。それより、今後の予定はどうなんスか?」


社員B)「やっぱり新日本軍入隊ですか?」


社員C)「今はもう大した資格のない定年退職者の働き口なんてありませんしね。」


社員B)「部長なら薄くてどこにでもハマりそうだから再就職先もありそう。」


社員C)「まさか…無職ですか(笑) ?前田部長。」



前田)「…参ったな。君たち言いたいこと言ってくれるね(苦笑)。 僕は健康でどうやら長生きしそうだから(笑)、寿司職人見習いにでもなろうかと思ってる。 自分より若いオヤジにドヤされるだろうけど、なに、君たちの相手をしてると思ってればいいさ(笑)。」


社員A)「酷いですよ〜部長!!。…(涙)でも応援します!しっかり頑張って下さいね!」


前田)「ありがとう!みんな。本当にありがとう。ありがとう…。」



   ※ 半年後 ※


 

(掃除機の音) ヴォーーン


お母さん)「…あなた。お父さん!ちょっと掃除の邪魔よ。そろそろコタツから出て。」


前田)「うーむ……ここが1番居心地が良いのに。」


お母さん)「全く…2つや3つ面接断られたぐらいでやる気無くされちゃ困るわよ。 私のパートが無かったらどうする気だったの? 

…やっぱり軍隊入れば?内勤になるかも知れないし。」


前田)「うーん。でも、、

 いや…まぁ就職先これ以上探すのも面倒だしちょっと話だけでも聞いてくるか。」


お母さん)「嬉しい!(笑)やっとやる気になってくれたのね。 ほら、従軍中はJRフリーパスが貰えるって言うじゃない?  休日にはまた昔みたいに旅行に行けるわね。」


前田)「全くかあちゃんはいい気なもんだよなぁ! 俺が死んだらどうするの? 向かいの安川さんとこみたいに。」


お母さん)「だって安川さんは競輪にハマって物凄い額の借金があったのよ? 借金返すための手当て目当てで毎回最前線を希望してたんですって。 そんな事してたらそりゃ、いつかは弾に当っちゃうわよ。

お父さんみたいな戦う気のない人は出撃なんてさせて貰えないわよ。きっと。」


前田)「俺に戦う意志がないだって?…いや、まぁ、そうだけど…。

とりあえず説明会毎日してるみたいだし、お昼食べたら行ってくるわ。」


※ ※ ※


… こうして、吾郎は説明会に出掛けるためにサンダルをつっかけ、何となくそのまま入隊してしまった。


ー吾郎の第二の人生が始まる。

 




(通信終了まであと1分)

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<sideB>

 

…最初は上手くいっていたんだ。

 彼等も正気を保っていた。


 そんな彼らを国家は何度も何度も戦場へ送り込んだ。


 老人達は、"いつになったら終わる?"

     "いつ平和が訪れる?"

     "後何回出撃すればいいんだ。"

  …との質問を繰り返していた。


 そして出兵だけの余生だと気付き…やがて

 

 感覚は麻痺し、

 自意識は団塊化していくー




 そして彼等はついに、

 本当の敵が誰なのかを悟った。


(通信終了)



-log-

2136年6月2日


…国東京都新宿警戒区域内 …駅跡地





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