第13話 君を殺す前に

「皆さんは”憧れ”という感情の扱いは分かるだろうか?」



死猫は独り言を言っていた。



有名人への憧れ、金持ちへの憧れ、尊敬する人への憧れ、いろいろあるが、死猫が憧れに憧れていたのは”死んだ生き物”だった。


正確には、”死ぬこと”に憧れていた。


自分も死にたいのだ。



死猫が殺した生き物は、人間含め度々いるが、その中でも一番憧れたのは、あの車に轢かれて瀕死だった猫、ニーナだ。


何故ニーナだけにそれほど憧れるのか死猫本人にも分からなかったが、まあそれはいい。



死猫は自身の強い、強すぎるほどの”憧れ”の感情に苦しめられていた。


どれだけ憧れても叶うはずがないのだから、苦しむのも当然だ。



「ニーナになりたい」



ただ死ぬのではなくて、ニーナになりたい。死んでニーナになりたい。そう思った。


死ねばニーナになれると思った。


だから、同時に、ニーナになれないと思った。



なんだか、もう一度、君を殺したい。



そんなことも思った。



もう一度、君を殺す前に、私はこんなに苦しかったんだって、君に知ってもらいたい。



そんな無理な願望が、次から次に溢れてくる。



死猫には、できないことがある。


死んだ生き物を、生き返らせること。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る