第13話 好きだから、死んで

それは寒い日。

死猫は暖かい場所で寝ようと、民家に忍び込んだ。

すると、住人一家は、子供の誕生日を祝っていた。

「ハッピーバースデーディアつむぎちゃん…」

つむぎという名前の子供がふーっと火を消す。

部屋に電気がつき、「プレゼントは?」と子供。

「はいはい。今渡すから」


何とも楽しそうな彼らだが、人の心が少し読める死猫には、子供が浮かない気分でいることが分かった。


彼らの食事が終わり、子供は自室に行った。


子供、つむぎちゃんは、クローゼットからベルトを取り出し、カーテンレールに引っ掛けた。

その輪っかに首を入れる。

自殺?と思っていると、つむぎちゃんはそれをやめてベッドに入りスマホでネットを見始めた。検索ワードは、『犯罪 黒い服 少女』。

検索結果は、空き巣から殺人まで、今までの死猫の完全犯罪の数々だった。死猫は時々防犯カメラに映っていたり、目撃者がいたりと、その存在を徐々に知られつつあった。

まあ関係ない。捕まるわけがないし、捕まったところでいくらでも逃げられる。


なぜこの子がそんなものに興味があるのか。


翌日、つむぎちゃんはまた自殺を試みていた。とあるマンションの20階から地面を見ていたので、自殺だと思った。


「なんで死のうとしてるの?」

死猫がそう聞くと、つむぎちゃんは振り向き、死猫を見て固まった。ネットで見ていた、いろんな未解決事件の犯人と言われている少女にそっくりだったから。


死猫「昨日さ、ベルトで首吊ろうとしてやめて、その後ネットで私のこと見てたでしょ」


つむぎちゃん「……窓から見てたの?え、でもスマホの画面なんて窓からは見えないよね……」


死猫「死にたいなら手伝ってあげるよ」


つむぎちゃんは、「……はるとくんに誕生日忘れられたから死にたい」と独り言のようにつぶやいた。


「でも、本当ははるとくんを殺したい」

つむぎちゃんはまた独り言のようにつぶやいた。


「殺してあげようか?」死猫にとってはなんでもない提案だったが、つむぎちゃんにはまたとないチャンスに思えた。


「どうやって完全犯罪してるの?」つむぎちゃんが聞くと、「ああ、透明人間になってるだけだよ」と死猫はつむぎちゃんに信じてもらえるように、透明人間になって見せた。




つむぎちゃんははるとくんのことが好きだった。しかし脈無しなので、死んでほしかった。おそらく、はるとくんに死んでもらいたい理由はそれだけではないが、つむぎちゃんが死猫に話した動機はそれだった。


「事故に見えるように、ここから落としてね」


つむぎちゃんは、自殺しようと下を覗き込んでいたその場所から、はるとくんを落としてほしいと要求した。

そこは、はるとくんの家の玄関前だった。


「はるとくんが玄関から出てきたところを落としてほしい」とつむぎちゃん。

「任せといて」と死猫。


「私はここで見てるから」と玄関先に座り込むつむぎちゃん。

つむぎちゃんは、はるとくんが落とされるのを見たいらしい。


1時間くらい待機する2人。

途中、はるとくんのお母さんが外出する際に鉢合わせたが、つむぎちゃんと死猫は「あ、こんなところで遊んじゃってすみません。景色が良くて」と適当に挨拶した。

その30分後、やっとはるとくんが出てきた。

一瞬沈黙する3人。

死猫は、はるとくんが困惑していて無抵抗なうちに、はるとくんをフェンスの外へ投げ落とした。落ちたのを確認するように下を覗くつむぎちゃん。20階から落ちたら助かるわけはない。


捜査は混乱した。事故にしては不自然、しかし近くにいたつむぎちゃんが突き落とした証拠は何も出てこない。


1~2時間も玄関前にいれば、はるとくんの母親の他にも数人がその様子を目撃していた。


つむぎちゃんと、黒い服の少女がはるとくんの家の前にいた、と証言する人がちらほらいたが、それ以上どうにもならなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

超能力猫が願いを叶えると言っています 妖病 @Nina13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ