第11話 幻覚

死猫はこの頃、幻覚を見る。

いや、それらが幻覚だというのは、死猫がそう結論づけたものだ。

なんか怖かったから。

幻覚なのかそうじゃないのか、それは今のところ分からない。


目が4つあるお婆さん「お嬢ちゃん、何か望みはないかね?もうそろそろ私は誰かの望みを叶えてあげないと死にそうなんだよ」


死猫は「それは私のセリフじゃないか」と思いつつ、このお婆さんがどうして自分と似た境遇なのか気になった、というより怖かった。


ここ1ヶ月ほど、道端で人じゃないものが歩いていたり(妖怪のような…)、双頭の犬が散歩していたり、何より気になるのが、力の発散に利用しようと声をかけた子供の眼球が無く血だらけだったりして(痛がっていないので多分人間ではない)、発散が思うようにできないことだ。死猫は定期的に超能力を使って力を発散しないと身体が苦しくなってしまうのだ。


どこかで見聞きしたような現象ばかり起きるので、力を使いすぎて疲れて、幻覚を見ているのだ、と思っていた。


しかし、話しかけてくるタイプの幻覚は初めてだった。

「望みを叶えてあげないと死にそうなんだよ」

おせっかいをしないと寂しくてしかたない、という意味なのだろうか。


幻覚のことを誰かに相談したいが、普通の人間相手に「幻覚が見えるんです」と言ったところで何も解決しない。かと言って病院にでも行き医者に相談するわけにもいかない。検査などしたにしても、身体が人間のものではないことが分かってしまったり、身元不明なことを怪しまれたりするかもしれない。なので、「(お婆さんには)どう考えても関わらない方がいいよな」とは思うが、ひとつだけ聞きたいことがあった。

「私を殺せますか?死にたいんです」

お婆さんは4つの目を少し見開いた。

一般的な自殺方法や殺され方では死ねないが、人間ではないこのお婆さんになら自分を殺せるかもしれない。


それと、もうひとつ質問を思いついた。

「あの…あなたは、どうして誰かの願いを叶えないと死にそうなんですか?」


「あんたと同じだよ。」お婆さんは答えた。

「同じってどういうことですか」死猫は再度質問する。

「あんたも力を使わないといけないんだろう?息しないと苦しくなるみたいに」お婆さんは言った。

初めて同じ境遇の人に出会った。この人にいろいろ聞けば、自分の正体を少しは掴めるかもしれない。どこから生まれ、どうしたら死ねるのかを。

あれ、でも、どうして私が力を使わないといけないって知ってるんだろう。


「その婆さんに騙されるな」

今度は、お爺さんが現れた。このお爺さんは見た目は普通。でもお婆さんが見えてるということは……この人も幻覚?


死猫「騙されるなって……?」


お爺さん「その婆さんは人の過去が見える。だからおまえの事情も知ってる。婆さんの力を借りたらとんでもない目に合うぞ」


とんでもない目……


このお爺さんは何か知ってるかもしれない。


「あの、私はいわゆる不老不死なのですが死ぬ方法とか知りませんか?」

ダメ元で聞いてみる。


「知らん」


知らないのか、興味がないのか。まあ仕方ない。


「おまえ幻覚が見えるんだろ?それの治し方なら教えてやってもいいぞ」とお爺さん。


「本当ですか!?」死猫はテンションが上がる。


「その爺さんに騙されるな」

どこからか今度は子供の声。


「え?」


「その爺さんは人に幻覚を見せて精神的に追い込んで、おまえみたいに苦痛から逃れている。治し方なんか教えるはずない」と子供。


「そのガキに騙されるな!俺は…」とお爺さん。

今度は別のお爺さんが出てきたわけではない。


が、もう誰も信用できない。


死猫は質問を諦め、走って逃げた。

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