第9話 ニーナ

 死猫が超能力の発散相手たちに不思議な体験をさせてきたように、不可思議な体験に、それをさせている犯人がいるのなら、私が超能力に振り回されているのは、誰の仕業なのだろう、いや、何が原因なのだろうと、死猫は思う。

 もしも、私にこんな力を使わせている”誰か”、もしくは”何か”があるのなら、それを突き止めたいと。


 ………と、ずっと前から思ってきたが、そんなこと、無理難題である。


 昔、死猫がこの世界へ来る前は、こことは違う異次元にいた。そこは、重力のない、ただ荒れた世界だった。死猫は一人、そこにいたのだ。


 今の世界へ来て、初めて自分以外の存在と出会った。人間や動物。元いた世界では、死猫は黒いネズミのような姿だった。目が大きく、猫のような耳の、ネズミ──。


 なぜ今の世界へ来たのかは、死猫にも分からない。気がついたら、猫と呼ばれる生き物にそっくりになって、そこにいた。


 ──この世界に、あなたしかいなかったらどうしますか。


 それは、死猫が、自分以外の他者が存在するこの世界にいる時にしか訊けないことだ。


 ──死んでから真っ暗な場所で、”この孤独に耐えられなかったから、自分以外の人がいる世界に生まれたという夢を見ていたんだった”と思い出したら、どうしますか?


 死猫はそんな質問がしたくなるような、どこだか分からない世界に生きている。今も。


 ──だから、温もりのある世界にいる、今のうちに、自分以外の何者かと、強い接点を持ちたかった。


 あの白い猫。

 死猫が死なせた、あの白い猫だ。

 だから殺した。


 案外、この無限の不老不死に、原因なんてなくて、ただ”死ねること”、それだけが尊いのかもしれない。


 とすると、死猫にとってこの世界で、いや、どの世界もひっくるめた世界で、一番大切なものは、あの白い猫だ。死ねる猫。いや、私が死なせた猫。


 死猫はそんなふうに思った。


 ひょっとしたら、その死ねる猫ですら、生まれ変わりを繰り返していて、そういう意味では、不老不死なのかもしれないが。


 死猫はその猫に名前をつけることにした。猫、から取り、ニーナと呼ぶことにした。猫、ニャー、ニーヤ、ニーナ、というわけだ。

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